DEEP  中編





余りの衝撃的な映像に、阿部は暫く動けずにいた。
何故あんなところに三橋がいるのか?

三橋は誰とどこに入っていった?


名前も知らないような中年の男と、このホテルにはいっていったなんて信じられない。


こんなところ一人でなんていたくもないのに、腰が抜けて動けない。



クソっと心のなかで叫ぶが、どうする事もできないのだ。

ホテル街を歩く、時々男女のカップルにジロジロ見られたが、ようやく立てるようになった頃
三橋と、中年の男がでてきた。

三橋はなにも無かったかのように、ドアから出た後去ろうとしたが、男に腕を掴まれた。



「廉君、今度はいつ?」
「・・いか・・ない。」

「どうして?」


「練習が、いち、番の優先・・順位・・。」

「あ〜部活のか・。」

「うん。それに、俺は一人の人と・・・長くはしな、い。」



「君の噂、本当だったんだな。君、ここら辺でなんて言われてるか知ってる?」

「???」

「金色の悪魔って言われてるよ?来るもの拒まず、去るもの追わず。不特定多数と相手をして、
 一人の人に絞らなく、一度きりの相手を要求する。」

「・・・。」

三橋は、男から言われていることが本当のため何もいえなかった。
むしろ聞くまいと、横を向いた。

その先には阿部が隠れているとしらずに・・。
勿論この話の内容は、阿部にも聞こえている。


「何度か付き合ってくれって、付きまとわれている男達も少なくは無いはずだ。私のように・・。」

「そう、だよ。でも、あんまり・・・しつこいと、警察、よぶ。貴方は今まで、の・・なか、で一番・・しつこい。」

「こりゃまいったね。それじゃ私のほうが不利だ。まぁいい、今夜は楽しかったよ。」


男は満足したのか、クルっと背を向けて去っていった。
それを確認すると、三橋も何事も無かったかのように家に向かった。






「おいおい、何の冗談だよこれ・・。」


一部始終会話を聞いていた阿部にとっては、かなり衝撃的だった。
自分のチームメイトが完璧な”アレ”で、巷で評判で、しかもかなり自分の体を痛めつけている。


「あいつ・・・クソ!!」


阿部は、忘れたいかのように自転車の元へ走った。
そして今までに無いスピードを出して、自宅へとペダルをこいだ。

自分の部屋に着くと、疲れがどっと出てきた。
出来れば夢だと思いたい。

でも夢ではないのだ。
この目で見た。この耳でしっかりと聞いてしまった。
その夜はなかなか寝付けなかった。
























野球児の朝は早い。
早朝の朝練から始まり、夜は遅くまで練習をする。
睡眠時間の確保さえ、ままならないのに阿部は良く眠れないまま、いつもの起床時間を迎えた。

目覚ましがジリジリとなって煩い。
ボタンを止めると、鞄の中身をチェックした。
宿題なんてやる気にもなれなかった。

朝イチで学校でやれば、なんとなるだろうと、そのまま一階に降りた。




グラウンドに一番についたのは、何回目だろうか?
昨日までの清々しい気分が、嘘のようにけむったい。
夜中の衝撃がまだ、阿部自身受け入れていない。

まだ直接本人とも話していないのに・・。


今日練習が終わったら、三橋に聞こう。



阿部はグラウンドに集合した仲間に、おはようと挨拶した。
瞑想はやっぱり、三橋がきになって集中が出来なかった。






















「おい!三橋。」



ここまで来るのに大分時間がかかってしまった。

練習が終わってもなかなか声がかけずらく、結局部室で二人っきりになってしまった。
阿部は比較的、何事もテキパキと終わらせるタイプだが、反対に三橋はなにもかも時間がかかる。


