まだら模様のカーネーション 13 落ちていたのは紛れもなく、今三橋が持っていたビニール袋。氷が溶けはじめていた。 「ちくしょう!さっきの声はあのフワフワだったのか!」 凄いスピードで走り去った車、あの中に三橋はいたのだ。 榛名の直感が正しければ無理矢理連れ去られたのだ。そうでなければ、 運転に焦っていた車と、不自然に落ちていた荷物が説明がつかない。 「こうなるんだったら、さっき送っていくべきだった。」 今更後悔しても遅い。それより早くこの事を警察や学校に連絡するのが先決である。 「待ってろよ!フワフワ!」 榛名は三橋の持っていた荷物を持って西浦へと向かった。 三橋は榛名と別れる前、最後まで側に居てほしそうな顔をしていた。 あれはきっと三橋なりのSOSだったんだろう。服装だっていくら日焼けに気を使っていてもやりすぎだ。 まるで自分の事だとバレないように変装しているような、、 「くそ!」 今までにない距離を榛名は全力疾走した。西浦までは目前だ。 「アラ?三橋さんの姿が見えないけど、」 バイトから部活に戻ってきた百枝が三橋の姿を探した。 「チッス、監督。三橋ならお使いです。」 「え、一人で?」 「はい、そうですけど」 それが何かと不思議そうに花井は首を傾げる。 百枝は何か考え込んでいるようだ。 「花井くん。」 「ハイ。」 「三橋さん出てからどのくらい経った?」 「えっと、そろそろ30分経つかと、、」 「遅いわね。」 確かにここから往復で20分から30分位かかるが、三橋だし暑いから時間はかかるのは確かだ。 監督は少し三橋に対して最近過保護になっている。 百枝だけではない、志賀先生を始め学校の先生が皆そうだ。 百枝はベンチにる志賀の方へ駆け寄ると、顔つきは深刻そうだ。 志賀が動き出すと、百枝は頭を下げた。 「一体何なんだ?」 「花井、どうかしたか?」 「阿部か、いやさ、なんか監督と志賀が三橋に対して過保護すぎないかなって」 「そんなの今更だろ?」 「そりゃ、そうだろうけど」 志賀がグラウンドを出ると、入れ替わったように榛名が走り込んできた。 「おい!誰か大人はいないか?」 真っ赤な顔をして息を切らしている。オーバーワークを絶対にしない榛名らしからぬ行動だ。 「貴方、確か武蔵野第一の榛名君よね?」 「ハイ・・スイマセン。これ」 ハイと渡されたものは、花井が頼んだお使いの中身だった。 「どうしてこれが?」 「スイマセン。俺、帰り途中まで三橋と居たんです。 でも途中で別れてから、物凄い勢いで車が・・・気になって三橋の所に戻ったらコレ落ちてて」 百枝は一瞬で顔を青くさせた。志賀を呼び戻すと、急いで職員室に走っていった。 「皆は通常のメニューをやっていて!榛名君は着いてきて!」 「ハイ!」 「待てよ榛名。」 「隆也、俺は忙しいんだよ。緊急事態なんだよ。」 「三橋に何があったんだよ。」 「拉致られたんだよ。」 「榛名君!」 「今行きます。じゃあな、後でちゃんと話してやる。」 榛名は百枝に付いていった。 「なあ、どうしたんだ?」 キャプテンと副キャプテン、他校のエースが何か言い争えば、それだけ周りも不審がる。 「いや、監督が練習続けてだってさ。」 「休憩先だもんね、篠岡氷ゲットしたから、ポカリいれて〜」 どうやら話の内容は他の人には聞かれていない。 花井と阿部はアイコンタクトをとって、今のは黙っておくことにした。 でも、花井と阿部は三橋の事が心配でならなかった。 学校から通報して間もなく、パトカーが到着した。学校にパトカーなんて皆驚き、野次馬状態だ。 まだ夏休みだから人は少ないが、これが通常の学校なら大騒ぎだ。 一応目撃者は榛名になる。あまりに突然の事で、ハッキリと犯人の顔を見ていないと言った。 しかし、警察からは犯人の目星が着いていると言う。 「三橋さんは以前からストーカー被害に合っていてね。 引っ越す前の群馬県警からも詳しい資料をもらっているんだ。今回の原因はコレだろうね。」 榛名が目にしたのはこの前、雑誌に載っていた三橋の写真。 「やだ!三橋さんの写真載せられないように気を付けていたのに!」 百枝はまだ雑誌を見ていなかったようだ。 全員での集合写真は三橋の顔は隠れているが、隠し撮りをされたようだ。 「このような訳有りの子は正直に記者に言わないとダメですよ。いい被写体は直ぐに使われてしまいます。」 「これは僕達も考慮が浅かったね。」 「ところで榛名君、車の種類は解るかい?」 「えっと・・・車種までは色は黒で、 確かこんなマークついてました。ナンバーはすみません二桁しか覚えてないです。」 榛名は記憶の有る限りを思い出すが、脳裏に浮かぶのははっきりとしていない。 