旋律の道しるべ






今日の音楽室は無人だった。
いつもなら吹奏楽部が使用している部屋。
今日はどうやら吹奏楽部も部活は無いらしい。

ミーティングが終わって三橋は、帰りがてらに音楽室の前を通った。

「・・・。」


普通に出入りが出来る特別教科教室。
三橋は扉を開ける。
すぐ目の前に移るグランドピアノ。

ピアノの前に立って、鍵盤のカバーを開けた。
人差し指をだして、鍵盤の上に乗せると楽器特有の音が響く。


そこそこ価値のあるピアノのようだが、少々古いな。
三橋はカバンを足元においてピアノの椅子に座った。
ピアノの椅子に座るのは久しぶりだった。


楽譜なんてものはない。
弾ける曲は限られている。
なんせもう最後に楽器というものに触れるのは、何年前だったろうか?


ゆっくりと弾き始めると指先の感覚が戻ってきた。
体の動きも一端のピアニストみたいにやわらかくなる。




(ああ。そうだ。この感じ)



昔は弾くのが嫌でイヤで仕方なかった。
自分から習いたいと言い出したことでなかったからだ。
楽器の一つくらい、嗜んでおかなくてはと無理やり行かされていた教室。



何度サボって怒られたか分からなかった。
今となっては、もう少しちゃんと通っていればよかったと少し後悔している。


(野球以外にもとりえ・・・ない。)


三橋が夢中でピアノを弾いていると、三橋の事を知っている人物が扉を開けた。

音楽が一瞬で止まった。


「三橋・・・・?」

「阿部君・・。」


音楽室に入ってきたのは阿部だった。


7組は最後の授業は音楽だった。
阿部はミーティングが終わり、そのまま帰ろうとしたが運悪く音楽教師に捕まり手伝いを言い渡された。
教師の忘れ物くらい自分で取って来い!
阿部はイライラしながら、音楽室へ向かう。


今日は吹奏楽部の活動がないのにピアノの音が聞こえた。
自分が入ってきたら、せっかくの演奏が止まってしまうな。

しょうがないと扉を開けたら、ひいていた人物は思いのよらない人だった。


「お前・・・。」

「どうしたの?こんな所に・。」

「いや、先生に頼まれて、その楽譜を取りに着たんだけど・・・あ、これか。」

教師の座っている机に楽譜が置いてあった。
阿部は楽譜を取ると、三橋の近くまで来た。


「お前、ピアノ弾けるんだな。」

「別に・・・弾ける曲は・・限られて、る。」

「そっか、それでもスゲェよ。俺なんて野球しかねぇ。」

「お・・俺も。だから、ちゃんと通ってれば・・よかっ、た。」

「ソコまで弾ければ、十分じゃね?」


阿部も鍵盤に指を乗せた。
ポーンと心地のいい音が響いた。

「さっき、何弾いてたんだよ?」

「・・・トロイメライ。」

「音楽はよくわかんねぇ。」

「これ・・代表的な、曲なんだ・・よ。」

「悪かったな。」

ふっと、三橋が笑うと、ピアノを弾く姿勢に戻った。
どうやらまた弾いてくれるらしい。


「じゃ、初めから・・・阿部君時間・・大丈夫?」

「おっと、これ渡してこなきゃなんねぇ。また明日な三橋。」

「うん。」

「今度ちゃんと、ピアノ聞かせてくれよ。」

「・・・うん。」


阿部が教室から出ると、またピアノの音が綺麗な音色へと変化した。
どうやら、三橋は弾いているところを見られたくはないらしい。


「ま、別にいいけどよ。」


それ以来、三橋がピアノを弾いている姿を見ることはなかった。





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三橋はぼっちゃまだから、ピアノくらい弾けてたらいいなって話し。
瑠里ちゃんがヴァイオリンで、三橋はピアノで、リュー君はフルートという事で!




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