君はお嫁さん  前編


純和風の庭に建物。こんなものが地下にあるなんて、誰が考えるだろう。
雲雀は愛用の黒い着物に身を包み風流を楽しんでいた。

「恭さん。」

「哲かい?いいよ、入って。」

失礼します。と襖が開いた。


「恭さん、これがこの前の資料です。」

「ご苦労だったね。あ、そうだ忘れてた。」

「何です?」

「哲、言い忘れてたけど来週から骸が来るから。」

「骸がですか?珍しいですね。」


マフィア嫌いの骸から来るとは珍しい。
風紀財団のすぐ隣にはボンゴレのアジトもあってか骸はなかなか出向く事はない。

「チョコレートと紅茶の用意ですか?」

「いや、もうそんな事しなくていいよ。」

「??」

「僕達結婚することにしたから。骸がここに住むの。」

「・・・えぇ!何時の間にというか、籍は?挙式は?沢田さんには言ってあるんですか?」

「まだ。」

(順序が逆です。)

「何か言ったかい?そういう手続きはもう少し落ち着いてからにするよ。」

「骸の部屋は?」

「僕と同じに決まってるじゃない。」


当たり前のように雲雀は言葉を出した。
いつも傍若無人の如く、行動には驚かされたり俺様な発言はいつもの事。
しかし、今回の配偶者問題はもっと早く言って欲しかった。雲雀はモテるのだ。

近づきにくい印象だが、持ち前のルックスと強さで他ファミリーのボスから是非、婿になんて話は少なくはない。
雲雀には直接言いづらいのか、話は綱吉を通して草壁にまでやってくる。
明日あたり、雲雀に婿に望んでいるファミリーのボスの娘の見合い写真付リストを見せる予定だった。

草壁は雲雀には恋愛や結婚には興味が無いことは知っている。
が、これを機に雲雀には身を固めて貰おうと思っていた。

(よりにもよって、六道骸とは!)

昔から、骸に執着しているのは事実。

(いつから何ですか?恭さん!)

草壁は言葉にならない叫びを心の中でぶつけた。
実は草壁、骸の事はあまり好きではない。





「こんにちは、雲雀君。これから宜しくお願いします。」

「やだなぁ、骸。ここは君の家同然なんだか畏まらないでよ。」

「草壁君も迷惑かけるかも知れませんが、宜しくお願いします。」


骸はちゃんとお辞儀をした。日本に長く居るせいか日本の礼儀はある程度わかるようだ。
言葉使いももともと丁寧だし、良しとしよう。

「こちらこそ。」

草壁も軽く頭を下げた。






雲雀は現在仕事が忙しい時期にいる。
骸は反対に綱吉から任務を渡されていなく、暇をもて余していた。

いつもなら、クロームとスイーツと紅茶を楽しんでいるが、一人でそんな事する訳にはいかない。
寝室は雲雀と同じだが、一室骸がゆっくりできる部屋を貰っていた。
日本のグリーンティーを飲んでいると、誰かが声を掛けた。


「骸さん、今宜しいですか?」

「その声は草壁君ですね。どうぞ。」

「失礼します。」


草壁は骸に一冊の冊子を渡した。

「おや、何ですかコレ?」

「日本には良妻賢母という言葉がありまして、恭さんの実家は嫁の教訓があるんです。
恭さんねことだから、実家なんて絶縁状態なので必要ないと言っていましたが、念の為。」

「わざわざありがとうございます。日本は奥深いですね。」

完璧主義の骸の事だ。
すぐに食いついて実践するだろうと、草壁は読んでいる。
一方骸は純粋に嫁のしての心得的なものを貰えて、認めてもらえたようでくすぐったかった。
早速読んでみる事にした。


1、主人より早く起き朝食の準備をする。

「まあ、これは一般的ですね。でも僕料理はあまりしたこと無いですね。」

2、掃除は塵一つ残さない。 

「よくお昼の嫁姑ドラマでありそうですね。」

3、常に慎ましく、夫をたて大和撫子のようであれ

「これが日本女性の象徴なんですね。」

4、雲雀家主人と姑の言うことは絶対

「思ったより雲雀くんは、いいところのお坊っちゃんみたいですね。」


イタリア出身の骸には理解しがたい内容もある。
しかし、雲雀と結婚するならコレくらいは出来て当然なのか。

幸いにも雲雀は現在出張中、帰ってくるのは三日後。
簡単な掃除と料理くらいは出来るだろう。いつも大抵はそつなくこなす骸の事だ、大丈夫だろうと思っていた。
台所を借りた骸、王道肉じゃがを作ろうとしたが、、

