陰に咲く花   8


今、何時だろうか?

アレルヤは目を覚ました。
白い天井、一人ベッドの上に寝かされていた。

起き上がると、初めに連れて来られた医務室より造りが違う。
捕虜用のベッドだろうか?

自分の体を見ると、何もなかったかのように綺麗にされていた。
白い拘束服の汚れもなく、体の不快感もない。

「いた・・!!」

下腹部に鈍い痛みを感じた。
そう思えば体が痛い。


「そうだ・・・僕・・・。」

蘇る一番新しい記憶。
グラハムに処女を奪われた記憶。

「あ・・・あぁぁ・・。」

消し去ってしまいたい記憶、でも脳裏に焼きついて離れない。

「イヤだ・・やだよう・・・。」

『アレルヤ・・!!』

「え・・。」

『アレルヤ!聞こえるか?!』

「ハレルヤ!!!」

突如、ハレルヤからの声が聞こえた。
やっとハレルヤからの声が聞こえて、アレルヤの心は少し晴れた。

『アレルヤ・・大丈夫か?』

「・・・遅いよぉ〜ハレルヤ・・・。」

『悪りぃ・・アレルヤ。お前は俺が・・・・』

ハレルヤはアレルヤの脳裏に残る記憶を感じ取った。
自分が眠ってしまっていたばっかりに、アレルヤに辛い思いをさせてしまった。
そして、アレルヤを傷つけた金髪の男に殺意を覚える。

『アレルヤ、心配するな。アイツは俺が必ず殺す。』

「ハレルヤ、僕もう嫌だ・・・。ここから抜け出したい!!」

泣き出すアレルヤに、ハレルヤは優しい声を出してアレルヤを勇気付ける。

『そうだな・・・いっちょやるか。ここから出るぞ。アレルヤ。』

「でも・・どうやって?」

簡単に逃げると言い出すハレルヤに、アレルヤは首をかしげた。
ハレルヤはアレルヤにここの状況を聞きだす。
地理的なもの、見回りの時間と人数。
食事を持ってくる人数と時間。

「でもハレルヤ、僕キュリオスをオートマモードで・・・」

トレミーへもどしてしまったのだ。

『それは分かってる。だからヤツラの掻っ攫うんだよ。』


だから暫く体を渡せとハレルヤは言った。
アレルヤは疲れてもあったから、ハレルヤに体を渡した。

「くくく・・・。見てろよ?アレルヤを泣かせた罪は重いぜ?」

それから暫くはハレルヤは大人しくしていた。
コツコツと足音が近づいてくる。

「おい、起きてるか?メシの時間だ。」

扉が開くと一人の兵が食事を持ってきた。
トレーごとベッドの横にある棚に置くと、そのまま去っていった。
時間になると取りに来るらしい。

『・・ハレルヤ?』

今にでもとってかかるハレルヤなのに、今は大人しい。

「心配するな。腹ごしらえだ。に、してもお前結構痛めつけられたな。体が痛てぇ・・・。」

『・・・・。』

「あ・・わ!!泣くなよ。俺が悪かったって!今度こそ俺がお前を守ってやるから!」

『本当?』

「あぁ・・だから泣くなアレルヤ。俺はずっとお前の傍にいてやるから。」

『ハレルヤ・・。』

アレルヤは安心して、そのまま眠ってしまった。


ハレルヤが食事を済ませて暫くすると、さっきの兵がトレーをとりにきた。

「何だ?いつも少量しか食べないくせに今日は食べるんだな?
 そんなに大尉はお前に激しかったか?・・クク・・。」

男はアレルヤが今日どんな目にあっているか知っている。
皮肉を込めて、トレーを下げた。
幸い、今ハレルヤを戒めているものはない。

きっと動けないだろうと甘く見ているのだ。

男が後ろを向くと、ハレルヤは気配を消して男を殴り飛ばした。

「がはぁ・・!!!」

「へ・・!!ざまぁねぇな!」

一発で気絶させると、男の持っていたナイフと拳銃を横取りする。
ここで銃を発砲させて回りに気付かれるのはまずい。
ハレルヤはナイフで、男の左胸を刺した。

「へ・・・アレルヤを変な目でみたバツだぜ?」

他に使えそうなものがないか、男の身ぐるみを全て剥がす。
食事を取り下げてから見回りまで2時間。
ソレまでに怪しまれずに外に出なくてはいけない。


「と・・コレももっていくか、念のために・・・。」


ハレルヤは男のIDと、男の着てる服を着た。
これで少しは他人の目は誤魔化せるだろう。


「へ・・・超兵なめんじゃねぇっての。」


ハレルヤはいとも簡単に、部屋から抜け出した。
外に出ると、長い廊下を走り、なるべつ人と接触しないように回り道をする。
今の時間は昼間と違ってあまり出歩いてる人も少ない。

