陰に咲く花   11



あの後は特に揉める事無く、クジョウ達は修道院から帰っていった。
アレルヤはちゃんと自分を心配してくれる人がいただけでも大収穫だった。

名前はアレルヤ・ハプティズムで、王留美さんの企業の幹部だったらしい。
その上司にあたるのがクジョウさん。
同僚のロックさん。


「カッコイイ人だったね。」

「何?アレルヤ戻らなかった事後悔してるの?」

「そんな・・・仕事のシの字も忘れた僕が戻っても、会社に迷惑がかかる。」

「でもさ・・・アレルヤ・・・。」

「何?アリサ?」

「アレルヤ・・・記憶が戻ったら帰っちゃうの?」

「え・・・・?」


それは素朴な疑問だったが、大きな問題だ。
ここへ来る女性は、花嫁修業か、俗世をすてて神に身を捧げるのどちらかでアレルヤは例外なのだ。


「アレルヤ・・・の知ってる人がいて、さっき連れ戻しに来たわ。アレルヤはいなくなるの?」

せっかく出来た仲間がいなくなるのは寂しいとアリサはいう。
アリサの様に生涯修道院にいる人は少ないのだ。
大半が花嫁修業の期間限定で終わってしまう。

アレルヤも花嫁修業を終えて帰っていく女の子達を何度も見てきた。

今まで仲良くやってきた仲間がいなくなるのは淋しいのだろう。
アレルヤもアリサの立場だったら、かえって欲しくないと思うだろう。

「僕まだ分からない。記憶が戻ってからになっちゃうな。」

「そう・・・。」

「でも、ここにいるのはとても楽しいから出来る限りはここにいたいという気持ちはあるよ。」

「アレルヤ・・・。」


アレルヤの答えに少しほっとしたアリサだった。


「ね、二人ともちょっとコッチきて!」

アレルヤとアリサが話していた時、他の修道女が二人を呼んだ。
最近入ってきた良家の子女が持ってきたテレビ。

俗世と切り離された生活をしていた修道女は世間を知らない。
それでは困ると、新人の子の親は彼女に家に帰っても世の中の変化がわかるようにと持ってこさせた。

「どうしたの?」

「コレ見て?」

テレビなんて修道院になかったので、多くのシスターがテレビに釘付けだった。
どうやら彼女は、修道長に一日に一時間のニュースの時間にテレビを見ることを許されている。
他の修道女も好奇心で見ていたら、世の中は大きく変わっていたことに気付かされた。

「なんだか大変な事になっているわね。」

「私設武装組織?」

「ソレスタルビーイング?」

「怖いわね・・・。」


ニュースは必ずソレスタルビーイングの動きのまとめから始まる。
行動の動機と傾向。評論家が対談しているのが見えた。


「・・・・。」

「アレルヤ?」

「・・・・。」

「アレルヤ?!」

「え・・・?」

「どうしたの?ボーっとして・・・。」

アレルヤはこのニュースが異常に気になった。
どうしても無視できないようなそんな感覚。

無視しない人なんていないけど、普通の感覚とはちっと別の次元。

なんだか他人事ではないような・・・・・。


『アレルヤ、さっきからアリサが不安そうにお前の言葉をまってるぞ?』


「え・・!あ・・・ごめん。僕、ボーっとしてたよ。」

「もう・・。たしかにこんなの見たらビックリするよね。」


武力介入の数々、圧倒的な強さで平和を手に入れるのはありか?
平和主義者の多いここは、皆怖がり、悲観していた。
こんな事して何になるのだろうかと。

「怖いよね。こんな事平気で出来ちゃうんだね。」

「うん・・・。」



その日、アレルヤからソレスタルビーイングの文字が頭から離れなかった。
むしろ脳に焼き付いてしまったかのように、常に意識と共にあるような感じがした。


『・・・テレビなんか見やがって・・・まぁ、いい。』


その日からアレルヤは何をしていても上の空だった。

相変わらず、皆と一緒になって一定の時間にテレビをみて世間の現状を把握している。
どうやら最近はCBの動きはソコまで活発では無いらしい。


(どうして・・・・こんなにも気になるのだろう?)

