ヒカルの恩返し





あかりが財布を届けに来てくれたその帰り。
ヒカルは母親に、あかりちゃんに三倍返ししろと命じられた。

「全く、丁度あかりちゃんが来てくれてたからいいものを・・・
 本当だったら、あの日はお昼抜きだったんだからね!」

「もう、わかったよ。それにもうちゃんとあかりが、行きたいって店聞いてるから!」

「そう?ならいいけど・・。」

「信用ねぇな・・・。」



あの夜、帰ってからメールで互いのスケジュールをあわせた。
手合いも指導後も、入っていない日であかりの部活が無い日。

丁度、次の水曜日が空いていた。


その日、ヒカルはあかりの学校まで迎えに行こうと思っていた。
あかりが棋院に来てくれたように・・・。


六時間目が終わって、SHRも終わり各自、部活や委員会へと生徒が放課後の活動に精が出る。

「あかり、今日暇?」

「えっと、ゴメンネ今日約束があるんだ。」

「珍しいね、あかりが用事なんて。」


いつもなら部活の日は部活。
無い日は久美子や、クラスの友達とちょっと寄り道して帰るのがあかりの放課後の過ごし方である。


「なんか、あやしいね?デート?」

「へ・・・ち・・違うわよ!!」

「あ〜赤くなった?誰?この学校の人?」

「まさか、あかり・・進藤君?」

「や・・やぁね、そんな事・・・」

あかりのしゃべり方がどもる。
あかりは分かりやすい性格をしているため、直ぐにその相手は進藤ヒカルという事がわかった。











「えっとたしか、ココだったな。」

そういえば、囲碁部の先輩の筒井さんや加賀と同じ高校だったような気が・・・

待ち合わせは校門。
どうやらまだあかりは来ていない。

仕方ない、門を背にして壁に寄りかかって待つことにした。




「遅いな・・・あかりのヤツ・・・。」



そういえば、まだあかりの囲碁部に指導碁をする約束をしていなかったとヒカルは思い出した。
美津子の三倍返しという言葉もあるし、せっかく高校へきたのだから囲碁部のスケジュールも聞いておこうと思った。


(それにしてもなんだか俺って見られてる?)


ヒカルは私服だったために、大いに目立っていた。
年相応の格好だったため、うんと年上に見られることは無いだろうが、
はやり同年代より先に社会の世界にいるヒカルは、ここの生徒から見れば十分大人っぽく見えていた。


最近では男前に磨きがかかっている為、女の子に熱視線が送られていることにヒカルは気付いていない。
今、ここにいるあかりの通う女性とも然り。

カッコイイと思う男には、思わず視線がいってしまう。


(あれ・・・あかりの通う高校ってたしか共学だったよな?なんで、女ばっかりなんだ?)

まさか自分が女生徒の群れを作っているとは考えていないのである。






「ね・・・あかりなんか、校門の方騒がしくない?」

「え・・・?本当、なんか集まっているね。」

「行って見ようか?」


あかりも、校門がヒカルとも待ち合わせだったため、丁度いいかと暇つぶしになるだろうと向かったが、
次の女生徒の声で、この原因が分かってしまった。


「ね、校門にカッコイイ男が来てるって!」

「マジ?見に行く〜。」

「私服みたいだよ、大学生かな?」

「うん、なんか大人っぽかったよ!」

「もしかして誰かの彼氏かな?」

「彼女ってうちの生徒?」

「ここに来てるって事はそうでしょ?」



(・・・・もしかして・・・ヒカル?)




あかりの不安は見事的中した。
女生徒に囲まれているのは、まぎれもなくヒカルだった。

「ね、あかり。あれって進藤君だよね?」

「うん・・・。」



「あ!あかり!!」


ヒカルはあかりに気付いて手を振った。

「ヒカル・・・!!」

「お前遅いぞ。」

「ゴメン、ちょっとバタバタしてて・・・。」

「まぁいいや、あ、津田じゃないか久しぶりだな〜。」

「フフ、久しぶり進藤君。元気みたいだね。どうやら今日はあかりと約束してるみたいだね。」

「そうなんだよ。こいつとこれから・・・」

「もー余計な事は言わなくていいの!」

慌てて光るの口を塞いだ。
せっかくの形だけでも、放課後デートが出来るのだから雰囲気は壊したくない。

久美子も友達もどうやら分かったようで、笑いあった。


「ふふふ。楽しんできてね。」

「あかり、明日報告よろしく〜。」

「もう・・!!」

「ホラ、行こうあかり。」

(っていうかずっと見られてるから場所変えてぇんだけど・・!)

