名画





「レオナルド作“白銀の美女”は落札されました。」

オークションである絵画が賭けられていた一枚の絵が鑑定書と一緒にある男の下へ送られた。
「ほう・・・これがかの有名な“白銀の美女”か・・」

美女の絵は綺麗に微笑んでいた。男は満足そうに、絵を包み帰って行った。

「これはいい・・・・あの少年にそっくりだ。」
男は馬車に乗り、去っていった。






マイエラ修道院は巡礼者が多い。世界三大聖地の一つとして名も高く、エリート僧達によって秩序が保たれていた。
最近の修道院はいい意味でも、悪い意味でも巡礼者が多くなってきた。

原因はククールにある。

彼目当てにより老若男女問わず現れる。寄付金も・・・・上がるばかりだった・・。
中には彼を家に呼び祈祷を依頼する者も多い。
彼が祈祷以外のことをされているなんて、皆暗黙の了解だった。



ある日、一人名高い伯爵がお布施として一枚の絵画を持ってきた。
マルチェロと院長はその伯爵からその絵を見せてもらった。


「・・コレは・・!」
「・・・・。」


院長とマルチェロは言葉を失った。

「・・お二人ならわかるでしょう?コレは流行り病で死んだ、ドニの領主の妻の絵画だ。」


一目見れば解かる。ククールの母親の肖像画だ。
銀色の髪、綺麗な蒼の瞳、愛らしい唇、白い肌どれも重なるものがある。


「あの少年と似ているだろう?思わず買ってしまったよ。それにコレはあの“レオナルド”作の由緒正しい芸術作品だ。
 あの少年にも見せてやりたい・・。」

マルチェロは絵画と一緒に鑑定書を貰う。

「・・・用心したまえ、その絵は魔力があるらしく人を惹き付ける。その絵に魅入られた者は多い。」
「・・面白い・・。」


マルチェロは伯爵の言葉にも臆せず笑う。


「そう、またあの少年を祈祷に呼びたいのだが・・・」
「かしこまりました。ククールに伝えておきましょう。」
「うむ、わかった。楽しみにしている。」

そう言い伯爵は、女神にお祈りをして帰っていった。

「院長・・。お願いがあります。」
「なんじゃ?マルチェロよ。」

マルチェロは貰った絵を見ながら、院長に頼んだ。

「この絵・・私の部屋に飾ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、かまわんよ。ククールにはどうするのじゃ。」
「・・あとで伝えておきます。」
「おぉそうか、お前が伝えてくれるのじゃな?」


オディロ院長は嬉しそうに、院長室へ戻っていった。
きっとマルチェロからククールへコンタクトを取るという事が、嬉しいのだろう。

 
マルチェロは、部屋に戻り早速飾った。



“白銀の美女”確かにその通りだ。魅入られるのは確かなのかもしれない。
領主の妻の肖像画・・ククールの母親。まさかこんな形で再会を果たすとは思っても見なかった。

「まさか・・・此処にこんなものがやってくるとは、めぐり合わせというものだろうか・・・」














最近のマルチェロはいやに穏やかな表情をしていた。それは他の団員から見ても明らかだった。
いつもなら、ククールになにかと嫌味を言うマルチェロが何も言ってこない。
それどころか、いつもなら団員の行動を常に見張るように回っているが、部屋に籠もり必要以外出ることはなかった。


不審に思ったククールは部屋に籠もったマルチェロの行動を盗み見ることにした。
夜マルチェロの仕事は終わるのが遅い。
見つからないようにマルチェロが団長部屋に入ったのを確認して、ドアに耳を傾けた何か声が聞こえた。


「・・・〜・・〜・・。」
「〜〜・・。」


ドア越しでもよく聞こえなかった。どうやら奥のプライベートルームの方で何かをしているようだった。
音が出ないようにそっと開けた。マルチェロは全く気づいていないようだ。ククールは青いつい立のところで身を潜める。
マルチェロは独り言を言っていたのだ。


