5.17事件   後編






勢い良く扉をあけた女性は、クローゼットの中をあけて
今日のために用意したドレスとコサージュを手に抱え、三橋の腕を引っ張った。


「さ、行きますよ。」

「イヤ、だ!!」

「ワガママもいい加減にしてください!おじい様の顔にドロを塗るつもりですか?」



見知らぬ女性と三橋のやり取りを、西浦野球部はポカンと見ていた。
正直に言えば、蚊帳の外。
その女性は、野球部の事なんか眼に入っていたのだろう。

三橋はさっき親に逆らってみたと言っていた。
それがこの結果なのだろうか?


「今から飛ばせばまだ間に合います!」

「いやあー!!」



「あの・・・・」




居心地の悪い花井が代表をして口をだす。


「あ・・アラ、イヤだ。お客様がいらしたのに・・・私ったら!!」

女性は赤くなって、一歩下がった。


「今日は、皆と・・勉強会な、の!だから・・行かない!!」

「それとコレとは話が別よ!・・・あ」


なるほど、三橋は今日どこかへ行かなければいけないらしい。
だから三橋はいけない口実が欲しかったのか。
野球部の連中がお邪魔してるとなると、無理矢理連れ出すのも上手くはいかない。
客に、今すぐ帰れという形になってしまうから、失礼にあたる。




「ねぇ、みんな勉強はひと段落したんでしょ?」

「ええ・・?ま、まぁ・・。」


キャプテンの花井が代表で答えた。



「なら、いいわ。これから皆で帝国プリンスホテルに行かない?」

「「「「「「「「「はぁ?!」」」」」」」」」

「え?」



「今日はね、お嬢様の誕生日パーティーがあるのよ。」

女性はパンフレットを渡す。


「服は貸してあげるから、豪華な食事が食べ放題!ね?」


「え〜いいじゃん俺行きたい!」


食べ物に釣られて、田島が元気良く手を上げた。

「うん、素直でよろしい。」

「バカ!田島!そんな簡単に!」

「そうだよ、それに三橋の誕生日パーティーって言っても、きっと偉い人たくさん来るし俺達場違いだよ!」


何も考えもなしに突っ走った田島を、花井と栄口が押さえに入る。


「いいです!俺達すぐ帰ります。」


「そう言わないで、来てくれない?きっとお嬢様、あっち行っても堅苦しい挨拶ばっかりで、
 ひ弱な御曹司の相手するのもいやなのよ。君達がいれば、文句は無いでしょ?」


「・・・・はい・・・。」



祖父の秘書、奈美子は野球部に名刺を渡した。

「私は三橋グループの会長秘書、岡野奈美子よ。宜しくね。」

「コチラこそ・・。」
部のみんなは頭を下げた。



「さ、じゃ車は手配したし、行きますか。」



話がまとまった時には、人数分の車が三橋家の門前で待っていた。








「すっげぇ俺リムジン乗るの初めて。」

「みんな初めてだと、思うぞ〜。」

「でも、いいのかな〜。」

「それ俺も思った。」

ちょっと緊張気味の野球部たちだった。


帝国ホテルに着くと、奈美子に控え室を案内されて、一人一人に会うタキシードやら、スーツを手配してもらった。


「はは、田島似あわねぇ!」


「・・・花井は背が高いから、なんかしっくりくるな。」

「でも坊主!」

「うるせぇ!!」



「皆、準備はいい?」



奈美子が迎えに来ると、9人は奈美子についていく。
行く先行く先、他の大人たちから挨拶を交わされる。

「本日はおめでとうございます。」や「今日はめでたい」だの
きっと三橋財閥の取引先の人たちだろう。

そして、今日パーティーに出席する人。


確かに、周りがこんなんじゃ三橋も息が詰まるな。
自分が同じ立場なら、きっと出たくはないだろう。
阿部はきつく締めたれた、ネクタイを少し緩めた。


「お嬢様は後で来るから、ここで好きにしてて、で、はいコレ」


IDらしきカードが入っているプレートを貰った。


「首にかけておいてね。これで貴方達は三橋側の人間という意味だから、何かあったときはそのIDを相手に見せてね。」


奈美子は、三橋の様子を見てくると、女子の控え室へ行ってしまった。



「にしても、すげえ人。」

「田島のヤツ早速、料理に手を出しているよ。」

「本当に、アイツは・・。」


皿の上に、山盛りにされた料理は、すぐに田島のお腹の中へ収まっている。
野球部は何人かに分かれて、自由に行動をしていたが、アナウンスが鳴り、
主役の三橋の登場になったら、一度9人集まった。


