幼い果実  12





その日ククールは学校を休んだ。
この前の風邪で休んだ以来だった。
そもそもあの時は、風邪で休んではいなかったが・・・・・

もしかしたら家に帰っているのかもしれない。
いろいろマルチェロと話し合っているだろうか?



エイトはククールの席を見て、振り返り再び自分の目線に戻った。
















汗を大量にかいたククールはおきてすぐシャワーを浴びた。
今朝見た夢は覚えがある。
なんで今まで思い出せなかったのだろう?


あれは父の葬儀が終わったときの記憶だ。
別に知らない人だけじゃなかったし、いつも可愛がってくれる人もいたから何も警戒心なんてなかった。


別に恐怖でもない、疑問に残ることなどなかったから普通の記憶として流れていたんだ。
でも、今日改めて見て不審な点はいくつかある。


マルチェロが喪主で忙しかったのはわかる。
それにあの男も手伝っていて、終わったあとククールと一緒にいるのはおかしい。
父との仕事はこれからどうするのかとかあるはずだ。
逃げるように去っていったし、それにつれられていったのは見知らぬところだった。
今考えれば、家でもよかったのだ。
でも何で他の場所にする必要があったのだ?



幼かった分には何も抵抗がなかった。

はっきり思い出した。
また一歩真実に近づいた。


突然マルチェロが変化したのはこの記憶が原因なんじゃ・・・・?

その可能性は高い
帰るときに一瞬見せたマルチェロの表情がそう伺えた。


ガキながらにたいした記憶力だなと、ククールは自分の記憶に感心した。



「まさか・・・俺あのとき・・・・・・」









ククールがシャワーから出た後、マルチェロは今起きてきたようだった。
「兄今日は仕事あるの?」

「いや・・・・・今日は休みだ。もともと大学はとっくに休みに入っているしな。それよりお前はまだ20日までは学校だろ?」
「いいんだ、今日は休む。それより話があるんだ。」
「昨日したろ。」
「それとはまた別なんだ。」


ククールが必死だったので、マルチェロは何も言えなかった。
昨日以外に今更一体なにがあるのか?

「まぁ・・座れ。」
「昨日と同じジャン。」
「やめてもいいんだぞ。」
「わりぃわりぃ。」

「で、何なのだ?昨日はなしたのでは足りないのか?」
「違うんだ。今朝なんだけど・・・とっさに思い出したことがあるんだ。」






「兄貴・・・一体親父の葬儀のときに何があったの?」

「!!」


マルチェロは今まで見たことない驚いた表情だった。

「覚えているのか?」
「いいや・・・さっき思い出した。」


「そうか・・・」


「うろ覚えなんだ。なぁ兄貴・・・あいつ俺を誘拐して兄貴を・・・・」





「お前の推測は正しいよ。」


ククールが言いかけていたのをマルチェロは聞かずに言葉を放った。

「お前がいなくなって、みんな探していたんだ。お前があの男と一緒にいたのを目撃した人がいてな・・・。
 丁度、その男から電話が来たんだ。」
「そうだったのか・・・俺馬鹿だったな。ノコノコついていって・・・。」

「気にするな。仕方ないことだ。あいつは私達に良くしてくれたし、私も信頼していたからな。 
 私もあいつがいれば安心だと思っていたからな。しかし、現実は違っていたようだ。」
「え・・・?」

マルチェロは暗い顔になった。
ククールは息を呑む。


「電話の内容は脅迫だった。
 お前の命と引き換えに、会社の社長の座を渡せと・・・・。」


”それじゃお兄さんよろしくね。”
じゃぁ・・あの言葉はマルチェロはその男の要求を呑んだのだ。

なんで兄貴が後を継ぐのを放棄した理由がやっとわかった。
だってあの時はもうマルチェロは大人顔負けの実力は持っていたのだ。

自分のせいだったのだ。
自分が・・・重荷になっていたなんて・・・・



「でも、なんとか財産は守った。そうしないと兄弟で路頭を彷徨うことになるからな。あの男は底まで欲は深くなかったわけだ。」

「・・・・」

知らなかった。
知らなかった今まで・・。


まさかこんなことになっていたなんて・・・


「ごめん・・ごめん俺・・」

「今悔いても仕方ない。お前はまだ幼かった。私も信用していたあの男を・・」


「あれが原因だったんだろ?その・・・・・。」

いつの間にか溝が深くなっていったのは
時々、ククールがいなければと考えてしまう自分。
ククールに対しての感情と自分との葛藤でマルチェロは神経がまいっていたのだ。

「もういい・・・ククール。悔やむことはもう終わりにしたい。それにお前に当たることももう・・・」



「もう終わりにしたい。お前は私にそのきっかけをくれたではないか。今そうしないとずっと繕う事が出来なくなってしまう。」

「ぷ・・!!」
「なんだ?」
「だって・・・ごめ・・・」


ククールは我慢しきれずに笑い出した。
さっきのマルチェロのいったことは前にククールがエイトに言ったこっとまるで同じだったからだ。
今しないと二度とないとか、きっかけとか全く同じだったから。

