里の中に在るオルゴールの館。

美しい音色が響くその空間と
賑やかな外界とを隔てる硝子の壁に
サクラはへばりついて居た。




Who killed Cock Robin?




ピアノ。
天使。
キャラクター。

色々な形をしたオルゴールに
つい最近になって心を奪われ始めたサクラは
毎日のように、ここへ通っていた。

ド。
レ。
ミ。

様々な音階が曲を奏でていく。




―― いいなぁー。




ポケットから財布を取り出して
その薄さに涙が出て来そうだった。

―― 最近、任務が無いから
    お小遣いも無いのよね・・・。

財布を振って見ると
小銭の音が僅かにしただけだった。
その現実を前にして
視線は硝子の向こうへと移る。

「・・・・見るだけなら・・・いいよね?」

買うことは出来ないけど
両足はちゃっかり館の中へと進み出していた。




カラ・・ン。




心地よいベルの音が頭上で響き
一歩、木の匂いがする板を踏むと
そこは既に別次元の世界へと化していた。

―― 綺麗・・・。

外からは見えなかった人形のオルゴールが
壁にかかって両手を動かしている。
それに引き寄せられるように
足取りは二階の奥へと向かっていた。




―― こっちは何かしら?




ギシっ、と音を立てながら
階段を登って行く。
すると、椅子がいくつか並ぶ
割と広い踊り場に到着した。

「木箱のオルゴールだ・・・」

シンプルなデザインでありながら
金銀の飾りを施した小さな木箱の列が
踊り場の周りを囲み
至高の存在として君臨していた。

瞳を輝かせて、そのうちの一つを手に取った時。
隣に人の気配を感じて
顔を上げて見た。

「こんにちわ。お嬢ちゃん」
「こ・・・こんにちわ」

立っていたのは黒髪の男。
長い髪を後ろに垂らして
着物じみた服に身を包み
両腕を組んで、笑っていた。

「オルゴールが好きなの?」
「・・・はい」

にやっ、と微笑むと
雰囲気に似合わない口調で言葉を続けた。

「そう。私も好きなのよ」

組んでいた腕を下ろして
サクラの左前に在った銀の木箱を取った。

「じゃあ、私と少しゲームをしましょう」
「・・・ゲーム・・・ですか?」
「そうよ。何、大したことないわ。
 これから三つ、ここに在る木箱を取るから
 その中に入っているオルゴールの曲名を当ててちょうだい」
「・・・もし、答えが外れたら?」
「疑り深いわね。・・・まぁ、仕方が無いわ」

男は声を殺すように笑うと
サクラを見つめながら囁いた。

「何もないわ。外れたら外れたで終わり」
「・・・・・・」

ほんの少し、気持ちは複雑だったが
男の楽しそうな視線に負けて
サクラはゆっくりと頷いた。

「解りました。良いですよ?」
「そう。良かった。
 ・・・・じゃあ、早速・・・」

先程、手にした銀の木箱の側面に指を伸ばして
螺子を回した。

「この曲は何かしら?」

流れた曲はスローテンポ。
親友とよく行った店で頻繁に流れていた
静かな曲・・・。




「"月の光"」




男は微笑んで木箱を片付けた。

「正解。
 じゃあ、次はこれ・・・」

列の奥に在った大きめの金の木箱を取ると
螺子をゆっくり回して曲を流した。

いくつかの旋律が同時に流れて
良く似た音階が続けて鳴る。




「"カノン"」




「あら。結構、詳しいのね」

男は少し頬を膨らませて
最後の一つを慎重に選び始めた。

「この二つは良く聞きますから」
「そうなの・・・。
 じゃあ、これで最後ね。
 これは知っているかしら?」

サクラの目の前に在った古びた木箱を手に取って
男は螺子を巻いた。

そこから流れて来た曲に
サクラは首を傾げる。

「・・・・?」

それは聞き覚えの無い調べだった。
子守唄のような・・・でも違うような・・・。

「解るかしら?」
「・・・・・・」

記憶の泉の奥底に潜りながらも
曖昧な答えですら、拾うことが出来なかった。
サクラは男を見上げて
申し訳なさそうに呟いた・・・。




「解りません・・・」




満足そうな微笑みを浮かべて
持っていたオルゴールをサクラに手渡すと
男はそっと、音に出して歌い始めた。




「"Who killed Cock Robin?"」




低い声に、ゾッと首筋が震える。

「聞いたこと無いかしら?」
「さぁ・・・」
「割と有名なんだけど」
「そうなんですか?」
「そうよ」

大きな掌でサクラの頭を撫でると
男は渡した木箱を指して。

「それ、買ってあげるわ。
 君にピッタリかもしれないから」
「!!」

突然のことに、サクラはただ驚いた。

「そんなっ。
 今日、初めてお会いした人に・・・」
「良いのよ。私が決めたのだから。
 それに・・・・」
「・・・・それに?」

男はサクラの髪を一房、掴んで。

「たぶん。近い内にまた会うことになるわ」

髪に口付けを落とし
ひらり、と片手を振ると
男は背を向けて下階へと去って行った。

その時、最後の言葉を残して・・・。




「さっきの歌、こっちの言葉に直すと
 "だれがこまどりころしたの?"
 っていうのになるのよ・・・」




金色に輝いた瞳に見つめられて
サクラは身体を固めさせた。

小さくなって行く男の背を見つめながら
手に持ったオルゴールが
静かに音楽を奏でていく。

美しい音色が
まるで墓守の言葉のように
心に重く圧し掛かりながら・・・。




だれがこまどりころしたの?

無邪気故に漂う残酷さを物語るこの歌を
サクラは静かに聞いていた・・・。




end




興味有る方は見てみて下さい。

"Who killed Cock Robin?"




高柳紗雪様のリクエスト
「大蛇丸×サクラ」です。

なよなよしたサクラを
大蛇丸が面白がって追い詰める。

追い詰めてますか?(汗)

なよなよ=およよ、とよろける。
んなわけ有るかい!ってなことで
急遽、辞書君の出番です。

なよなよ=上品。

この話のどこに上品さが在るのか。

思わず、自分の首根っこ掴んで
問い詰めてやりたくなりました。
原因は私です。(涙)

―― キリ番・76000のリクエスト小説です。






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毎回毎回難題リクエストで申し訳ありません
大蛇丸素敵すぎます
教養をたしなんでいるサクラが又悦です
追い詰めてますよ!!
御巫様の小説はいつ見ても素敵です。
ありがとうございました。
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