三橋は、綺麗にドレスアップされていた。
長い髪の毛は綺麗にアップにされていて、ホルターネックデザインのドレスが色っぽく三橋の胸元を飾っていた。
きっとこのために用意したドレスだろう。
三橋に良く似合ってきた。




三橋の紹介が終わると、ボーイが参加者にシャンパンを渡す。
西浦メンバーも一人一人に、シャンパンを注がれた。


どうやら、乾杯の声が三橋の祖父が入れるらしい。


「アレが三橋のおじいさんか。」

「優しそうな人だけどな・・。」

「優しいだけじゃ、ねぇだろ。人の上にたつ人なんだから・・。」

「阿部・・。」



乾杯が終わると、周りの大人たちは社交という名の腹の探り合いをしていた。

三橋は、祖父と一緒に招待状を渡した、取引先のトップの人たちと挨拶をしていた。
横にある豪華な贈り物がたくさんある、みんな三橋への贈り物だろう。





「な〜、」

「なんだ田島?」

「三橋って、ヤッパリおっぱいでけぇな!」

「ぶ!!な。・・・お前!!」

「だってよぉ!」

TPOを考えない田島の言葉に、食べていた料理を花井は吐き出しそうになった。

今の三橋の服装は胸元が広く開いている。
多少はアクセサリーで、隠れているが豊満なバスとは薄いドレスの布では隠せない。
夜用のカクテルドレスは、肌が多く露出するように作られているのが多い。
パーティーの女性のドレスは、ノースリーブが多く肌の露出も高い。
体のラインが多く出てしまうから、気になっ見てしまうのは思春期の性であろう。


「ゴホ・・ゴ・・。」

「花井、平気か?」

「あぁ・・栄口サンキュ。」


「三橋早くこっちこねぇかな。」


「あの挨拶が終わってからだろう。そう簡単には抜け出せねぇって。」

「チェー!」


もっともらしい阿部の言葉に、田島はもう一巡食べ物を食べてくるらしい。




「で、阿部今日三橋が誕生日だって事、知ってた?」

「一応・・。」

「良く知ってたな。」

「浜田先輩とか、篠岡からな・・。」

「・・・プレゼントって・・。」


「・・・さすがにそれは・・。」



一応は用意はしてあるのだが、渡せなそうだ。
流石お嬢様となれば、プレゼントの普通のとは行かないだろう。
横にあるプレゼントの山から見えるのは、有名ブランドのシンサクバッグや時計、豪華なデザインのジュエリー。
あのプレゼントを見れば、渡せなくもなる。

「渡したら?」

「はぁ?」


「ああいうのが殆どだから、ちょっとしたプレゼントは良く使われるし喜ぶと思うけど・・。」


「まぁ・・サンキュ。今日じゃなくても、明日学校でも渡せるしな。」

「そうだな。・・お!挨拶終わったみたい。三橋こっちに来るぞ。」



三橋は、野球部のみんなの姿を見つけると、走ってきた。
かかとの高いヒールだったので、走る姿はタドタドしかった。

大丈夫か?阿部は転んだりしないか不安になり歩み寄る。
阿部の予感は見事に的中した。


「わ!!」


「あ、あぶねぇ!!」



周りの人が、危ないと言ったときにはもう遅く、三橋の体は持ち直すのは困難だった。
三橋も駄目だと、眼を瞑ったが、床に叩きつけられることはなく、人の温かい肌の感触がした。


