時空を超えた少年   7






「・・・・そんでさ、向こうってすごいんだぜ?怪我人とかでたとき瞬く間に救助隊が来て病院に運んでくれる乗り物があるんだ。」
「ほう・・それはこの時代でも見習ったほうがいい点だな。」


「ああ、そんときさ妊婦さんで生まれそうな感じでさ、あわてちゃったよ」
「何故妊婦が一人で歩いている?」
「なんか早産だったみたいでさ、予定より10日早かったんだと、そろろ入院の準備とかで外でたらきちゃって偶然俺が・・・」
「まぁ、医学の進歩か?ここの世界では考えられないな。臨月を迎えた妊婦が外へ出歩くなど・・・。」

「言われてみればそうだな。」
「という事は、お前は出産に立ち会ったのか?」
「いいや、中には入れなくてさ違う部屋でまってた。生まれた赤ちゃんは見せてもらったぜ。」


「その後、迎えに来てもらって、あの人と帰ったんだ。・・・元気かな。きっと今頃養子でもとってるのかな?」
「子供は作らんのか?」





「なんかさ、あの人が言ってたんだけど、俺の”もう一人の母さん”は・・・・・・・・・・





ヤスカズ・エイトと遊ぶようになってから、ククールは保育園から帰ってきて外に出ることが多くなった。
子供は元気が一番!そう考えていたクルミは、ククールに友達が出来たことと外で遊ぶようになったことを喜んでいた。
遥か異界からやってきて、右も左も分からない小さな子供。
とても心寂しいだろうに・・・・。


もとの世界に戻る術ははっきり言って分からない。
もしかしたら、また突然帰ってしまうのかも知れない。

もし、そんな日がくるとしたら・・・・それまではここはククールの家でいよう。
ククールの母親でいよう。そうクルミは誓っている。
クルミにとってククールは自分の子供なのだ。


「不謹慎かな?ククールがずっとこっちにいてくれればいいのに・・・。」



台所に立って、鍋の中身を煮込んでいた。
今日はククールの好きな、ミネストローネだ。












「あ、5時の鐘だ。」


ここの近所は5時と6時に鐘がなる。
冬の季節は4時と5時。
真冬がすきた今頃がら、鐘のなる時間が変わった。

子供が帰る合図となっていた。
子供達はこの鐘が鳴ると帰り始める。

それはククール達も然り。


近くの公園で遊んでいた3人は、また明日保育園が終わったあと遊ぶことを約束した後それぞれの家へと帰っていった。
5時といっても、もう暗い。
まだ完全は春ではないのだ。ちょっと寒い。



寒いことに慣れているククールは、今日の夕飯を予想しながら自宅へ向かう。

我ながら自分も少し変わったと思った。
なにも分からなくメソメソ泣いていた頃と比べれば成長していると思う。
人見知りもしなくなった、友達も出来た。
自分の変化をククールはちょっぴり嬉しくなった。
このままこの世界にいるのも、いいなと思う程だ。
”お父さん””お母さん””友達””暖かい家””裕福な暮らし”ククールの望むもの全てがそろっているのだから。


帰り途中薄暗い町の中、外灯でうずまっている人をみつけた。
よく見ると苦しそうな顔をしていた。
人通りの少ないこの通り道、ククールはすぐに駆け寄った。


「大丈夫?」

「は・・・ぁぁ・・・あ。・・ボク・・・ゴメンね。・・・うう!!」

大きなお腹をした女性だった。
妊婦だということはククールでも分かる。

「生まれそうなの?」

女性はゆっくりと頷いた。」

「待ってて!今近くの人呼んで来るから!」

ククールはすぐそこになる民家のインターホンを押して、事情を話救急車を呼んでもらった。
初めて乗る救急車にククールは戸惑いつつも、苦しそうにしている女性の心配をしていた。
すぐに分娩室に運ばれ、ククールはそばにいた看護士さんに飲み物をもらった。


「ボク?これからおにいちゃんになるんだね。」
「え?違うよ。あの人ボクのお母さんじゃない。」

看護士はあの女性の子供だと勘違いをしていた。
では何故ここにいるのか?
こんな小さな子供一人。


「ボクたまたま通りかかったら、あの人倒れてたんだ。」
「困ったわね。僕お家わかる?」
「大丈夫だよ。」

ククールはつけていたペンダントをはずして看護士さんに渡した。
それはククールの住所、電話番号、名前が刻まれているプレートだった。
もしもの時のために二人がククールに渡しておいたものだ。