「ごめんだって、俺兄貴と同じこと考えててそれが見事兄貴とシンクロしてたから。」
「・・・そうか・・。じゃぁお前はここへ戻ってくるんだな。」

「え?!」

顔を見上げて見たマルチェロの顔は微笑んでいた。
いつもの冷たそうな笑みではなく、ずっと昔大好きだった兄さんの笑顔だった。

「あぁ・・・」


もう大丈夫だ。
自分もきっと笑える。


ククールもマルチェロに笑顔を返した。









こんな感じは数年ぶりだった。
やっと心から笑える日がきたんだ。

もう、ずっと無いと思っていたのに・・・。



「・・・はは・・・なんだが嬉しくて・・。」


ククールの目じりには大粒の何だが今にもこぼれそうだった。



「・・・・そうか・・・すまなかったな。」





ククールはその言葉を聴いたとたんもっと涙があふれてきた。
マルチェロは何もいわずにそっとククールを見守っていた。

嬉しくてククールは泣き止んだ後、精一杯笑った。


マルチェロも微笑み返した。



これでやっと戻れるんだ。

























「そっか・・・・良かった。」

次の日ククールはこの事をすぐにエイトに知らせた。

エイトもこの朗報には素直に喜んでくれた。

「で、家にはいつ帰るの?」
「あぁ・・夏休みには。」
「え?すぐじゃないんだ。」
「まあな、だって借りたばっかだしね。もったいないから20日まで。」

「そうなんだ。でも本当に良かったよ。」
「ありがとうな。エイトのおかげだよ。感謝してる。」

「そんな・・行動を起こしてちゃんとお兄さんと向き合ったのはククールだし。」

「でもお前のおかげだ。本当にありがとう。」


ククールはエイトに微笑んだ。
エイトはククールの笑みがいつもと違うように見えた。
ああ、そうかこれが本当のククールの笑顔なんだ。


いつもちょっと一線引いていたから気づかなかった。



「ククールちゃんと笑えるようになったんだね。」
「それは兄貴も同じだ。」
「そっか・・・」


「なぁ・・エイト」
「何?」


「俺達・・・友達だよな・・・・?」


エイトは少し驚いたが、何を今更かというようにそっくり返した。




「何いってるんだよ!そんなの当たり前でしょ!!」

エイトは親指を立ててウインクした。

「ああ!!」



もう、夏休み間近だ。


セミの鳴き声が響いていた。



「そう、夏休みはどうするの?」

「あぁ、兄貴と話して一回イタリアに帰ろうかと思って・・」
「どのくらい?」
「8月の十日過ぎには帰ってくるよ。」
「そっか、じゃあ帰ってきたら連絡してよね。」
「もちろん」






















終業式も終わり、夏休みは始まったばかりだ。
ククールはまだイタリアへ行く準備をしていなく、急ぎ足でうちへ帰る。


「やべぇ・・もう出発なのに・・もっと早めに準備しておけばよかった。」

成績表はあんまり悪くなかったので大丈夫だろう。
むしろ自分が思ってよりいいほうだった。
でもきっと兄からみたら悪いほうだろう。
マルチェロはまじめな男だから”授業でやったはずなのに何故出来ない”とかいいそうだ。



「ただいま〜!!」

「ククール、お前まだ準備が出来てないか?早くしろ!おいていくぞ。」
「わ〜!わ〜!まってまって〜。」
「全くお前というやつは・・・」

マルチェロもあきれていたが、ほんの少し笑っていた。

「兄貴待ってもう少しだから・・」
「待っててやるから早くしろ。」









「よ〜し出発!」
「全く・・国際線なんだぞ。普通は1時間も前に空港についてなきゃいけないんだ。これから30分前に間に合うかどうか・・」
「あ〜もう早く行こうぜ!」
「それはこっちの台詞だ!」



家の鍵はかけた。
エイト達のお土産リストも忘れていない。

なんか楽しい帰郷になりそうだ。


「なんだ?ずいぶん楽しそうだな。」
「あぁ・・だってこんなに幸せな気分は久しぶりだ。」

「・・・・そうかもな。いぞぐぞ。」
「オッケイ。」


日本の夏は湿気が多くて暑いな。
しばらくはそんな暑さからはお別れだ。
みんな元気かな?

そうだ、帰ったら一刻も早くゼシカに報告しなきゃ

俺達はもう大丈夫だって事を・・・
こんな俺達のために・・・・ごめんねゼシカ早く君に会いたいよ。
待ってろよ。お前の好きなヒマワリとマーガレットでいっぱいにしてやるんだから。



「なぁ、兄貴。」
「なんだ?」
「俺兄貴の弟に生まれて、良かった。」

「そうか・・・。」



「うん、俺はもう大丈夫。兄貴も大丈夫。それでいいんだ。」


ありがとうエイト、ありがとうゼシカ

俺達はやっと幸せに笑える。













------------------------END------------------------

やっと終わりました。
いつまで引っ張らせるの?いう感じになってしまってすみません
終わり方が中途半端←いや、いつもの事だから・・・
番外編でその後がちらほら書ければいいと思います。


ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございました。
途中で長くあいてしまいましたが、なんとか終わらせることが出来ました。





BACK