天使の叫び声  1




六道敬の家は母子家庭だった。

生まれたときから父親はいないと母親から聞いていた。

しかしお金には困っていなく、むしろ経済的には裕福な家庭というポジションだった。

敬の母親、骸は昔一流企業に勤めていたお金を殆ど使っていなかったので、
お金が余ってるんですよと、言っていたのでそうなんだろうと敬は思っていた。


現在、母親の骸はその頭脳を生かして塾の講師をしていた。
教え方が上手いため、今では沢山の生徒が通いに来ている近所では有名な塾だった。

だから、他の進学塾や大きなところから引抜が結構きていたが、
骸は一人でゆっくりやりたいが為に断り続けている。


そう、骸が経営している塾は骸と敬の家で授業をしている。


人数が増えてきたため、最近は少し離れたところに専用の勉強小屋を作った。
年中24時間貸し出ししているため、昼間は予備校生などが勉強の場としてよく利用していた。



敬は母親に似て勉強がよく出来る子供で、同じ年の子供と比べるとやや大人びているところがある。
礼儀正しいと思えば、時にやんちゃなところも垣間見える。



「クフフ・・・、そこはお父さんに似たんですね。」


敬は時々そんな言葉を聞く。
骸は、敬が父親にそっくりなところを見せると幸せそうにそう言うのだ。


だから敬は父親は死んでいると思っているのだ。
この家には父親の写真や、形見などは一切なかったが、骸が嬉しそうに父親の話をする時があるから
骸が敬の父親を愛しているのは敬にもよくわかる。


きっと思い出してしまうから、骸はワザとそういったものを置いていないんだろうと、
子供ながらに母親の事を思っていた。

学校の父親参観や、運動会で父親と一緒に走る競技などで父親が欲しいと思ったことは度々あったが、
骸が幸せそうに”敬の黒髪はお父さんから貰ったんですよ””敬の顔はお父さんに似ですね”と
言葉を聞くと、言い出せなくなっていた。


それでも良かった。

だって、敬は母親の骸の事が大好きだったから。


それに、家もあるし、学校に行けば友達もいて近所の人たちからは可愛がってもらっている。

敬は今幸せだった。











その日は、学校帰り友達と寄り道をしていて遅くなってしまった。

大好きなお菓子メーカーで新作のチョコレートが発売するから皆で食べようと
帰りにお店で買って公園で食べた後、そのまま遊んでいた。


気付けば空は暗くなっていた。


じゃ、また明日と、皆自分の家への道を歩いていった。


「すっかり、遅くなってしまったな・・・。」


ここまで遅くなるのは初めてかもしれない。
骸が心配しているかも。


敬は急いで自分の家へと向かった。


「ん・・・?」


ふと、自分の町に見慣れない男の姿が見えた。


(何だろう?こんな小さな町に・・・)


ここはちいさな町だ。よそ者は直ぐに分かる。


よく見れば一人じゃなくて、数人いた。
黒いスーツを着た男たちだった。


(・・・どこかの会社の出張かな?)


ま、いいかと帰りを急いだもの束の間。
一般世間じゃあまり聞かない音がした。

銃弾の音だ。


(え・・・・?!)


どうしてこんな所で?
敬は好奇心に負けて、銃弾音のしたところへ恐る恐る足を踏み入れた。


よく見れば、何人かの男が血を流して倒れていた。


(・・・!!!)


このまま見つかっては、自分も殺されてしまう。
自分は何てバカなんだろう!好奇心に負けて自ら危険な場所へと踏み入れてしまった!

ゆっくりと足を動かして、気付かれないように後ずさりする。

だがちゃんと足元を見ていなかった敬は木の枝を踏んでしまったのだ。

「誰だ!!」

「ヒ!!!!」


恐怖のあまり声が出ない。
どうしよう。


殺される

殺される

殺される







が、そんな敬の気持ちも束の間、うろたえたのは黒いスーツをきた男達の方だった。


「な・・・てめぇは・・・。」



「バカ!そんな口の聞き方!・・」

「あの黒髪といい、眼つきといい間違いねぇ・・・。」


「雲雀恭弥さんか?」



「・・????」


敬には男達の言っている意味が分からない。
どうやら敬とある男が似ているようで勘違いをしているというのだけはわかった。


「僕は・・・その・・・。」


「おい、よく見ろ子供だ。雲雀恭弥じゃねぇ」

一人冷静だったヤツがいて、仲間に教えた。

「へ・・・ビビらせるなよ。」

「しかし、どうしますこのガキ。」

「殺すのはな・・・。」


どうやら男達はそこまで残忍な性格ではないらしく、敬を殺したくないように見えた。


「それならこれで、全部夢でしたーって終わらせるか。」

「そりゃいいな。」


男は大きなバズーカーを敬めがけて打ってきた。



「うわぁぁぁあぁ!!!」



ちょっと信じた僕がバカだった!

ヤツらちょっと隙を見せて、口止めに殺す気満々だったんだ!

人間死ぬとき、走馬灯という今までの人生が垣間見える現象が起きる。
敬の走馬灯は母親や友達、近所の人と楽しく過ごした日々だ。


(ゴメンネ・・・お母さん・・・)



白い煙と共に、敬の姿が消えた。

「よし、トンズラこくぞ。」

「しっかし、あのガキボスの親しい雲雀さんに似てましたね。」

「俺、ビックリしたぜ。」

「帰ったら、ロマーリオの兄貴にちょっとネタとして提供してみるか。」

「この町に雲雀さんそっくりのガキがいるって!」

「ボスのやつ、見に来るぜきっと。」

「そういやぁ、あのガキの10年後の姿見る前でよかったのか?」

「予想はつくって、中高生の時の雲雀さんそのままだぜ。」

「ああ、そっか・・・。」



しかし、その場所に10年後の敬の姿は現れることはなかった。














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