(あ、そうか。ゴメンネ、)


校門で久美子達と別れて、ヒカルとあかりはこの前あかりが行きたいと行っていたお店にはいった。



「あ〜まいったよ!まさか私服でいったらあんなに人集まるんだもん!」

「ヒカルってけっこう目立つタイプだよね。」

「え・・・そうか?」

「そうだよ。」


囲碁を初めてからのヒカルは格好良くなった。
碁をする時の真剣な眼差しは、女の子から見ればたまらないものがある。


「そういえば、指導碁まだやってなかったよな。暫くは忙しくないからいけるぞ。」

「本当?」

あかりは顧問の先生に聞いて、調整をとってくれるそうだ。
放課後デートに指導碁、なんだが嬉しいことが重なってあかりは有頂天だ。

そこへ店員が、オーダーした一番人気のパフェが届いた。

「わ〜、おいしそう。」

「すっげぇ量だな。全部食えるの?」

「食べれます〜!」

「なぁ、一口くれよ。」

「もう〜、しょうがないな。」

ヒカルはコーラとホットサンドを頼んだが、サンドの方がまだ来ていない。

「でも、イチゴは駄目だよ。」

「あかりがくれたヤツでいいよ。」

すっかり食べる気満々のヒカルはあかりがスプーンで掬ってくれるのを待っている。

「もう・・。」

あかりは少し多めにクリームとアイスをヒカルの口の中に入れた。

「なぁ、フルーツも一つ頂戴。」

一番人気のパフェは沢山の種類を使ったフルーツパフェだ。
アイスもフルーツを使ったシャーベットになっていて、濃くなくて食べやすいのである。
ヒカルが食べたのはメロン味のシャーベットだった。

あかりは数の多かった、バナナとパイナップルをヒカルに食べさせた。

「へー、本当にうめぇな。」

「でしょ、前に雑誌で読んで、クラスに行って見たって子がいて話を聞いてみたんだ。」

「にしても、ここの客女しかいねぇな。」

こういったスイーツのお店だから、ターゲットは女性なのだろう。
少し男性客もいたが、ヒカルみたいに女性が同伴していて、男同士の客は居なかった。

「まず、男の人ってこういったところ来ないでしょ。ヒカルだって一人でこんな所入る?」

「はいらねぇな・・お、キタキタ。」

ヒカルの頼んだサンドイッチがテーブルの上におかれた。

「貰ったから、俺のもやるよ。ほら、あかり口あけろ。」

「え・・・あ・・・んん!!!」


ポカンとしてる瞬間に、ヒカルのホットサンドがあかりの口の中に入った。


(これって・・はい、あ〜んってやつだよね!?)

