王宮のメヌエット 13




ガシャンとティーカップを落としてしまった。


「え・・・クロヴィス兄上、今なんて・・・?」

「だからルルーシュ、近いうちにシュナイゼル兄上がいらっしゃるそうだよ。」


ぬけぬけと、クロヴィスはニコニコスマイルでのほほんと述べた。
テロの多かったエリア11が、最近では怖いくらいに落ち着いている。
租界としての利益や経済もココ最近、他のエリアより群を抜いて上に立っている。


「ま、だから他のエリアにもとシュナイゼル兄上が偵察に来るようだ。」

日程を聞くと、丁度ルルーシュが学校にいる時間だ。

「どうやらその日は休むしか無いようですね。」

軍人という設定で通っているため、出席日数は幾分かは優遇されている。
しかし、ココ最近は総督業務も少なかったため学校を優先にしていたが、
どうやらここら辺で終わりのようだ。

「いいや、ルルーシュは普通に学校へ行ってくれてて大丈夫だよ。」

「しかし、私も副総督・・・本国の宰相閣下には・・!!」

「シュナイゼル兄上は、”ルルーシュは普通に年相応の楽しい時間を過ごしておいで”と
 伝言を預かっているんだ。ここは私に任せて楽しんでおいで。」

「兄上・・・!!」

優しい兄二人の言葉に、嬉しくて泣きそうになるのをガマンしたが、
次のクロヴィスの言葉で、その感動が水の泡と消える。


「で、本音を言うとシュナイゼル兄上はアッシュフォード学園でのルルーシュの生活が見たいそうだ。」


「・・・!!!!!」


・・・・あえて言わせてもらおう。

(こないでくれ。)


「どういう事ですが?私は学園では一般の生徒として通っています。
 シュナイゼル兄上のような皇族が来たら、学園がパニックになります。これでは・・」

ルルーシュが皇族を隠して学園に通っているいる意味がなくなってしまうのだ。
一体にバカ兄二人は何を考えているのだ?!

「落ち着いてくれ、ルルーシュ。何もお前の普通の学園生活を壊したいわけじゃない。」

「じゃ、なんなのですか?」

「バレなければいいじゃないか。ハハハ!」

(ハハハ!!じゃないですよ!!)











「で、シュナイゼル殿下が来るのは何時なの?ルルーシュ。」

「・・・五日後・・・。」

「え?五日後、大変おじいちゃんに言っておなかきゃ!」


残された生徒会室。
緊急だとミレイはルルーシュに呼び出されて来てみれば、
本国の宰相閣下が視察に来られると言う。


「でも、どうして突然・・・。」

「最近エリア11での、治安が格段に上がっただろ?だからだ。」

今、エリア11は矯正エリアではなく、衛生エリアとなっていた。
それはルルーシュによる働きが大きい。

「単に、ルルーシュとクロヴィス殿下の顔を見たいわけじゃないの?」

「シュナイゼル兄上に限ってそんな事はない!あの狸!」

「ルルーシュ・・・。」









約束の五日後、ルルーシュは政庁に留まると言ったが結局学園へきてしまった。
クロヴィスに言いくるめられてしまった。

「俺も甘いものだな・・。」

重い溜息をついて教室のドアを開けた。
そういえば時間は聞いていない。

ソコまではクロヴィスも分からないらしい。
抜き打ちとは、やっぱりシュナイゼルは油断が出来ない。

今日は取り合えず一人で、ギャラリーの少ないところにいた方が害は無いかもしれない。
と、思っていた矢先だった。

朝っぱらから人だかり、キャーキャーと女子の黄色い声が耳に響く。
なんだ?なんだ?と野次馬が野次馬を呼ぶ。


ああ、頼むから静かにしてくれ・・・。
コッチは今日どうやって地味に過ごそうがで頭がイッパイなんだ。


「ルルーシュ、どうやら来ちゃったみたいだよ。」

スザクが人だかりの中心部を指した。
見慣れない車である。高級車なのは分かるが、あんなものは見た事が無い。
後部座席に乗っていただろう男は出てきている。

身なりのいい男だ。


「スザク・・・あれまさか・・・」

「きっと変装したシュナイゼル殿下だと思うよ。」


髪の毛もカツラで隠して、瞳の色はコンタクトで変えていた。
が、ルルーシュとスザクには一目でシュナイゼルだとわかった。


「ルルーシュ、早くアソコにいかないとシュナイゼル殿下帰らないよ。」

「ああ・・・そうだな。」


思い足取りをよそに、ギャラリーは増えている。
いくら変装をしても、こう堂々と来られちゃ意味が無い。
どうしてもっと極秘に来てくれないのだろうか?