「っと・・ギリギリセーフだな。」


見事に阿部が、三橋をキャッチしていた。


「あ・・阿部君!」


「三橋〜平気か〜!」


田島達が駆けつけてきてくれた。


「大丈夫・・だ、よ。」

「三橋怪我ねぇか?」

「ありがとう!阿部君。」

「あ・・別に・・。」



三橋の満開の笑顔に照れたのか、阿部は顔を赤くして横を向いた。
ヒール履いている時に、走るんじゃねぇと返されてしまった。


「ホラ、三橋立てる?」

泉が手を差し出した。
三橋もその手をとって、立ち上がる。


「三橋、疲れたでしょ?あっちに椅子があったから少し休んでから、なんか食べよう。」

「うん。」



泉と栄口につれられて、三橋は奥にある椅子に座った。

「じゃぁ、俺なんか飲み物持ってくるよ。」

「お、水谷が珍しく気が利いてる。」

「え〜ひどいよそれ!!」


水谷はボーイに頼んで、オレンジジュースを頼んだ。
それと、少しつまめるものを適当にお皿に乗っける。





パーティーはどうやら成功のようだった。
周りを見渡すと、にぎやかで笑いが飛んでいた。


するとBGMがクラシックにかわった。


どうやらダンスもするらしい。
仲の良い男女数組が、曲にあわせて踊り始めた。

すると三橋の元に、何人かの男がダンスの申し込みと迫ってきた。
三橋は踊りたくないらしいのだが、どう断ったらいいか分からなく、オドオドしていた。

どうやらこの男どもは、このパーティーで三橋とお近づきになろうとしているのだろう。
顔は知らないのは当たり前だが、どこかの御曹司ってヤツだろう。
金持ちは大変だなと思う。



「阿部助けてやらねぇの?」

「あぁ?」

(ああ・・やっぱり機嫌が悪い。)


それは当たり前だ、好きな女の子が他の男に無駄にアプローチをされているのだ。
面白くはナイハズだ。


「ウルセェな。俺には関係ねぇよ。」

「おーい。言ってる事とやってる事が別々だぞ。」

阿部の行く先はモチロン、三橋のところだった。




「廉さん、是非私と一緒に・・。」

「いえ、私と・・。」

「廉様、お手を・・。」



「おい!三橋!!」


「あ・・阿部く・・。」


「向こうでみんな待ってる。」


「うん!」


三橋はよってきた御曹司をよけて、阿部のところへ駆け寄った。


「お前また走ったな。あぶねぇからやめろよ。」

「うへ・・阿部君、ありが・・とう。」


「別に・・お前もっとハッキリしたほうが・・え・・!!」



三橋が、阿部のスーツをひっぱった。


「私・・奈美子さんから・・その、一曲踊らなきゃ・・いけなくて・・。」

「俺がいいと?」


コクンと頷いた。


確かにそれは願ってもない事だが・・。


「俺、こういうの出来ないんだけど・・・」

「大丈夫、、私、出来る。阿部君は、私の動きに・・あわせて!」


「おい!!」


三橋はグイグイと阿部を真ん中の、ダンススペースに引っ張った。


「阿部君、手を・・私の、肩・・と手に。」

「・・お・・おう。」

ザワザワと周りが騒ぎ出す。
今日の主役の三橋廉と男の子がダンスをしているからだ。


どこの御曹司だ。
どこの人間だと大人たちは騒いでいる。


「お前・・いつもこんな世界にいんの?」

「うん・・いやに・・なるで、しょ・・。」

「確かに、イヤだな。」


三橋は苦笑する。
それにつられて阿部も笑った。
阿部は運動神経がいいから、そつなくダンスをこなすことが出来た。
曲が終わると、阿部と三橋はみんなが待っているところへ戻った。


「よ!お帰り。」


「阿部〜カッコヨカッタゾ!」

「うるせぇよ!」


水谷の冷やかしに、阿部はムキになる。
まぁまぁ今日位は、栄口も止めに入った。


「ハラ減ったぜ。なんか食おう!」

「前はさっきから食ってばっかだろう!」













結局その日は、三橋の誕生日パーティーを満喫した。

豪華な料理にもありつけて、三橋とも多く話すことが出来たのだから、いいほうだろう。
いつもは阿部が話すと、ビクビクされるのが常だったが、今日は向こうから話しかけられたりとイイコトもあった。
帰りも三橋の祖父の秘書、奈美子にまたあのリムジンで送っていってもらった。


「みんな。今日はありが・・とう。」


「おお!楽しかったぞ!」

「料理ご馳走様!すっごいおいしかった!」


「また・・うちによかったら、遊びに来てくだ・・さい!」



野球部は快く首を縦に振った。














「ただいま・・。」


「おかえり!兄ちゃん!あのリムジン何?すっげけ!!」

「あ、いや・・。」


「ちょっとタカー!!あれは一体どういうことよ!!」


「俺夕飯いらねぇ・・。疲れた・・。」




「ちょっと!タカー!!」


この光景は、阿部家以外の家も同じだった。












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一応今回は阿部氏に良い思いをさせてみました(笑)
だって考えてみたら、私のアベミハって普通のがないんだもん!
普段怖がっているけど、助けてもらったし、数学教えてもらったし、今日はなんだか怖くないから
三橋から話しかけてみたよ的な感じです。

というかマワガガな三橋が、西浦ーゼを巻き込む話が書きたかっただけ。


前と後編の間がいやにあいてしまって申し訳なかった。
え?別に待って無かったって?あら、スミマセン。



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