時空を超えた少年  5





「そうそう、暫くしてから学校みたいなものにも入ったぜ。」
「本当か?」

「ああ、でも学校というよりも学校より一つ前でみんなで集団生活が出来ようにって感じのところだったな。」

少し首をかしげながら言い直した。

「なんかよ、年で決められているみたいだったぜ。」
「ほう・・・なるほど同じ年の者達と集めて集団生活をするのだな。」
「そういうこと・・・たしかちゃんとした勉強や、学校は数え年が7からだったな。」

「結構遅めなのだな。」
「法律ではな。でも中には家庭教師呼んでるところもあったみたい。あくまでも標準。」
「なかなか面白い教育システムになっているんだな。」







「保育園?!」

その日の夕方、クルミはククールが寝静まった後、菊丸に保育園はどうかと相談してみた。

「うん、今日ね買い物行った帰りなんだけどククール、友達と遊んでいる子供達を羨ましそうな目でみてた。」
「・・・別に反対はしないけど、もうちょっとここの世界に慣れてからでもよくないか?」
「問題はそこなのよね。」

二人同時にため息がついた。
冬真っ只中の季節で結構中途半端な季節だったりする。

しかし、保育園ならそこのところは関係ないだろう。
勉強するのとは少し違うのだから。


「なぁ・・じゃあ2月からにするのはどうかな?」
「2月ね・・・そうね、それならまるまる1ヶ月は経ってるし大丈夫な頃よね。」

「友達できたらつれてくるかな?」
「でも、ちょっと心配。」
「外見のこと?」
「うん・・・・・。」


ここは日本だ。
普通の外国人でさえかなり目立つ。
おまけにククールは珍しい銀髪だ。
子供は妙な偏見を持つと後でややこしいことになる。
二人とも、それだけは避けたかった。


「なんかシナリオ考えたほうがいいかな?」
「シナリオ?」
「うん、だからロシア人にして、暫くの間って感じ。少し向こうの事の風習を話しておく。
 詳しいことは子供だから、わからないにしておけばいいと思うの。」

「クルミって結構・・・」

「何よ!!」

「いや、すごいな・・・。」

「経験ありますからね。それに今日近所の人に、ククールのこと聞かれたし、決めておいた方がいいと思うの。」
「一理あるな。怪しまれるのもいやだしな。」



菊丸とクルミはその日遅くまで、今後ククールをどうるか話し合った。














「ルイネロさん、分かった事とは・・・」

オディロは慌てながらルイネロの次の言葉を待った。
ルイネロは、目を瞑り何かを掴めたような表情だ。


「あの声の正体は分かりませんが、あれは嘘を言ってはない。」

「それは・・・どういうことでしょうか?」

周りにいる者たちは状況を理解できてはいない。



「みなさんもあの声が聞こえたでしょう?あの声にはなにか不思議な力を感じます。
少しでしたが、この水晶にククールという少年が映っていました。」

「それは真か??」

「はい・・。その矢先です。あの強烈な光と、アノ声は・・・。」




黙るルイネロに周りの空気は張り詰めいている。



「どうやらあの少年は、女神に祈りを捧げているときに光を見つけたらしい。好奇心でついていったのか、それともあの声のせいなのか・・・
それを追って、ここを出てずっと川沿いを進んでいったみたいですな。」


「川沿いって・・・・まさか!!」



「マイエラの旧修道院!!」


みんながはっと驚く。



「なるほど、あの小さな瓦礫のあるところは昔の修道院ですか・・。問題はその光が急に変わった事。」
「光?」

「ククールはその光の扉へ吸い込まれていってということです。その先を見たかったのですが、邪魔がはいりました。」


そう、ククールはあの光によってどこかへ飛ばされてしまったのである。
だからいくらここの辺りを探しても見つからなかったのである。
ガックリするオディロに、ルイネロは肩を叩いた。


「絶望するのはまだ早いです。院長・・・。」


「どういうことじゃ?!」


「最後の言葉です・・・。」



タイヨウガハルトカナサルヨルアノコハカエッテクルヨ




「太陽が春と重なる夜帰ってくるよ。」


「それは一体いつになるのじゃ!!」

春という言葉が出てくる時点で、だいぶ先になってしまう。
今の季節は真冬なのだ。
クリスマスを終えて、年を少し過ぎた辺り。
春までは遠い・・・。

オディロの顔には笑顔が消えている。


「大丈夫ですよ、院長きっと・・。」
「ルイネロ殿・・。」

「ちゃんと帰ってきます。しかし、太陽と春が重なるというのが、いつになるというのは、さすがの私には・・・。」
「いいや、ルイネロさん貴方は実によくしてくれた。道理でククールが見つからないわけじゃ・・。