「あぁ・・またこんな形で貴方に会えるとは思わなかった。」


中に誰かいるのか?でも、マルチェロ以外の声や気配等はしない。何かに語りかけているのだろうか?
ククールは慎重につい立から顔を覗き込んだ。


「・・・!」


 ククールは一生懸命声を押し殺した。一枚の絵画が飾られていた。
マルチェロはその肖像画に描かれている女性の唇と自分の唇を合わせていた。それはとても妖しく異様な光景だった。
それにその肖像画の女性の顔は・・・・


「母さん!」


思わず声を出してしまった。マルチェロも気づいて振り返る。

「・・・お前に気付けないなんて、私としたことが・・。」
「その絵・・・。」

ククールは思わず指をさした。なぜ自分の母親の肖像画が此処にあるのか?
「これか?お布施として頂いたのだ。」


 そういえばククールは子供の頃、そんな記憶があった。母親の絵を描いている絵師がいた。そうだ、あの時の絵なのだ。

「・・・そういえばお前の母親だったな。」
マルチェロはククールに近づき顎を掴んだ。
「お前のような奴をまさに、生き写しと言うのだな。」
ククールは何がなんだか解らなく混乱状態だ。


「あんた・・なんで?今・・俺の母さんに・・・ぐっ!」
「いい事を教えてやろう。ククール・・・。」


 マルチェロはククールの前髪を掴み、顔を近づけた。



「・・私は、お前の母親に恋焦がれていた・・。」



ククールを絵の目の前にこさせ、洋服のボタンをはずした。
「な・・・兄貴・・?!」
展開の速さにククールはついていけない。


「私はあの人や母のために・・・・この話はやめよう。」
マルチェロはククールを自分の前にもってこさせ、後ろから耳を攻めた。

「!」
「全く・・お前はいい身代わりだ。男として生まれてきたのが残念だ。」
「やめ・・」
「もし、お前が女に生まれてきていたら、私がたっぷり可愛がってやってのにな・・。」

前を向くと自分の母親の笑った顔が見える。恥ずかしい。
「お願・やめ・・・」
「やっと手に入れた身代わりだ。放すものか・・。」














マルチェロは乱した服を直し、気絶したククールに目をやった。涙の痕がまだ残っている。指で涙をとりその水分を味わう。
この味はあの人の細胞だ。それを考えると、ゾクゾクする。


「貴方はコレを見て、軽蔑するでしょうか?」


マルチェロはククールの母親の絵を見つめた。何も変わらなく微笑んでいる。

「貴方はいつもそうだ。いつも微笑んでまだ子供だと相手にしてくれない・・。」

手を頬に当てた。それは冷たく油絵独特の感触がある。
何も語ってくれない。ずっと恋焦がれていた人。

 マルチェロはもう一度唇を合わせた。それからは油の匂いと、感触が冷たくマルチェロの唇を冷えさせた。
唇を離し、ククールに目をやる。プラチナの髪の毛をそっと撫でた。少し反応が見られた。



「・・愛憎表裏一体というのは、まさにこの事なのだな・・。私も、お前も救われないな・・。」
 

身代わりがいるのに、忘れられない・・・
自分を見て欲しいのに見てくれない・・・




そんな一方通行の二人を、絵画の女は微笑み以外に与えることはなかった・・・。











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兄貴の初恋はククールの母親が希望なんです。
これは、マルチカリスマアンソロジーで投稿した小説。
読み直してみると恥ずかしいですね。

で、きっマルチェロはククールの母親にゾッコンだったらいいな。
ククママもマルのこと可愛がってたりするの。
追い出されそうなときも、必死になってかばって・・・なんてが私の理想。
そんな生き写しのククに悶々〜なんて・・・
実際はどんなんだろうか?


更新するもんなから乗せちゃったよ。
そうです。これを書いていたのが私なんですよ〜。





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