DOLL   4





”死んだんだって?あの娼婦。”

”そうそう・・・なんか見るからにやるれてたものね”

”あの主人も奥様がいるのね”

”やりながら死んだんだってな”

”ふん。娼婦なんてこんな扱いばっかりだよ”




棺桶の中の女性は安らかな顔をしていた。
なにかと自分を助けてくれた人。


いろいろと、男達からの対抗手段などを教えてくれた人。
あの気の多い主人から自分をも持ってくれた人。



マリアさんは死んだ。
その知らせを受けたのは、修道院だった。
オディロ院長が教えてくれた。


ククールはマリアの葬儀に参列したかったが、マルチェロが反対した。
理由は、その貴族ではなくその女の身分のせいだった。
わざわざ行くこともなかろうと・・・

それに何故こんな卑しいものの葬儀に行く必要があるのだ?

マルチェロはククールを睨みつけると、軽蔑するような視線を送り去っていった。

しかし、マリアの祈りを捧げるのはオディロだったためククールはついていくことを許された。

屋敷の主人は参列していたが、やはり正妻のほうはいなかった。
無理もない。
オディロがお祈りを捧げたあと、一本一本花を添えるが人も少なくすぐに終わってしまった。
ククールが花を添えてマリアの所から離れようとしたが離れられない。
コレが終わればもう棺桶は埋められてしまうのだ。

もう会えない。
屋敷に行ってもいないのだ。


「う・・うぅ・・・・。」

マリアにすがりつきククールは涙を流した。







『私なんかが死んでも誰一人悲しまないだろうね。』
『なんで?』
『この町では私は浮いた存在だよ。』
『そんなことないよ。マリアさんは・・・・・』
『ありがとうククール。でもねククールいずれあんたもわかるよ。』
『?』
『・・・もうこの話はやめようね。辛気臭いわ。』
『ねぇ、マリア・・・もし・・マリアが俺より先に行くようなことがあれば、俺がいっぱい泣いてあげるよ。』
『ありがとう・・・。ククール』


そういってマリアはククールのおでこにそっとキスをした。



それからだマリアがすぐ逝ったのは・・・・。



















かすかな水音でククールは目が覚めた。

「そっか・・・俺・・。」


また動きづらくなった体をゆっくり起きあげさせる。
懐かしい夢だ。
今思えばあれが、ククールの初恋だったのかもしれない。
優しかったお姉さん。

もう何年も前にもなるのに鮮明に覚えている。


「はやくしねぇと、みんなが起きちゃうな。」







案の定、剣の合同練習は最悪の体調で迎えた。

二人組みになり剣を交えあう。
しかし、全くククールはすぐにばててしまい座り込んでしまった。
「おい、ククールお前大丈夫か?」
「あぁ・・・。」
「嘘つけ!そんな真っ青な顔でいっても説得力ねぇよ。」
「そうか・・はは・・・。」


ククールはゆっくり立ち上がってレイピアを構えた。
「あいにく、休んでると団長がうるさいんでね。続きするぞ。」


「その必要はない。」


「!!」


マルチェロは既にいたのだ。気づかれることなく。
レイピアを取り出し、ククールの相手をしていた団員を退けてククールの前に構えた。

「ククール。前はいつもの行いがまわってこのような状況を作っている。」
「・・・・」

「無様だな。お前は見るからに落ちこぼれだ。」

マルチェロの挑発にククールは腹をたてマルチェロに向かっていったが、すぐに倒れた。
「・・・・コレにこりたら少しは、酒場や賭博にはやらぬことだな。」
ククールには返事がない。


気絶している。


「この根性無しが!」

マルチェロは他の者にククールを運び出させ、また残ったものはそのまま続けるように命じ自室へ戻った。










”いずれあんたもわかるよ。”



浮いた存在。
落ちこぼれ
性欲処理


なんだ、考えてみれば同だとククールは理解する。
あの時はまだ幼くて、体は汚れてしまってはいたが心は純粋だった。
だからマリアの言い残した言葉の意味がわかっていなかった。


最近になってよくマリアの夢を見るのは自分が彼女に似てきたからだ。
同じ運命をたどって逝くのだろう。


ふわふわと、やわらかいベッドの中でここ数日の疲れを癒していた。
ここなら変に扱われることはないだろう。
団長の部屋に近い。
思いっきり抵抗したら何事かと思いきっとマルチェロはくるはずだ。
規律を破ったものの制裁を下すためにきっとくる。

