陰に咲く花   10





アリサとアレルヤが戻ると、歓迎会の準備は始まっていた。
アレルヤ達は料理担当者に畑から取ってきた食材を渡す。
各自自分の持ち場について、夕食までに一気に仕上げをした。




歓迎会もささやかに終わり、皆が寝静まった頃アレルヤはアリサに言われた事を実行してみた。

「僕に話しかけて来るのは誰?」


反応は無い。

「アリサの嘘つき。」

『なんだ?やっと俺様の存在に気がついたか?』

「え・・・?」


頭の中で声が聞こえた瞬間、アレルヤは気を失った。
気がつけば真っ白な世界に一人、一体ここはどこだろう?


『ここはお前の夢の中だ。』

振り向くと男が一人立っていた。さっきまで誰もいなかったのに・・・!

『正確には、お前と俺の夢の中。』

男はアレルヤにそっくりだった。
まるで分け目をかえてそのままアレルヤを男にしたように、、。


「君は、?」

『俺はハレルヤだ。』

「あ。」


(ハレルヤが教えてくれた。)

(知らないのはアレルヤだけだよ。)


とっさにアリサの言葉を思い出した。
不可解なアリサの言動を今、アレルヤは納得することが出来た。


「君は僕の事を知ってるの?」

『ああ、俺の脳は幸い衝撃を上手くかわしてな。お前の事ガキのころから知ってるぜ。』

「そっか。」


一人でも自分の事を知っている人がいる事がアレルヤを安心させた。


「ね、ハレルヤは僕がどんな人なのか覚えてるなら教えてよ。」

そうするとハレルヤは少し悲しそうな顔をした。


『駄目だ。』

「どうして?」


今の修道院生活は悪くない。むしろ皆優しくてとても落ち着く。
でも、記憶がなくなる以前の生活もあったわけで、、もしアレルヤを心配している人がいたなら連絡をいれないと、


『悪いな、アレルヤ。それは俺の口からじゃ言えないんだ。』

「そんな・・・。」

『一言で言えば、俺達は普通じゃねぇ。』

「そんな、それじゃわからないよ。」

『大丈夫だ、アレルヤ。お前はゆっくり思い出せばいい。』

「そっか、ありがとう。」

『そろそろ時間だ。』

ハレルヤが上を見上げた。
さっきまで真っ白だった世界が、暁の空をしていた。
夜の空と朝日が混じりあって絶妙な色を表現していた。


『お前と俺みたいだな。』

「え・・・?!」

『俺はいつでもお前の側にいる。』


ハレルヤの体が透け始めた。消えそうになりアレルヤは焦る。


「ハレルヤ。」

『俺はハレルヤ。もう一人のお前。アレルヤはハレルヤであり、ハレルヤはアレルヤでもある。』

「うん。」

『夜は明けた。俺達は夢の中だったらいつでも会える。』

「うん。」

『じゃ、また夢の中でな』


また視界が変わった。


「ハレルヤ!・・・・え?!」
気が付けばベッドの中。寝ながら手を伸ばしていた。
ゆっくり起き上がる、周りの皆はまだ寝ていた。


「夢?」


夢にしてはリアルな夢だった。
まるで本当に、もう一人の自分と話している感覚だ。


『おい・・・・夢にすんじゃぇねっての!』

「え?ハレルヤ?!」


夢じゃなかった。ビックリして大き声が出てしまった。
慌てて口を塞ぐ、どうやらまだ誰も起きない一安心だ。

「よかった、夢じゃなくて。」

『言っただろ?傍にいてやるって。』

「うん。でも僕より先にハレルヤはアリサ達と話していたんだね。」

『ああ、俺の方が先に目が覚めてな。俺達が二重人格生涯なのをすぐ理解した。』

「そうなんだ。」

『だからっていつでもドコでも話しかけるなよ?』

「え?どうして?」


せっかく自分を分かってくれている人に会えたのに、
夜の夢の中だけの会話じゃつまらない。


『俺は実在はしてねぇんだよ。お前の脳にあるもう一つの意識なんだ。それは分かるな?』

「うん・・。」

『お前と俺の会話は、ハタから見れば全部前の独り言なんだよ。周りには俺の声は聞こえてねーの!』

「・・・!!そっか・・・。」


長い時間ハレルヤとの会話は、周りの人間から見ればアレルヤを変な目で見る対象となる。
ハレルヤはそれを避けているのだ。

『まっ、誰もいないところならいいけどな。』

「本当に?!」

『ちゃんと周りを確認してからだぞ?!』


「うん、ありがとう!ハレルヤ。」


アレルヤはすっかり目が覚めてしまった。
着替えて顔を洗えばスッキリと意識が定まる。

まだ皆寝ているようだから、少し朝の散歩をしようと外へ出た。


清々しい早朝に、鳥のさえずりがアレルヤの気持ちを癒す。

(そうだね。ゆっくり思い出していけばいいよ。)