自分は皇族という自覚をもっと持って欲しい!


(無理な話か・・・・。)



「すまん、ちょっと通してくれ。」

人ごみを掻き分けて、中心部に来るとシュナイゼルは女の子に囲まれている。

「誰を待っているんですか?」

「弟をね・・・。」

「どこから来たんですか?」

「本国だよ・・。」

「そのブランド、皇族御用達のお店ですよね。その関係の人なんですか?」

「いいや、仕事でね・・・。」

「すっごーい!アパレル関係で皇族の服を?」

「そういうものかな?失礼、これ以上は・・・。」

「キャー!!」


(・・・兄上、これじゃ変装の意味がありません。)


ルルーシュは今すぐ立ち去りたかったが、このままでは学園中の生徒たちがココへ来てしまう。
それだけは避けたい。


「おや、ルルーシュ。探したよ。」

「探したよじゃ、ありません。どうしてこんな・・。」

「一人で、エリア11に留まっている弟を心配するのはいけないことかい?」

「せめて、平日ではなく休日に・・・。」

「すまないね。私も仕事が忙しくてね、今日しか時間が取れなかったんだよ。」


「ルルーシュ君のお兄さんなの?」

「あ、あぁ・・。」


丁度、近くにいた女の子が素朴な疑問を投げかけたら、ルルーシュは歯切れの悪い返事をする。

「何だ、ルルーシュって兄弟って妹しかいないって言ってたじゃないか。」

「リヴァル!」


そうだ、リヴァルにはナナリーのことしか教えていなかった。
ルルーシュに冷や汗がでる。


「なんだい、ルルーシュ。冷たいじゃないか兄の事は言ってないのかい?」

「はい・・え〜と、すみません。」

「いいよ。君は何時だって上の兄弟より下のナナリーを可愛がっていたからね。」



「ちょっと〜!なんなのよこの人だかりは!貴方達、授業の時間過ぎてるわよ早く教室に行きなさい!」

始業時間を過ぎても、校門辺りに生徒が群がっていれば当然教師は騒ぎを鎮めにやってくる。
他の生徒たちはルルーシュの兄だとわかって、トボトボと教室に戻り始めた。

「えっと、貴方は・・。」

「失礼、ルルーシュ・ランペルージの兄、クロード・ランペルージといいます。
 朝から申し訳ありませんでした。このような時間でしか弟の様子を伺えることが出来なくて・・・。」


爽やかな笑顔を向ければ、女教師は顔を赤くさせて許してくれた。

「あ・・そうですか、お忙しいのでしたらしょうがないですね。」

「では、ルルーシュの顔を見れたことだし、私は失礼するよ。」

「もう帰ってしまうのですか?」

「いいや、暫くはここにいるよ。仕事の間はね。」


サングラスをかけると、車に乗り込み何事もなかったかのように走り去った。


「・・・・。」

「・・・・・で、ルルーシュ、俺たちも教室もどらね?」

固まっているルルーシュに、リヴァルが肩を叩いた。
いくらここにいる教師が許しても、担任が許すはずがない。
もう遅刻決定なのだ、急いで戻らないと授業にこれ以上遅れたくない。



「・・・居座る気か?」

「何?どったのルルーシュ?」

「ああ!!・・いおや、な・・・なんでもない。戻ろうリヴァル。」

「ルルーシュ、なんか顔色悪いぜ?」

「お・・・・俺はいつもどおりだ!!」

「わかった、わかった・・!!」


(ルルーシュ・・もしかして、あの兄貴の事苦手なのかな?)


リヴァルは取り合えず、ルルーシュの兄には触れないで置こうと思った。
きっとこれからいろんな人から、根堀り葉堀り聞かれるのは目に見えている。
きっと仲のいい友達にまで聞かれてたくないだろう。


リヴァルの予想は当たっていた。
授業に遅刻したルルーシュとリヴァル。
休み時間になれば、沢山のクラスメイトがルルーシュのところへと群がった。

名前は?年は?何の仕事してるの?
アパレル関係?あのブランドって皇族関係だよね。
ルルーシュ君も皇族と親しいの?