好都合だ。
ここの地図もあれば本当はよかったが、生憎そんなものはない。
己の経験と本能でなんとかするしかない。


「へ・・コイツはついてるぜ。」


ハレルヤの入った部屋は機械室だった。
ここで少し基地内の地理的なものが分かるだろう。
IDを入力してデータを盗む。

目的の場所を見つけると、すぐにそこへ向かった。









「あれ、グラハムどこにいくんだい?」

「アレルヤのところだ。」

「彼女大丈夫なのかい?君ちょっと無理しすぎだよ。」


「なかなかしぶとくてな、大分手荒なマネをしたよ。どこであんな強い精神を手に入れたのか気になる。」

「大変です大尉!」

「何事だ?」

「その・・捕虜が逃げたんです。食事を下げに行った兵がやられて・・。」

「なんだと!」


それから基地内に非常ベルが鳴った。
捕虜が逃げたと基地内は大騒ぎだった。

「ゲ、もうバレたのかよ!」

まだ一時間も経っていないのに!

「まぁいい、今バレたって遅ぇよ。」

幸い帽子のお陰で顔は見れないし、目的地までは目の前だ。

ユニオンが誇るフラッグ。
使い方はガンダムと異なるがなんとかなるだろう。

「見つけた。」

適当に近いフラッグのハッチを開けると、起動させた。

「おい、お前そこで何をしている?」


ハレルヤの行動に不審に思った兵が一人、声をかけてきた。
ハレルヤは気にせずフラッグを動かす。

「おい!何をしている?所属と名前を言え!どこの部隊だ!」

「へ!そんなの知るかよ!!」


壁をビームで破り、上手く飛び出す。


「・・・さて、これからどこに逃げるかだ。」

このまま遠へ行ってこの機体を乗り捨てなければならない。
センサーに反応する為、早く人目の着かないところに着陸したい。



<逃がさないぞ・・ガンダムのパイロット!いや、アレルヤ!!>

「げ・・なんだ?こいつのスピード」

通信が繋がった。
声はグラハムだった。
モニターを見ると尋常ではないスピードで、ハレルヤを追ってきている。

「こんなフラッグあったのかよ?」

<ハハハ・・私の専用機だ。観念しろ、お仕置きが足りないようだな。>

「チ!」


捕まってたまるかと、ハレルヤも負けずにスピードをだした。
これぐらいのGなら耐えられる。

<どうやら、手を加えないといけないようだな。>

グラハムはミサイルを発射する。
ハレルヤは持ち前の操縦能力で交わすが、慣れない機体の為神経が削られる。

「くそ・・ここで捕まってたまるかっての!」

<ふ・・逃げられないよ君は・・・。何故ならアレルヤ、君は私に捕まるために存在するのだから>

「フザけんなよ!」

グラハムのキザな台詞に血管が切れる。
荒い操縦になり、ハレルヤの乗っていた機体はグラハムの撃ったミサイルに直撃した。

「ゲ!!」


操縦がきかない。
システムエラーとモニターがエラー音を鳴らした。
このままでは上手く着陸できないまままっさかさまだ。

「クソ・・!!このまま死んでたまるかよ!」

なんとか動かそうとボタンを押したり、ハンドルを動かすが反応してくれなかった。


「クソ・・・!!アレルヤぁぁあぁぁあああ!!」


ハレルヤの乗った機体は、地面に叩きつけられその瞬間炎上した。


<なんという事だ・・・。これでは・・・まぁいい。捜索部隊の要請をしなけば・・・。>


グラハムはいったん基地に戻る事にした。




「う・・・・・。」


近くでパチパチと火が燃えるとこが耳に入る。

「は・・ぁあ・・・。」

ハレルヤは目を覚ました。
どうやら生きているみたいだ。
地面に叩きつけられた瞬間、幸運にもコクピットからはじき出されたのだろう。

それでもまたココから離れないと、いつまた機体が爆発するか分からない。
逃げたいが全身を強く打って動けない。
それに昨日はアレルヤの受けた拷問もキズも癒えていない。

万事休すだ。


「アレルヤ・・悪い・・。・・・・アレルヤ・・・。」


そのままハレルヤは気を失ってしまった。






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