本能的に悟ったのだ。
自分には家族がいないという事を・・・・。

ハレルヤの言っていた普通じゃないという事はきっと自分はきっと
他の人とは違う生活をしていたんだと・・・

ハレルヤが無理に思い出して欲しくないのは、
きっと自分の過去がいいと言えないから。


(ハレルヤは僕に・・・ずっとここに居て欲しいの?)


ハレルヤからの返事はなかった。





サンポが終わり、修道院へ戻ると院内がバタバタしていた。
大事なお客様でも着たのだろうか?


「アレルヤ!!」

「アリサ!!」


アリサはアレルヤの姿を見つけると息を切らして走ってくる。

「どうしたの?」


「アレルヤの事探してたの。」

「ゴメン。僕、朝早く目が覚めて散歩にいってたんだ。」

「それは分かったわ。でね、アレルヤにお客様が来ているの?」

「え・・・?僕に?」

アレルヤは修道院に入ってからまだ日は浅い。
知り合い程度のお祈りの常連さんならいるが、修道院がこうやってもてなしをするような知り合いはいない。

アリサに手を引かれて応接室らしき所に連れて来られた。


客人の顔を見ると、二人の女性とひとりの男性。


「アレルヤ!!」


アレルヤの顔を見たとたん、白人系の男性がアレルヤの名前を叫んだ。

「落ち着いて、ここは修道院なのよ。」

「あ・・ワリィな。ミス。」


アレルヤの名前を知っている。
間違いなく、アレルヤを知っている人たちだ。
きっと探していて、ここにいることをドコからが聞いたのだろう。


「アレルヤ。座りなさい。」

シスター長が、ソファの隣を叩く。
アレルヤはゆっくり座ると、本題の話へ写った。



ドアの外では他のシスターがヒソヒソと話しているのがアレルヤには聞こえた。


<わ・・・あにお黒髪の人が王家の当主だって>

<あの男の人ステキね。>

<アレルヤは前、王家に使えていたのね。探してくれるなんてよっぽど信頼されているのね。>




「アレルヤ。私はクジョウといいます。貴方の仕事の上司に当たるんだけど、覚えているかしら?」

「いいえ・・・。」


アレルヤが首を振ると、分かっていたようだったクジョウと名乗る女性は言葉を続けた。


「アレルヤ。本当に無事でよかったわ。無理にとは言わないわ。戻りたい意志はある?」



暫くの沈黙の間、アレルヤは断った。


「すみません・・・。僕の事を心配して探しに来てくれた事には本当に嬉しく思っています。
 でも・・・何も分からず戻るのは・・僕には辛いです。」


「そう・・じゃぁ、仕方ないわね。」


「よろしいんですの?」

「ミス!それじゃ誰がアレルヤの代わりをやすんだよ!”アレ”にはアレルヤじゃ・・・」

「静かにして?”ロック”確かに、アレルヤがいないのは痛いけど、
 今のアレルヤにはかえって混乱を引き起こすだけだわ。
 それに、こうやって無事を確認出来ただけでもいいじゃない。」

「私もそう思います。
 アレルヤ、もし貴女の記憶が戻ってもう一度コチラに戻りたいのなら、ここへ連絡を下さいな。
 そうしてら直ぐにでも使者を出しますわよ。」


留美が名刺の裏に、緊急の連絡先をアレルヤに渡した。

「有難うございます。留美さん、クジョウさん、とロックさん。」



アレルヤは修道院から去っていく。三人の背中を見送った。






『そうだ・・・それでいいんだ。アレルヤ。』


『ずっとここに居ればいい。嫌な記憶なんて思い出さないでいい。』


『お前はずっとここで笑って暮らしていればいい。そして・・・俺だけの為に存在していればいい。』















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