陰に咲く花 5


それからティエリアと会うことなく、ミッションガ進んでいた。
機体の相性からいって、アレルヤはティエリアと組むほうが効率がいいのだが、
最近は刹那と組む事が多くなった。

単なる偶然なのか?
それとも意図的に仕組まれているのかアレルヤには分からなかったが、
与えられて任務をこなす日々が続いていった。


ある日のことである。

「地上ですか?」

「そう、アレルヤとティアリアは宇宙の任務が多いから、それに育ったところもそうだしね。
 でもそれじゃ困るのよ。地上の方でもなれて欲しいの。」

「そういう事ですか・・。」


それからすぐにアレルヤと刹那は地上に降りた。
刹那は地上に借り住まいがあるが、アレルヤにはなく
仕方なく、王留美の取り計らいで仮住まいを貰った。


地上になれるというだけで、よく言えば地上で待機といっても過言ではない。
それならトレミーにいて、イアンの操縦を代わっていたほうがよっぽど為になるかと思うのだが・・

(僕はずっと宇宙にいても平気なのに・・・)

『仕方ねぇだろ。みんな俺たちのこと普通の”人間様”と思ってるんだからよ。』

「ハレルヤ・・。」

『それよりも、早くこの荷物何とかしろよ見苦しいぜ。』

「あぁ、ゴメン。」

必要最低限の荷物しか持ってこなかったけど、ハレルヤから見れば見苦しいのだろう。
最近はスメラギやクリスからの贈り物が増えて、トレミーでもアレルヤのクローゼットの中は異様に服が多くなった。

”毎日刹那に会うわけじゃないし、別々行動だからアレルヤも少しはオシャレでもしなさい”

そう渡されたまた新しいプレゼント。


(ちょっと着てみようかな?・・ハレルヤいいかい?)

『・・・・。』


返事がない。
アレルヤは肯定のサインと受け取り、来ているカジュアルな服を脱ぎだした。
すると狙ったかのようにチャイムが鳴った。

「え!!・・刹那かな?」

玄関を確認するモニターを見れば案の定、刹那の姿があった。


「すまない。アレルヤ今平気か?」

「うん。構わないよ。」

刹那はアレルヤの部屋に入る。
そして何かプラスチックの箱を取り出して、アレルヤに渡した。

「刹那?これ・・・。」

「隣人からもらった。俺一人じゃ食べきれない。」

「僕にくれるの?」

「ああ・・」

「有難う。喜んでいただくよ。」

「じゃ、俺は帰る。」

「え?もう?」

「片付けの邪魔して悪かったな。」

引っ越したばかりの散乱している部屋を見て、刹那は溜息をつく。

「あ・・そうだった。ゴメンネ刹那。」

「別にあやまる事じゃない。何か不便があったら俺に言え。」

「分かった。ありがとう刹那。」


刹那は用件だけ済ませるとすぐに返ってしまった。


(はぁ〜びっくりした!!)

『おい、気をつけろよ!』

(分かってるよ!ハレルヤのバカ!)


結局、今日はジーンズにそれにあわせるミニワンピで片づけを始める。


「そっか、別にスカートだけが可愛い恰好とは限らないよね。」

鏡に映った自分の姿を見て、パンツスタイルなら結構抵抗なくいける自分に気付いた。
暫くはズボンスタイルで慣らしていこう。
刹那が突然来ても、ズボンなら気にならないしパーカーを着てしまえばばれないだろう。

アレルヤは不謹慎だとも思いながら、ノリノリで待機生活が始まった。



そして、アレルヤの読みどおり刹那は頻繁に隣人からもらったと言って、
食べ物をよく持ってきてくれる。
特に食べ物には困っていないアレルヤだったが、こうやって刹那が持ってきてくれる事に嬉しさを感じていた。

「刹那、いつもありがとうね。」

「いや・・べつに・・・。」


「???」


刹那は普段は口数が少ない。
アレルヤの前でもそれは例外ではない。
ハレルヤはよく刹那はアレルヤの前では、一番よくしゃべると言っていた。
特に自覚はしていないが・・・。


「なぁ、アレルヤ。」

「なんだい?刹那・・。」

「どしてアレルヤからは女の匂いがするんだ?」

「えええ!!!」


刹那から衝撃的な一言がでた。
女の匂いとは、刹那の言っている意味が分からない。


「刹那・・一体何をいってるんだい?」

「言葉通りだアレルヤ。お前から男の匂いが感じられない。」

「・・・・。」

「・・・。」


『おい、アレルヤ!この前の眼鏡といいチビといいお前は一体どこでヘマをしたんだ!』

(そんなの僕が聞きたいよ!)