「お〜いん、どうしたあかり?」

「え・・あ・・、な・・なんでもない。サンドも美味しい・・。」

「お、ウメェな。」

ヒカルは今、あかりにやった事を気にしないでサンドをほおばっている。


二人の事情を知らない人から見れば、
お互いあーんしながらじゃれあっているだたのバカップルになっているなんて本人達は気付いていない。







「ご馳走様。ヒカル。」

「別に、この前の礼だからな。」


軽食を終えて、ちょっと雑談した後、そろそろ帰ろうと席を立った。
帰りも同じ方向だから、気兼ねなく歩きながら会話する。


「にしても、お前これから飯食えるのか?」

「う〜ん大丈夫だと思うけど・・・今日は少なめにしてもらおうかな・・。」

「俺、太ったあかりなんてイヤだぞ。」

「何よ失礼ね!そんなすぐに太りませんよ〜!」

「ウソウソ、冗談だって、あかりは太って無いよ。」

「今更言ったって、駄目なんだからね。」


すっかりあかりの機嫌を損ねてしまったが、あかり自身今日はすごく楽しかったので、
そこまで怒ることが出来なかった。

「どうした・・?あかり?」

いつもならそこで、ちょっと腕あたりにポンとパンチが飛んでくるハズだが、今日はなかい。


「ま、パフェ食べちゃったのは事実だし・・・。」

「・・・??・・あ・・俺も悪かったって・・。」

素直なあかりに、ヒカルも素直になって謝った。


「ふふ、ヒカルが素直に謝るなんで珍しい。」

「お前も今日なんか、素直だな。」

「うん、ちょっとね・・。」

「・・・?」


「じゃ、私はここで。」


気が付けばもうあかりの家の前だった。

「おう、おばさんに宜しくな。」

「うん、今日はありがとうね。楽しかったし、パフェ美味しかった。ヒカルのおばさんにも宜しくね。」

「ああ・・じゃ、今度は部活の指導碁だな。」

「うん。」











「ただいま〜。」

「お帰りヒカル。どうだった?あかりちゃんとのデート?」

「え?デート?」

「あら、違うの?」

「別に、店行って奢ってやっただけだし!」

「あら〜、あかりちゃんの学校まで迎えに行って、オシャレなカフェでなんか食べてきたんでしょ?
 リッパなデートじゃない?どう?進展あった?」

「そんな訳ねーだろ?!」

根堀葉堀、聞いてくる母親に嫌気が差して、ヒカルは部屋に逃げようとした。


「お母さんの希望として、あかりちゃんに”はい、あ〜ん”とかしてもらってたらいう事ないんだけど。」

「な・・・・」


そういえば、そんな事してもらった記憶が・・・
あかりのパフェを見て、つい自分も食べたくなってあかりに一口と頼んだ。

そうしたらあかりの行動はどうだった?
自分のスプーンをヒカルの口に運んだような・・・。


今更思い返してヒカルは恥かしくなった・・。


「ま・・まさかヒカルったら、本当にやってもらったの?!やったわね!ヒカル!!」

「ああ・・もう!そんなのどうでもいいだろ!」


ヒカルは逃げるように自分の部屋に向かった。


それから、ヒカルの母とあかりの母との長電話大会が行われたのは言うまでも無い。









 お ま け




次の朝、あかりに待っていたのはクラスメイトの女子達からの質問攻めだった


「ねーあかり、昨日の人あかりの彼氏?」

「カッコイイ人だよね、大学生?大人っぽい!」

「どこで知り合ったの〜?」

「何やってる人」


取り合えず、家の近所の同じ年の幼馴染だという事は説明しておいた。


「碁のプロやってるんだ。」

「や〜んカッコイイ!」


「で、どこまで進んだの?」

「ちょ・・・清美!!」

あかりは久美子に助けを求めるが、久美子もどうやら清美と同じで
昨日のことが知りたいらしく、助けてはくれなかった。

「でも、藤崎さんとその彼氏なんかお似合いだね。」

「え・・?」

さっき、幼馴染って言ったのだがどうやら完璧に彼氏と勘違いしていた。


「昨日私達もあの店にいたんだよ。藤崎さん彼氏に夢中で全然気付いて無いし、
 ま、あんなにイケメンなら仕方ないよね!」

同じクラスの、違うグループの子達に目撃されていたなんて、あかりは恥かしくなった。

「おっと聞き捨てならないお言葉!よし、あかりはしゃべってくれなさそうだから、暴露大会いきましょうか?」


「もう〜、ラブラブって感じだったよね。」

「お互い、”はい、あ〜んしてv”ってやってたもんね。」

「な・・・!」

「ほうほう・・。」

「もう、あかりったら水臭いんだから、進藤君とそうなったらのなら言ってくれればいいのに、心配したんだよ。」

「久美子まで・・・もう・・・もう、勘弁してぇぇぇ!!!」




その日から、藤崎あかりにはとてもカッコイイ彼氏がいるという事は
一日で学校中に広まったのである。










----------END----------


ヒカルってプロになったあたりから突然イケメン系になりましたよね。
きっと、女の子も騒ぐと思うんだ。

可愛い系イケメンって感じだと思いますが、
碁をしてる時は凛々しくてそのギャップが溜まりませんって感じです。


あかりのお使いとと同じオチで終わるのは、この話と対になっているからです。


ちなみにあかりは久美子のほかに清美さんと三人グループで行動
名前はデスノから・・・原作はミサミサも好きだけど、清美さんの方が好き。

でも映画は戸田さんの演じるミサの方が大好きです






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