「骸さん、コレじゃちょっと」

草壁が付き添ったのにもかかわらず、結果無惨。
とても食べられるものではない。

「骸さんは卵焼きから練習した方がいいですね。」

草壁は深くため息をついた。こんなはずでは無かった。
野菜も上手く切れたし、はじめは順調だったのに
前だって、千種が不在の時はクロームと二人で作ったが、
こんか事にはならなかった。なかなか上手くいかないものだ。
料理は暫く練習しよう。


洗濯を手伝う事にした。
家事の本を購入して白いものと色物を分けるが、何故か一緒に洗濯され白いものが染まっていた。

「え、どうして?」
「駄目ですよ骸さん。白いものは別々にしなくては、、」
「すみません。」


次は頑張ろうと思っても、手伝えば手伝うほど失敗続き。
注意を払って、一度確認したのにも関わらず、入れた覚えのないものが入っていたり。
かえって部屋やモノを汚されたり、何かがおかしい。



これは嫌がらせだ。骸に対する誰からの嫌がらせだ。
どうせ雲雀と骸じゃ釣り合わないとでも言いたいのだろう。

暴れてイタズラの首謀者を巡らせるのはいとも容易いが、そうすれば雲雀に迷惑がかかってしまう。
それだけは避けたい。骸は今まででも沢山の罪を犯してきた。
これ以上は骸もしたくない、そんなことしたらもう雲雀と一緒に居られなくなってしまう。

「そんなのは嫌です。」

雲雀が戻ってくるまでは大人しくしておこう。自分でことを大きくしてはならない。



雲雀が戻ってきたら 相談してみよう。骸は今日早めに眠った。

雲雀のいない寝室はとても寂しかった。



次の日も骸は雲雀家嫁心得を懸命に読んでいた。部屋が大分散らかっているので掃除をしようと思ったのだ。
掃除用具を借りて自分の部屋を掃除した。流石に骸の部屋は誰も手足が出来ないのか、普通に出来てしまった。

「やっぱり」


誰かが故意的に邪魔している。確かに骸は犯罪者で今まで数々罪を犯してきた。
快く思わない人間の方が多いのだろう。

まだ骸の事を悪く思っている人は多い事は分かってはいたが、実際目の敵にされると辛いものがある。

「僕も弱くなりましたね。」

昔の自分なら、かまわず皆殺しにしていたというのに・・・・。


借りていた掃除用具を片付けようと用具室へ行く途中、草壁に会った。

「こんにちは骸さん。」

「おや、草壁君。」

「掃除ですか?」

「ええ。もう終わりました。」

「そうですか・・・。」





「草壁君、そんなに僕が気に入りませんか?」

「気付いてましたか・・・。」

「君以外に心当たりも、こんな事出来そうな人居ませんからね。」


パタンと掃除用具を片付けて、掃除用具を閉めた。

「貴女の隙を見つけるのは大変でしたが、以外に集中すると気付かないものですね。」

「ええ。僕もビックリしました。」

気付かれてしまっては、もう嫌がらせはきかいないだろう。
雲雀に結婚の事を直接抗議するしかない。
草壁はもうこれ以上はしませんと言って、違う道を曲がっていった。


「ヤレヤレ、とりあえずは少し片付きましたね。・・・って・・え・・?」


骸は少し休もうと、寝室に戻った。
浴衣に着替えて軽く寝ようと、自分の浴衣を出したがいいが・・・


「・・・・草壁君。流石にこれは僕も・・・」

泣いてしまいます。

骸用にと特注で作ってもらった藍色の浴衣。
骸の髪色が映えるように、少し淡い色に染めてもらった浴衣。
見るも無残な姿になっていた。
まだ一回しか着ていなかったのに・・・。


「う・・・。」


流石の骸も泣き出してしまった。
泣いては駄目だ。泣いてしまったら相手の思う壷なのだから・・・。

「うう・・う・・ヒック・・。」


泣いていると、今度はノックも声をかける事もなしに襖が開いた。






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