不器用な彼女と器用な彼





雑誌の髪型特集の見出しは大抵簡単だの、可愛いとかすぐ終わるとか書いてあるけど
もう少し不器用な人でも綺麗に見えるアレンジ特集とか無いのだろうか?


三橋廉は教室で、持っている折りたたみ式の鏡と雑誌の睨めっこが続いた。
ちょっといいなと思って開いたページは
”不器用な貴女でも簡単アレンジ”と謳い雑誌には見やすく、手順つきで髪の毛のアレンジ方法が載っていた。


「・・うう・・うぅ・・これもできな、いなんて、私って・・。」


さっきから何度何度直しても思い通りにいかないフワフワな髪の毛。
ピンで留めるだけだから、できるだろうと挑戦してみたが結果は惨敗だった。
三橋は人一倍不器用な己を恨んだ。

「結ぶ事なら出来るのに、こうピンとかバレッタとかは全然ダメか・・。く〜!!」


三橋は匙を投げる。
床にさっきまで髪の毛になんとか止まっていたピンや雑誌が散らばった。



「・・・??ん?何だ?あの〜なんささっきすごい音したけど、大丈夫?」

9組のドアを開けたのは、他のクラスの男子だった。
この顔は見覚えがある。

「水谷君・・。」

「あれ、三橋さんどうしたの?一人で、あ、雑誌とピン落としちゃったんだね。拾うの手伝うよ。」

水谷は三橋が投げつけたとは露知らず、近くまでよって拾い始めた。

「え、あ・・いい。私がいけない・・から。」
「いいって、まだ部活始まるに少し余裕あるし!あ、これうちのクラスの女子も見てたよ。」
「そ、そうなんだ。」

水谷は付箋のしてあったページを開く。

「ヘアスタイル変えるの?三橋さん。」
「あ!!・・の、しようとして・・・なかなか上手くできなく・・・て・。」

まさかイラついて雑誌を投げたなんて言えるはずも無かった。

「そうだろうね。三橋さんの髪ってなんか柔らかい感じで、やってもペタってしような感じだね。」
「う・・・・。」

そう、さっきも可愛く留められたいいが、写真のようないいボリュームが出なかったのだ。

「俺の姉さんのネコっ毛でさ、いつもまとまらないっていってる。」
「へ・・・へぇ〜そうなんだ。」

散らかったものを全部拾い終わると、水谷は三橋の机に置いた。

「ありがとう。て、手伝ってくれて・・・。」
「どういたしまして。あ、そうだそれやったら見せてよ。」
「!!」

「ん?なんか俺まずい事言った?」

「あ・・その、私さっきから上手く出来なくて・・・」

視線を水谷からそらす。
ハッキリいって、見せる事なんて出来ない仕上りになることは分かりきっているからだ。

「そうなんだ。確かにその髪の毛は一人じゃ難しいよね。手伝ってあげるよ。」
「え!!でも・・水谷君・・ぶ、部活。」
「今日はミーティングだけ。さ、座って座って。どれにする?」

三橋は水谷の言葉に甘えて、さっきから苦労していた髪型の写真を指差した。

「わかったコレだね。クシ借りるよ。」
「はい・・。」

手際よく三橋の髪を水谷は解かす。

「三橋さんの髪も柔らかいね。こういったときはワックスあったほうが綺麗にまとまるよ。」
「わ、ワックス?」
「知らない?まとめ髪にはイロイロ便利だよ。特に三橋さん見たいな髪質の人にはね。」
「そうなんだ。」

綺麗にとかした後、何個かピンを取り、水谷は取り出しやすいようにポケットに入れた。
美容師のように手際のいい手つきで、三橋の髪は綺麗な旋律を描く。
他人に髪の毛を結わいてもらうのは久しぶりだった。
頭を撫でられる感じがしてちょっとくすぐったい。


「よし、こんなもんかな?ホラ!」


暫くすると、水谷は手を止めて鏡をとってくれた。

「わぁ。」

ちゃんと綺麗に髪の毛がまとまっているのを見て三橋は感動を覚える。

「み・・水谷君すごいね。」
「え?普通だよ。こういくのって慣れだから、三橋さんもやっていくうちに上手になるよ。あ、そうだ。」

水谷はバックから何かとりだして、三橋につける。

「それあげる。俺なんかより三橋さんに付けてもらった方がいいしね。姉さんのお下がりだけど。」
それは大きな花がついてある髪留めだった。
サクラをモチーフにしているのか、5枚の花びらが可愛い。