まぁ、話す内容があれなだけに、この際二人の方がよかったのは確かだ。


「何?阿部君。」

三橋はいつものように、キョどりながら手を震わせていた。」

「あのさ、ちょっと聞きてぇんだけど・・。」

「????」

「あぁ、着替えは続けていい。俺の勘違いかも知れないから、確かめいだけだ。」

「・・・・・。」


三橋はゆっくりと、残っているシャツのボタンをかけ始めた。
その瞳はちょっと冷たい印象と見れるのは、気のせいではない。


「お前、昨日どこいってた?」

「どこって・・?」

「昨日、水色のシャツきて、緑のズボンはいてどこいってたんだ?!」

「?!」

「俺見たんだぞ・・・お、お前が・・・変な男と肩ならべて・・」

「そっか・・。」

阿部の話の途中で、三橋が言葉をさえぎった。

「なぁ、お前あれ冗談だろ?なんだよ”悪魔”って!!」

「会話まで、聞いて・・たん、だ。」


否定して欲しかった。
あれは俺じゃないと、そんな一欠けらも望みさえ今簡単に砕かれた。
三橋は肯定の笑みを浮かべていた。


「一番・・・知られ、たく、無い人・・・に知られちゃった・・。」

「な・・・!!」

「ね、阿部君・・。ちょっと話さない?」

「お前、どこ行く気だ?」

「どこも?」

「おちょくるな!」


はずらかす三橋の態度に、阿部は少々切れ気味だった。
ただでさえ、ありえない状況の中、肝心の本人はうっすら笑ってヘラヘラしているのだから機嫌もわるくなる。
未だかつてない最悪の出来事である。
煮え切らない三橋に、阿部は投手の腕だという事も忘れて、強く腕を掴んだ。

「・・つ・・!!」

痛みで顔が歪む三橋を見て、慌てて阿部は手をはなした。



「わり・・。」

「別に・・・俺が悪いんだ、し・・。」

「・・・・・。」

「俺、昔はこうじゃ・・なか、った。」





中学生の頃だった。
まだ1年生で、体も子供で力も無かった頃。

贔屓でマウンドたってて、先輩達に目をつけられた。
初めはちょっとした嫌がらせだった。

無視とか、私物を隠されたりとかそんな感じだった。
でも、日に日にそのイジメはエスカレートしていったのだ。

体育倉庫に閉じ込められ、一晩そこで過ごしたこともあったり。
体育着に落書きなんて、珍しくもなくなってきたのだ。
それでも譲らなかったマウンド。

先輩達は、なんとか三橋を傷つけようと部室で話し合っていたのだ。


その最終手段が・・・・




「げ〜マジかよー。」

「ヤなら抜けていいんだぜ?でも結構イケルぞ。」

「まじ?じゃぁ俺、口使わせてもらうわ。」


「うぐ・・!!」


誰もいなくなった野球部の部室。
下校時間はとっくに過ぎていて、人影はとっくにない。
見回りの先生が来るには早すぎて、人一人もない。


天井が見える視界に、いつもと違うのは数人の男がいる事。
数人に押さえつけられて、気持ち悪いのに同じ男のものを咥えさせられて、体を開かされた。
女のように悲鳴を上げたら、先輩達は興奮して悪循環だった。

「ほら、まだヒョロいし、女みて〜。」

「確かにコイツ本当にほっそいよな。」

「肌も白くて、スベスベ〜。お前本当は女なんじゃねぇの?」

「それじゃ、前のコレついてねぇだろ〜!ギャハハ」

「お前、それじゃ変態だぞ?」

三橋をバカにしたような台詞と、行動はもう心はズタズタに引き裂かれていた。
体はとっくに一糸も纏っていなく、冷たい床が体を冷やしていく。
受け入れる器官ではないところへ、無理やり押し込まれる痛みはもう麻痺して別の感覚へとわたっていた。


「コイツ感じてるぞ?」

「いいんじゃねぇ?楽しいだろ?あはは!」

「じゃぁ、俺の気持ちよくしてよね。レンちゃん?」

「お前キモイよ〜。」

「だって名前の方が雰囲気出るだろ。名前まで女みたいだな。」

「三橋お前この際、女に性転換した方が幸せなんじゃねぇの?」

「ちげぇねぇ・・」

部室に下品な笑い声が木霊した。
先輩達が放してくれたのは、それから数時間経ってから。
体もベトベトで、体も痛くて家に着いたのは日付を回った頃だった。
親戚の人が血相を変えて理由を尋ねてきたが、友達と部活後遊んだら遅くなったとだけ言っておいた。


それからは、部活のあとは予想がつくだろう。

そんな事、3年間続いた。


気付いたら、自分の体はもう一人ではイケなくなっていた。
それに気付いたのは中三の夏ごろ。

高等部に行った先輩達は、自分達都合でよく呼び出されていたが、各々女でも出来たのか、
中三の春の終わりごろにピタリとやんだ。

やっと抜け出せたかと思ったが、後遺症みたいなのが自分の体を蝕んでいたのだ。














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