看護士はそのプレトーを見てククールの頭をなでた。

「おりこうさん。これでパパとママに連絡できるわ。」

電話番号をメモにとり、ペンダントをククールに返す。
暫くしてから、分娩室で赤子の泣き声が聞こえた。


そして、あわただしく走ってくる一人の男がいた。


「あ、すみません!飛鳥ですが、妻の容態は!!」

顔が優しそうな男の人だった。


「飛鳥さん、今丁度お生まれになったところですよ。」


妊婦の旦那のようだ。
看護士より無事に生まれて事を聞いて安心したのか、急にへたり込んだ。

「そうか・・・よかった。」


男はククールの存在に気づいた。
ニッコリ笑って御礼を言った。

「ありがとう。君だろ?妻の芹香を見つけてくれたのは・・。」
「いえ・・ボクも偶然だったので・・。」


「飛鳥さん。早く奥様とお子さんの所へ」
「はい。あ、そうだ君もおいで。君が助けてくれた新しい僕の家族を見せないとね。」

ククールはつれられて場所を移った母子の部屋へ行った。
ドアを開けると、芹香とよばれた女性が、赤ん坊を抱いていた。

「あ、貴方来てくれたの・」
「あぁ、ビックリしたよ。予定より早かったね。」

男は芹香を抱きしめると、そばの赤ん坊に眼をやる。
「この子が僕達の新しい家族か・・。」
「男の子だった。あ、君はさっきの・・。」

芹香はククールに気づいた。


「さっきはありがとう。ほら、このおにいちゃんが貴方を助けてくれたのよ。」


ククールははじめてみる赤ん坊に感動した。
なんて小さいのだろう。
手を出すと、赤ん坊は一本だけギュっと握ってくれた。
嬉しい表情がククールから読み取れた。







「・・・ククール!!」


ドアから入ってきたものがいた。

「パパ!!」

ククールは菊丸のところへ行きたかったが、赤子がククールの指をつかんでいたため離れられなかった。
男は菊丸のところへ言ってお礼をいっていた。

「初めまして、飛鳥健太郎といいます。貴方のお子さんのおかげで妻と子供が助かりました。ありがとうございます。」
「いえいえ、実は私もさっき病院から電話があって妻から来て何事かと思ったんですよ。」
「本当にありがとうございます。」
「えらかったな。ククール。」


父親に頭をなでられてククールは嬉しくなった。
そういえばよく、オディロにもこうやって頭をなでられていたのを思い出した。
とても安心するのだ。

「さぁ、帰ろうククール。もう夜遅い。」
「すいません、引き止めてしまって。」
「大丈夫です。」
「お礼は後ほどさせていただきますので・・・。」

互いに連絡先を渡し、菊丸とククールは病院を後にした。







疲れているだろうククールを菊丸がおんぶしていた。
ククールは少しウトウトしている。
病院から出て、緊張の糸がきれたのであろう。


「ね・・・・パパ。」
「なんだい?」

「パパたちは子供作らないの?」


今日の出来事を聞いて、実に子供らしい率直な意見だった。
いてもおかしくないのだから。

「そうだね・・・子供は欲しいね。でも僕達には今ククールがいる。」
「でも・・・・」

ククールが言いたいのは二人の血の繋がった子供のことを言いたいのであろう。
それは菊丸にも分かる。

「ママはね・・・病気なんだ。」
「ママどこか悪いの?」

そんな様子を一度も見せたことなかったけど・・・。

「ちょっと違うかな。もう病気は治ったんだ。でもね、ママはねその病気のせいで子供が出来ない体になってしまった。」
「・・!!」

ククールの世界で子供の出来ない女性はあまりいい待遇を受けない。
実際ククールの実母も、なかなか子供が出来ずあてつけのようにメイドに子供を産ませて出来た義兄がいるのだから。
そのときの実母の立場は辛かったろうに・・。

「だから、ククールが来てからママはとても楽しそうだ。」
「うん・・・。」
「実際僕達も養子とをとろうかと考えていたんだ。そして現れたのがククール、君。」
「パパ・・。」
「僕達は嬉しいよ。ククールにあえて、どのくらい一緒にいられるか分からない。けど、僕達はもう家族だ。」


ククールから涙が出てきた。
なにか暖かいものに触れたような心地よさ。
いままで体験したことのないような感じ。

父親の大きな背中。
おんぶなんてされた事なかった。
頭をなでられたことなんてなかった。


「だから泣くなククール。男の子が恥ずかしいぞ。」
「うん・・。」


「人はちゃんと望まれて生まれてきている。ごく一部、中にはそうでないこともあるかもしれない。
 少なくとも、ククールはちゃんと本当のお父さんとお母さんから望まれて生まれてきている。」

菊丸の言葉には何か分からないが、妙な説得力があってククールを安心させてくれる。
これが”父親”というものなのだろう。
実父との思い出はあまりよく覚えてなかった。
ちょっと怖くて、ククールもあんなり近寄りたくなかったのを覚えていた。


「さぁ、明日も保育園あるんだろう?眠かったら寝てていいから。」
「う・・・・ん・・。」




















「ただいま。」


あれから暫くして、自宅に着いた。

「おかえり、やっぱりククール寝ちゃったのね。」
「初めての体験だからな。」

「・・・私ね、ククールがずっとここにいてくれたらなって思っちゃった。」
「それはボクも。今日は・・何?」
「ククールの好きなミネストローネにしたんだけど、この時間じゃもう駄目ね。ククールには明日食べさせるわ。」
「お風呂も入らせないとな、結構汚れてる。」
「本当。やんちゃな男の子になってきたわね。」


深夜と呼ぶには早い時間。
ククールは”お父さん”と”お母さん”のなかでぐっすり眠っていた。















・・・・・・・リカイシタカイ?ショウネンヨ
アトハモドルダケ
デモソレニハスコシジカンガカカル
ハルトタイヨウガカサナルヒ
キミヲモトノバショヘカエシテアゲル

タノシミダネショウネンヨ

モドリノジカンマデアトイッカゲツ




















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