「あ、ありがとう。水谷君。」
「いいって!じゃ、俺そろそろ行くね。」
「うん!」


水谷は教室を出て行くと一気に走り出して野球部の部室へと向かっていった。


















「コラ!遅いぞ水谷!」

部室に入ると副主将の栄口が注意を促す。
水谷が最後ではなかったが、殆どがもう部室にいた。

「しょうがねぇよ。コイツクソレフトなんだし。」

「うぅ〜、酷いよ阿部。」


「お前教室出るの遅くなかったよな。どっかいってたの?」

花井は水谷より先に出て、監督と打ち合わせをしてからここへ着たが、教室を出るとき水谷の様子では特におかしい様子はなかった。

「あ、9組の教室でね、三橋さ・・・」

「三橋となんだって?!!」
「ひ!!」


三橋の名前が出たとたん阿部の態度は豹変した。
そう、阿部は三橋に惚れているのだ。
この男の片思いは野球部の公認となっている。

無論、水谷も知っている。
まさかここまで阿部がくってかかるとは思わなかった。

「部室行く途中で大きな音したから何かなと思って開けたら・・」

「倒れてたのか?!お前もしかして気を失っている三橋を・・・」

「阿部、ストップ!コレじゃ話が進まないよ。」

水谷の言葉一つ一つに、阿部が邪魔をするので栄口が取り押さえる。


「違うって、なんか雑誌とヘアピン落としたみたいだから拾うの手伝ってたんだよ。」
「でも拾うだけならこんなに遅くはならないだろ?」

泉はズバリ要点をつくと、阿部をチラっと見ながら言いにくそうにつぶやいた。

「三橋さんの髪の毛をその何ていうか・・・」

「触ったんだな?!」

「・・確かに触ったけど・・」

「てめぇー!!三橋が汚れるだろお前なんかが!!」

「あ・・阿部!落ち着け!!」

栄口だけはもう抑えられずに、花井も加勢に加わった。

「おい、水谷。阿部を興奮させるような言葉をいうな。」

「違うよ。三橋さん髪の毛が上手くアレンジ出来ないから俺が代わりにやったんだよ。」
「へ〜、お前器用だもんな。」
「よく出来たねそんな事。」

「雑誌あったし。カンタンなやつだったしね。でも慣れてない人には難しいかもね。」
「なんだそれでけかよ。」

泉は期待していた事と違ったようで悪態をついた。
それでも阿部の顔色は変わっていない。
どうやら三橋の髪を触ったというのがキーらしい。

恨めしそうな、羨ましそうな目線を送る。

「なんだよ阿部気持ち悪いな。」

「ずるい!お前だけ・・・俺だって触りたい!いや髪の毛だけじゃないぞ、顔だって肩だって足だって・・」
「お前はこれ以上キモイことを喋るな〜!!」

聞くに堪えられない花井は阿部の口を塞いだ。





「おーッス!!遅れててワリィ!!」

「お〜い遅いぞ田島。」

「ごめんってお腹すいて一回コンビニよってたんだ。」

これでようやく面子が揃ったのに、ミーティング所ではない。
沖や巣山はため息をつき、西広は苦笑している。

「ん?田島、篠岡と一緒に来たのか?」

田島は誰かの腕を掴んでいた。
そういえばまだ篠岡もきていなかった。
つれてきてくれたのか、と花井は田島も気が利くなと思ったのも束の間

「違うよ。三橋可愛いカッコしてたから阿部に見せようと思って・・・」

「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」

「ホラ!!」

「へ・・ちょ、あ・・」


田島に引っ張られて、三橋は野球部の部室の中に押し込まれた。

確かにいつものなにもしていないフワフワロングと違って、ちょっと手を加えられている髪型は三橋に良く似合っていた。

「な、カワイイだろ?」

善意と思ってやっている事だから、悪気は無いのは分かっている。
でもこの仕打ちは恥ずかしがり屋の三橋にとっては拷問だ。

「あ・・あ・・ひ・・・。」

「三橋!可愛いじゃん。」

とっさに浜田がフォローに周り、浜田自身を三橋のほかのナインのとの間の壁の役割をした。

「あ、あのね、水谷君すごいんだよ。」
「うん。」

「私・・そのこれ全然、できなかったのに・・水谷君やってくれ・・て」
「お礼いいに来たのか?」


「そ・・それもあるけ、けど・・」

三橋は水谷をみてそらし、また見てはそらす。


「三橋、思った事は遠慮なく言っていいんだぞ。」

比較的クラスでは仲のいい泉は、早く言ってくれといわんばかりに促した。


「み、水谷君!」

「お、おお!!」


「あの、さ・・さっき言ってたヤツ今度買いたい。だから、だから・・・一緒に、え・・選んでください!」
「いいよ。」

あっさりと水谷の了解がおりた。
即答で了解がもらえたのが嬉しかったのか、三橋が笑顔になる。

「じゃ、来週でいい?」
「うん!」

「じゃ、来週ミーティング終わったら行こうか。」
「うん!」

ありがとう、また明日ね。と上機嫌で三橋は部室を去っていった。

笑顔で手をふる水谷の後ろに、なにやら凄みを増した人影が映る。


「ほう・・クソレフト、貴様・・・貴様!!」
「わ!!あ、阿部!!」

「貴様、いい度胸だな・・。」
「あれは仕方ないよ。断ったら・・・それに俺だって・・」

「うるせぇ!!」

阿部が水谷に襲い掛かる前に、他のみんなが阿部を止めてなんとか収拾はついた。
でもやはり今日はミーティングどころではなく、その後すぐに解散になる。

阿部は水谷に悪態をつきながら帰ったが、
後日、何かと7組に三橋が顔を出すようになって、阿部から見ても三橋を多く見ることが出来て結果オーライだったのだ。
主に話すのは、篠岡と水谷だったが、この際それは置いておく事にしよう。








それからちょくちょく、水谷と三橋がドラッグストアで二人で買い物に来ているのを目撃される。
そんな雰囲気を周りの者はカップルと思っているようで、すぐに彼氏彼女という噂はすぐにひろまる。


そんな噂を聞いた阿部はやはり、水谷に理不尽な態度を崩す事は無かった。






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水谷×三橋←阿部?
初めての小説がこれですか?
挿絵で水谷君初描き。
なんていうか、水谷君が一番かきやすい!!

水谷君は器用だよと主張したいだけ。
でもって、水谷が三橋の髪の毛をいじくったり、綺麗にしてくれたらいいよって
いう私の願望。

原作でも、やってくれないかな〜。
ちょっと伸びたね。これで留めておけって
お姉さんから貰って可愛いピンでつけちゃえ!って感じで

漫画に引き続きここでも阿部の扱いは酷いな。
・・・こうしたほうが、阿部は動きやすい・・・・





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