いっそのことマルチェロに見つかった方が好都合だ。
それでこの悪夢から開放されるのだから・・・・・。

今は楽しいことを考えていよう。
こんなふかふかのベッドに入れるなんてめったにない。
ああ・・・気持ちいいなと思った。
やっと安らげた。
このまま邪魔されずに安眠を続けたい。
ほら、睡魔が程よい誘惑をかけてくる。

まぶたが重い。
あったかい。
うとうとともう少しのところだった。





「よう、ククールちゃん。具合どう?」


もう聞いただけで拒否反応が出る声だ。
シーツで体を包み威嚇する。

「そう警戒すんなよ。すぐに気持ちよくしてやるから。」

下品な笑いが部屋からこぼれる。
出口はひとつしかない。
いや、むしろチャンスかもしれない。
今騒げば・・・・


「そんな怖い顔すんなって・・・」
「そうだぜ?これからお楽しみなんだから・・」

はやりこの者たちは自分達の欲しか考えられなくなっている。


「・・・お前達の相手をしている暇はない。」

「そうつれなくすんなって」
一人がいつの間にか、後ろに回っていた。
シーツをひっぺ換えされて、倒れる。
それを見計らって他の団員も身を乗り出した。


「今日はいつになく抵抗するな?」

出来るだけ物音を立てて、あぁ・・声もださないとな。

「放せよ!」


「バカ!てめぇそんな声だしやがったら・・・!」

一人がククールの口をふさいだ。
「〜〜ん!んん!!:」


手足をばたつかせたが、相手は数人いる。
大の男数人に押さえつけられては手も足も出ない。

「そう、騒ぐなよ。」


「〜・・!!ぁ・・いやだ!!」

あっという間に衣服は剥けられ恥ずかしい体勢を取らされた。
ククールの肌にはまだ、数多くの内出血が残っている。

「・・へへへ・・まだ俺達の付けたの残ってるぜ?」
「いい眺めだな。」


勝手に順番を決め、慣らされてもいない体に無理やり入り込んできた。


「ひ?!!」

おわっても次から次へと・・
終わってもまた巡回を繰り返す。

あまりの苦痛と不快感で館内に響くんではかなろうかというような悲鳴が流れる。

「バカ?!うるせぇよ。」
殴られても、顔を殴られるより押し込められたところの方がいた。
そんなの叫ばずにはいられない。

「おい、コレじゃ人がきちまうぞ。」
「・・今日はたっぷり可愛がってやるつもりだったが・・」
「とっとと終わらせてトンズラこくか。」

痛さ加減が限界でずっと叫んでいる。

「おい、やばいぞ。なんかこいつ・・」


「あぁぁぁぁぁああああ・・・あがぁ・・・!!!」


ククールの変貌に中で貫いていた者もさすがに萎えてしまった。
発狂したかのような・・・・


外が騒がしくなった。


「ククール?!何事だ。こんな夜中に!!」
マルチェロが眉間に皺をよせて、今にも切りかかってきそうなオーラを発していた。
マルチェロはノックせずに入って今の情況をすぐに理解した。

「誰かいるか?」

「はい、ここに!」

マルチェロの副官を務めている小隊長が横にいた。
「この者たちを牢へつないでおけ。」
「はっ!」


それでもククールの狂ったよな叫び声は消えない。

「ククール貴様いいかげんにしろ!」
マルチェロがククールの手首をつかむと、なおいっそう極度に反応し泣き出した。
「・・・・ククール・・・お前・・・。」
これはマルチェロも驚き立ち往生だった。


しかし、すぐにククールの声はやみ、泣き止んだかと思えばバタっと大きな音を縦ながら倒れた。


「・・・・・マルチェロや・・なんかそうぞうしいのぉ。どうしたのじゃ?」
「院長・・・。」
マルチェロも困ったような顔でククールの方へ目線をよせた。
オディロのところまで聞こえるほどの騒ぎになっていたのか?


オディロはゆっくりとククールのところへ寄る。
「おぉ・・なんとまぁ可愛そうに・・。ずっと今まで耐えておったのじゃな?」
院長がなだめるようにククールの寝巻きをとり着せる。
「マルチェロや、明日になったら医者を連れてきてくれんかのぉ?」
「はい・・わかりました。」


ククールの目じりにはまだ涙が溜まっていた。
















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