ルイネロハ占い師であって予言者ではない。
正確に何月何日というところまではいけない。

「・・・・まずは冬を越さないと駄目みたいじゃの。」
「そうですね、私も少し調べてみます。その太陽と春のことを・・・。」

「わしも調べて見るとしよう。ここには図書館や昔の古い記録がたくさんある。なにかヒントがあるかもしれん。」


ルイネロとオディロはその関係を調べてみることにした。








「え?保育園?」

ククールは出てきた言葉が何を示しているのか良く分からなかった。


クルミと買い物に行った帰り、自分と同じ年の子供が数人で仲良く遊んでいた。
マイエラにもそんな仲間はいたけど、あんなにのびのびしていただろうか?

気がつくと目で追っていた。


だからクルミは聞いたのだ。
”このままいい?”かと


もしかしたら自分の考えていたことは、二人にはお見通しだったのかも知れない。


「そう、学校とはまたちょっと違う、前段階のところだよ。」

その日は菊丸も、仕事が休みで午後3人で、あったかいお茶とクッキーをほおばっていた。


「今すぐってわけじゃないけど、ククールがもう少しここの生活に慣れてきたらね。」
「うん・・・でどういうところなの?」

「まぁ・・・簡単に言えば、同じ年ぐらいの子達と一緒にいろいろ勉強するところだ。勉強といっても難しいことじゃないよ?
 基本的な道具の使い方とか、挨拶し方と・・・・でも、どちらかと言えばみんなで仲良く遊ぶところだよ。」


遊ぶところ・・・
ククールはあまりピンとこなかった。
マイエラにも勉強会がある。
イエスの教えや、哲学の本、有名な学者の言葉とかを覚えさせられたり、本だって読まなきゃいけない。

「それ・・・本当に学校なの?」

今の菊丸の言った事が本当なのか、疑惑が走る。


「ククール、この世界はね、ちゃんとした読み書きを教えるのが6歳〜7歳ぐらいなんだ。」
「え・・。」
「そりゃ、中にはたくさんいるよ。5歳で読める子もいれば、4歳で読める子もいる。それは家でやっている子だね。」
「うん・・。」

「ククールは修道士だったんだ。きっとキリスト関係の本をたくさん読んだんだね。」

菊丸はククールの頭をなでた。


「余計な事はあんなり考えなくていいよ。ここではね。」

なでられた大きな手があったかい。
ククールはとても安心した。


「で、ここからが本題。ククール自分のことをどう説明するかだ。」
「あ・・・」


これはククールにも理解が出来た。
自分はどうしてここへ来たのか、不自然じゃない理由が必要になる。

異世界からきましたなんて、誰も信じない。
普通に外国から来たという説明の方がいいだろう。



「そうだ、菊丸さん。私この前小野寺さんと会ったときに、ククールのこと姉の子供だって言っちゃったのよ。」

クルミはこの前の帰りの事を思い出した。

「本当かい?それならこれはそう話をあわせておこう。で、僕達が考えた大筋の辻褄合わせなんだど・・・・」













「・・・・なかな見つからないな。」


マルチェロは、オディロの言いつけにより近くの図書館に来ていた。
ルイネロの占いから数日、オディロとルイネロは光が言っていた太陽と春の関係をずっと調べている。
マルチェロも不本意だが、オディロの力になりたくて調べることにしたのだ。

院長達が悪戦苦闘しているのが分かる。
手がかりはかなかな見つからない。
天文学を専門としている学者達はまだ少ない。


満月の夜、願いの丘と言うところに行くと願いが叶う。という言い伝えぐらいしかない。
他には、ただの神話ぐらいしかなかった。

「待てよ、もしかしたらその神話の中に手がかりがあるかもしれない・・・。」

マルチェロは天気と季節に関係のある神話の本をありったけ持っていき、ひたすらその本を読み始めた。


しかし、手がかりの出るような言い伝えなどは、なかなか見つからなかった。













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