コレだけでも情報があれば警察は助かると言っていた。 群馬県警からの引き継ぎもあるせいか、捜査はしやすいのだろう。 「ところで、三橋さんの親御さんには、」 「まだ連絡がつかなくて・・・」 共働きの為、なかなか連絡がつかない。 「そうならコマメに連絡を入れて頂戴。犯人が親御さんになにか挑発的なことをする前に・・・」 「わかりました。」 「警部、容疑者の男の今日一日の行動の確認が取れました。あと、所持している車の種類も。」 「で?どうだ。」 「ほぼ榛名君のいっている通りです。色もナンバーも下二桁一致しました。」 資料に目を通す警察。 ここまで分かると、本部を一度県警に移すと戻っていった。 このまま学校にとどまるわけにも行かなく、生徒たちに不安を与えることになるからだ。 「では・・何かありましたら連絡します。」 「いえ、コチラこそよろしくお願いします。」 志賀と百枝は深々と頭を下げた。 「このまま三橋さんが戻らないとなると・・・。」 「皆に説明しなきゃいけないね。」 「あの・・・もう・・・。」 「あ、ごめんなさいね。榛名君、貴方がいてくれて発見が早かったわ。」 「・・・・タカ・・・阿部達、不審に思っています。」 「そうね、一番冷静にならなきゃいけないのは私達だものね。」 気を取り直して百枝は、頬を叩いてグラウンドへ行く。 グラウンドはいつもの練習風景になっていた。 「おそかったすね。監督。」 「花井君、皆をあつめて頂戴。」 「え・・?わ、わかりました。」 百枝と志賀、他校の榛名まで一緒に来たという事はただ事ではない。 花井は急いで集合をかけた。 何だ?なんだ?と皆不思議そうな顔をしたが、さっきのパトカーと三橋がいないことに 皆なにかしら勘くぐっている。 「・・・皆に言っておきたいことがあるの、三橋さんの事なんだけど・・・。」 「・・・・誘拐ですか?」 百枝が言う前に、ズバリを阿部が答えを言った。 阿部はさっき榛名に一言だけ”拉致られた”と聞いたからだ。 「でも、それだけじゃないですよね?監督。俺らに何を隠してるんですか?」 流石阿部の洞察力は尋常でなはなかった。 これが普通の誘拐事件とは違うことに確信を持っている。 「どういう事?」 意味が分からないと、栄口が口を漏らすと、一同栄口の意見に賛成する。 普通の誘拐事件でも大騒ぎなのに今度は何があるのだろうか? 「三橋が極端に顔や情報が漏れるのを恐れているのと、今回の事件何か関係あんじゃないっすか?」 「・・・流石ね。阿部君。そうよ、阿部君の言うとおり。今回の誘拐はちょっとね・・・。」 「でも何で?そんな事・・・確かに最近不審者がウロ付いているのは知っています。だから・・・。」 「フワフワを調べる為だろ?」 「榛名、お前に何知ってるんだよ。」 「お前と同じ、途中で気が付いた。さっき警察が言っているのとお前が言うので大体予想が付いた。 廉には引越し前から、しつこいストーカーがいたって言うしな。」 「「「「「「「「「ええ?!!!」」」」」」」」」 「そのストーカーが今回の犯人の可能性が高いの。でね、皆にも協力して欲しいんだけど、 この顔と車を見かけたらすぐに警察に連絡を入れ欲しい。 「あの・・なんで前に被害に合った時に警察に言わなかったんですか?」 「それがね、丁度そのころストーカー法がなかったのよ。引越し完し終わった頃、適用されたから・・。」 兎に角、今は皆三橋の無事を祈るしかないのだ。 尚江は今日久しぶりに早めに仕事が終わった。 やっと携帯を見ると、何件も着信が入っていた。 「あら・・・学校と・・・この番号は・・・・・!!!」 何か合った時に教えてもらった警察の番号とまったく同じだった。 「まさか・・・!!廉?!」 慌てて家に戻ると、家は閑散としている。 そうだ今、三橋は部活の合宿の真っ最中だ、家に帰っているハズがない。 タイミングよく、宅急便から荷物が届いた。 誰からだろう? 親戚から何かを送ったという連絡は受けていない。 扉を開けハンコを押した。 随分と軽い箱で、当日届けの時間指定荷物だった。 さっきの警察の番号と、身に思えのない荷物。 しかも送り主は知らない人から・・・。 住所は埼玉だが、こんな知り合い尚江にはいない。 中身が軽いのが気になる。 おそるおそる開けてみると、細い糸みたいなものが入っていた。 ツヤツヤでまるだ・・・人の・・・・・・ 「・・・・・!!!!!!!・・・な・・〜〜〜っ!!〜〜!!」 箱の中身に絶句した尚江は、あまりのショックで悲鳴を上げてそのまま床へ倒れてしまった。 |
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