黙ったままのアレルヤに、刹那は言葉を付け足した。


「すまん、俺の勘だけでもの言ったんだが、俺はアレルヤが女にみえるんだ。」

「あ・・なんだそういう事。」

まだ確信はもたれていない事にほっとした。
これなら誤魔化せるなと思いきや・・・


「誰にも言えずにいたら、この前聞いてしまったんだ。」

「何をだい?」

「ティエリアとアレルヤの会話を・・・そのお前が女だっていう事を・・・。」


『このチビ、聞いてやがったのか!!』

(ハレルヤ!落ち着いて!!)


「・・・・。」

「アレルヤ・・」

「え・・・!!」


刹那の顔が近くなったと思ったら、今度は視界が天井に変わった。
刹那に見下ろされている体制になる。


「まだ半信半疑だ。」

「ちょっと刹那・・」

これからの行動が容易く予想がつく。
刹那は自分の目で確かめようとしているのだ。
アレルヤの服に刹那の手が届いた。

「刹那・・!!」

上に着ていた大き目のパーカーのファスナーを下げられると、
いかにも女性者のトップスが刹那の視界にはいる。
それだけでもう確定なのに、刹那は手をやめることはなかった。

「ちょっと刹那!!もういいだろ!」

『アレルヤ、代われ俺がコイツをボコボコにして殺してヤル!』

「うう・・ハレルヤ・・駄目だ。」

「ハレルヤ?」


刹那はアレルヤのインナーを捲って、アレルヤの体をみた。
そこには女性特有の柔らかな膨らみがあった。
下着も女性者で、上品なデザインがアレルヤの体を綺麗に見せている。

「本当に女・・。」

男の性なのか、見てしまうとついなのか刹那はアレルヤの膨らみを下着越しから掴んだ。

「ひゃ!!」

「あ・・す・・すまない!」

我に返った刹那は腕をひっこめて、アレルヤから退いた。
無言で気まずい空気の中、一本の通信が二人の端末に入った。


「アレルヤ・・・あら?刹那も一緒なのね。なら刹那も聞いて頂戴。」

「スメラギさん。」

「アレルヤ、地上には慣れたかしら?そろそろミッションはいってもらうわよ。」

心の中で、もう少し早く通信をいれて欲しかった。
そうすれば、こんな恥かしい思いせずにすんだのに・・・。


「え、あ・・はい。」

「場所は?」

「あら、刹那とアレルヤは随分仲がよくなったわね。アレルヤはそろそろ男の子は卒業なの?」

「え・・?」

「アレルヤ、今の恰好分かってる?」

端末越に指を指されると、パーカーのファスナーは全開だ。
無論、さっき刹那に不本意ながら押し倒されていたのである。


「アレルヤもやっと女の子の恰好してくれるのね。嬉しいわ。」

「こ・・これは違うんです!」

「あら、そうなのつまんない。刹那は知ってしまったのね。」

「あぁ。」


顔色一つ変えない刹那の態度に、アレルヤは何故か悔しくなった。
アレルヤの事など、女のうちに入らないと言われているみたいでちょっと悲しくなった。


「それは置いておいて、詳しい事は移動をしながらね。
 各機の端末に詳しい情報を入れるから二人とも機体のところへ行ってくれる?」

「了解した。」

「わかりました。」


スメラギの通信はソレで切れた。
刹那はすぐに玄関へ向かったが、アレルヤはそうしなかった。

「アレルヤ行かないのか?」

「すぐ行くよ。流石にこの恰好じゃね。きっとミッション終わったらこのままトレミーへ帰艦するだろうから見られたくないんだ。」

「俺は・・・別に気にしない。」

「僕が気にするんだ。それに僕が女だって事は、スメラギさんとクリスとティエリアと・・刹那、君だよ。」

ちょっと前までは、スメラギしか知らなかったのに、段々隠し通せなくなってきた。
そろそろ潮時なのだろうか?、

「半分半分なんだな。」

「最近までは、僕とスメラギさんの秘密だったんだけどね。」

「分かった。俺は先に行っている。」

「有難う刹那。」

「じゃ、また後で・・。」

「うん。」

玄関のドアがしまると、アレルヤは急いで着替えた。
サラシを巻いている時間がない。
それなら、厚着をしてなんとか誤魔化そう。


『おい・・アレルヤ・・。』


心底不機嫌なハレルヤの声が頭に響いた。

「な・・何かな?ハレルヤ。」

『お前・・後で覚えてろよ?トロトロしえるからあんなガキに・・・!!』

「ゴメンてば!ハレルヤ!!」

『今日の操縦俺に代われ!アレルヤ!』

「ええ!!!」

『アレルヤ・・俺のいう事が聞けねえのか?』

さっきより怒気の帯びた声になる。

「わかったよ・・・。ハレルヤ。」

ハレルヤは怒っているのだ。
アレルヤが今度は刹那に本当の性別がばれたからだ。
それだけではまだしも、胸をつかまれた。

『冗談じゃねぇ!アレルヤは俺のものだんだ!』






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