特に映像で、緑の機体を見ると胸が高鳴る。
白黒の大きな機体を見るとなんだか悲しい気持ちになる。

青い機体はなんだか暖かい気持ちがする。


「一機たりない・・・。」

「え?何、アレルヤなんか言った?」

「わ〜すごいアレルヤ。よく覚えてたね。なんだがガンダムっていって4機あるらしいよ?」




キュリオス





「・・・!!」


「アレルヤ?」


一瞬アレルヤの体がはねた。
今頭をよぎった言葉は一体・・・?


「えっと4機あるの?」

「うん。オレンジ色がまだあるんだって、このタイプは最近出てないみたいよ。」

「そうなんだ・・・・。」

「どうしたの?アレルヤ顔色が悪いみたい。」

「えっと・・・その・・。」


『アレルヤ、お前休め。脳のリズムが可笑しいぞ。』

(え?本当に?)


「ゴメン、僕なんだか体の調子が悪いみたい。」

「そうなの?大変今日は休みなよ。」

「うん。そうさせてもらうね。」

「大丈夫?一人で部屋まで戻れる?」

「アリサありがとう。大丈夫だよ。」


付き添おうとしたアリサの行為は嬉しいが、迷惑をかけるわけに行かないので
アレルヤは一人で戻る事にした。
さっきから胸がドキドキしておかしいのだ。

病気的な痛みじゃなくて、もっとこう・・・・精神的ナ・・・・。

「ハレルヤ・・・僕、どうしちゃったの?」

『大丈夫だアレルヤ。俺がついてる。お前は暫くテレビを見ないほうがいい。』

「え・・・?」

『お前が可笑しくなったのは、アレを見てからだ。暫く落ち着くまでは見るな。いいな。』

「うん。わかった。」



ハレルヤの助言どおり、アレルヤは今後一切テレビを見なくなった。

でも、他の修道女を通じて情報は入ってくる。
人から聞く話からは特に異常はなかった。

(ハレルヤの言ったとおりだ。僕はテレビを見ないほうがいいんだね)

見すぎは目に悪いと言っていたし、このままアリサ辺りに聞いて知る方法に切り替える事にした。

それでもずっと引っかかっている言葉があった。



キュリオス


この言葉が忘れられない。
何の言葉だろうと、辞書で引いてみても見つからない。

でも確かにアレルヤの中でキュリオスという言葉は存在した。


「キュリオス・・・。」

















「・・・!!!」


「どうしたんだ?ティエリア?」


「あ・・今、キュリオスの目の部分が光ったような・・・?」

「本当か?!」


刹那は慌ててキュリアスを見るが、変わらず静止したままだ。
パイロットがいない今、キュリアスは静かに眠っている。


「・・・・アレルヤは、戻ってくるだろうか?」

「分からない。今の彼女じゃ、戻ってきてもな・・・・。」

「そうなだ。」


戻ってきたロックオンとスメラギの話を聞いた。
アレルヤは案の定、記憶をなくしていた。

普通の女性の生活をしていた。
CBの事はもちろん伏せておる。

アレルヤの現在の答えは戻ってくることには拒否している。
その方がいいかもしれない。


「だが、キュリオスのパイロットは彼女しかいない。」

「そうだな。」


刹那の強い言葉に、ティエリアはうっすらと笑った。












その夜アレルヤは夢を見た。

とても不思議で怖い夢だった。
自分は子供で、変な施設にいて酷い事をされていた。

助けてくれるのはハレルヤと、綺麗な白い髪の女の子。


でも、でもアレルヤはその私設から逃げ出だした。
人を殺してしまった。

逃げるために人を殺してしまった。


その感覚が妙にリアルで、前に一度経験したのではないかと思うくらいだ。


場面は変わって、アレルヤはパイロットだった。
飛行機のパイロットにでもなっているのだろうか?

高いところから下を見下ろすのは、とても気持ちいい。


ボタンを押したらミサイルがでてきた。


(やめて!!!!)


アレルヤはそう思っているのに、体はいう事をきかない。
建物や、森。人が乗っているだろう機体に次々とミサイルを撃ち込む。



「いややぁぁぁああああぁぁぁ!!!!」




未だかつて無い悪夢に、アレルヤは真夜中目が覚めた。
寝汗も酷い。


「なんなの・・・これ・・・?」


気持ち悪くて、また寝付くことなんて到底アレルヤには無理だった。





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