スザクとリヴァル、シャーリーはルルーシュに同情した。


「いいな、私もルルのお兄さん見たかったな。」

「あれ?シャーリーはもっとはしゃぐと思ったのに。」

「ルルにお兄さんがいるのは知ってたの。どっちのお兄さんかな?」

「え?シャーリーどういう意味?」

シャーリーの意味深な言葉に、リヴァルは何か引っかかった。
この言い方では、ルルーシュの兄は複数いることになる。

「あれ?確かルルってお兄さん二人いるって言ってたよ。」

「うそ!!知らなかったの俺だけ?」

「まぁまぁ、ルルーシュはあんまり自分の事話さないから・・・。」

「とか、言いつつシャーリーにはしっかり話してるじゃねぇか!」

「ほら、私の場合はね、お互いに自分の家族とか、どういういきさつで東京にきたかとか話してて・・・」


「「ふ〜ん。」」


スザクとリヴァルの頭に、黒い角が見えるのは気のせいだろうか?
シャーリーはなんかこれ以上話してはいけない気がした。

「ね・・スザク君、リヴァルどうしたの?」

「詳しいですね。シャーリーさん。」

「だって、ルルが教えてくれた・・・。」

「僕もあんまり、ルルーシュとそういう話はしないんだ。仕事がらみが多くて。」

「いや〜仲の宜しい事で・・!」

「ちょ・・・何よ!リヴァル!」

「シャーリー、ルルーシュは鈍いからハッキリ言わないと駄目だよ。
 でも、シャーリーには脈があるから頑張ってね。」


「もう!からかわないでよ!!!」







(あ〜イラつく!!兄上のせいだ!)

質問攻めにあって、どう言いくるめようと思考中のルルーシュ。
突発的にもよく口八丁手八丁で言葉がポイポイでるなと自分でも関心した。

(コレでは振り出しに逆戻りではないか!)


先日のシャーリーの言葉から、ルルーシュは自分から積極的にクラスメイトに声をかけていた。
挨拶で声をかける事も多くなったし、放課後教室に残って少しクラスメイトと話す機会を増やしたのだ。

せっかく、近寄りがたいオーラを壊して一般人ぽくなってきたのに

(・・・これで・・・終わりだ。)


ルルーシュは心の中で、シュナイゼルに怒りを覚える。


(後で覚えてろ・・・・!!!)












「クロヴィス・・・。」

「どうしたのですか?兄上?」

「なんか、ルルーシュが冷たいのだが・・私は何かしてしまったのだろうか?」

「ああ・・・さっきルルーシュが学園生活はもう終わったとか嘆いてました。
 兄上、一体どうやって学園にいかれのですか?どうやら騒ぎになっていたと枢木が言っておりましたが・・・。」

「いや・・・一般人を装って、変装もしたし瞳の色も変えていったのだが、足りなかったのだろうか?」

「やはり、私達には一般人として装うのは無理があるのでは。」

「ルルーシュは上手く出来ていたのにな・・・。」






「ルルーシュ、シュナイゼル殿下の事許してあげなよ。」

「いやだ!せっかく・・・せっかくココまで来て・・・!!!」

「ホラ・・・大丈夫だよ。ルルーシュちょっとおっちょこちょいなところあるから・・!」

「おっちょこちょいとはなんだ!バカスザク!」


「だって・・・君、よく何もない廊下でよく転びそうになるじゃない。」

「失礼だな・・・全く!ソレよりもせっかくシャーリーが助言してくれたのに!
 シャーリーが俺の為にせっかくアドバイスしてくれたのに・・・」


(あ、許せないポイントはそこなんだ。しかも二回言った。)


クロヴィスから、ルルーシュの怒りを静めるようにといわれてやってきたスザクだったが、
理由が分かってしまったスザクにはもうどうでもよくなってしまった。


最近のルルーシュ行動の変化はスザクも知っている。
その裏には、シャーリーからの影響だったようだ。


で、その努力がシュナイゼル殿下の登場で水の泡。
せっかくやっと、皆と打ち解けてバカ出来るようになったのに、目上扱いに逆戻り。
怒らないというのは無理があるが・・・・。
最近ルルーシュは、シャーリーがらみになると、とことん煩い。


今日の休み時間、ルルーシュが一人質問攻めに合っている中、
スザクとリヴァルはシャーリーをからかって遊んでいたのを、ルルーシュは抜け目なくチェックしていた。



(すみません、クロヴィス殿下。今回は当分ルルーシュの怒りは治まりそうにありません。)


今度はスザクが溜息を吐いた。














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