時空を超えた少年 8 |
「俺さ、あそこにいた時ずっとこっちに居てもよかったなって思ったときがあったんだ。」 「そうなのか?」 「考えても見ろ。金はある、暮らしも豊かで、守ってくれる親が居て・・友達も出来たんだ。」 「現金なやつだな。まっ普通ならそう思ってしまうのはしょうがない。」 「・・・それでもここに戻ってきてよかったって俺は思ってる。」 「?」 「今はさ、ホラちゃんと俺達向き合っているだろ?」 「昔では考えられんがなんがな・・。」 「だからだよ。ここに戻ってきてよかったって思ったのは・・。」 「・・・・。」 「なかなか苦労したよね。」 「お前はなかなかしぶとかったな。全くこういったことを他の事に上手くつかえんのか!」 「そりゃ、ないぜ・・・。」 「そういえば、そのときの季節はいつだ?」 「えっと・・・春の少し前あたりだと思ったけど・・。」 「・・・この頃は教会もしんと静まりかえっていた。」 「そうだったのか。そういえばあの事があってからさ、頻繁に夢を見たんだ。」 「?」 「あの光の夢・・・。」 「声が聞こえるんだ。 ”モウスズカエレルヨ” ってさ・・・・・。」 |
今夜は暑くもないのに寝苦しい夜だった。 昨日の産婦さん事件から一夜明けて、ククールは眠気と戦う一日だった。 保育園でもコックリが多く先生に注意をされた。 お昼寝の時間は何かと騒がしいククールも、その日は熟睡だったのでみんなが驚いた。 保育園の後はエイトやヤスカズ達と遊ぶのを断り家でまたお昼寝をしていた。 その結果、夜になって眠れなくなってしまったのだ。 見かねたクルミはホットミルクを飲ませてくれたが、なかなか寝付けない。 深夜を過ぎたところでようやくうとうとし始めて、やっとも思いで眠った。 夢を見た。 どこにいるのかも分からない不思議な空間に自分は居る。 真っ白な世界で彷徨っているが、何故か怖くなかった。 先へ先へと進んでいくと、見覚えのある小さな光が見えた。 ククールはその光をつかもうと手を伸ばした。 ソレをつかむと光は瞬く間に大きくなり、目を開けていられない状態となる。 ”パアァ”と音が出たかのように眩しい。 この感覚は前にもあった。 そう、この世界に来るときだ。 そうすると声も聞こえるだろうか? 自分を導いたあの声・・・・。 ・・・・・マタアッタネ どうやらこれは本物のようだ。 「こんにちは、君は一体誰なの?」 ソレハオシエラレナイ。 ソウダ。モウスグカエレルヨ。 「?」 オニイサンノトコロヘカエレル ハルトタイヨウガカサナルマンゲツノヨルボクハキニヲムカエニクル。 トビラヲアケヨウ。 カエッタキタセカイハイママデイタトキトチガウハズ。 「僕、またどこかへ飛ばされるの?それだったらここにいたい」 チガウヨ カエルンダ。 「・・・そっか・・。」 キミニハトケルカナ? ソノイミガ。 キミノオニイサントカワイガッテイルロウジンハコンナンシテサガシテイルヨ キミノカエレルヒヲ・・・。 「それどういうこと?」 サァ、モウヨアケノジカン アサヒガカオヲダス。 サヨウナラ マタムカエニクルヨ。 ハルトタイヨウガカサナルマンゲツノヨルニ・・・ 「まって・・・・!!!」 光りだした。 ククールを近づけないように強烈に光を放ち、ククールは吹き飛ばされそうになる。 「わぁぁぁ!!!」 辺りが一転した。 真っ白な空間から、闇色へと変わってていく。 ククールはガバっと目が覚めた。 まだ薄暗い夜明け前。 汗をびっしょり書いていて、心臓がドキドキした。 もう一回寝ようとベッドに中に入ったが、やはり夢が気になり寝付けず、いつもの起きる時間だった。 「あら?どうしたのククール。おやつ食べないの?」 保育園から戻り、おやつをもらったククールだが、食べようとしない。 今朝見た夢が忘れられないのだ。 「ね、ママ・・。」 「何?」 「春と太陽が重なる日っていつ?」 「・・・・・。」 ククールは随分と難しい質問をしてきた。 「え・・っと・・・難しいわね。春と太陽・・・パパなら物知りだからわかるんじゃないかしら?」 「それって・・・近いうちじゃないよね?」 「大丈夫だと思うわよ。春でしょ?まだもうちょっと先ね。でもなんで春と太陽なの?」 「夢を見たんだ。」 「そう、ククールの夢はとっても鮮明なのね。」 クルミは呑気にククールの頭をなでた。 ククールは不安で仕方なかった。 じゃあ、その日はだいぶ近いということだ。 どうか菊丸がそのことを詳しく知っていますように・・・と思った。 「パパは今日は帰りが遅いの。明日はお休みだから、明日にしなさい。」 「うん・・。」 「どうしたの?ククール元気ないね。」 「大丈夫。明日パパに聞いてみる。」 「そ、おやつはどうするの?食べる?」 「食べる!」 ククールは椅子にすわり直し、食べ始めた。 その夜は眠るのが怖かった。 またあの夢を見てしまうのではなかろうか? 明日は休みだし、多少の夜更かしも大丈夫だが・・・・ こんな時に限って睡魔はやってくるのだ。 まぶたが重くなる。 ククールはまだ幼い。 幼子が睡魔に勝てるはずないのだ。 あぁ・・・また来てしまった。 昨夜と同じ空間。 これから毎日こんな夢を見てしまうのだろうか? 「ボク・・いやだ。」 ナニガイヤナノ? 「ここに居る事、もっと違う夢が見たい。」 キノウイッタコトガトケタラダイジョウブダヨ 「そんな・・。」 ダイジョウブキミナラスグワカル。シッテルヒトガチカクニイルヨ 「え・・・?」 サ、コノママズットイタラキミニキラワレソウダカラモウカエルネ オワビニタノシイユメヲミセテアゲル サァメヲツムッテゴラン? ククールは言われたとおり目を閉じた。 アリガトウ サァイコウ なんだか暖かい。 優しく包まれているような気分だ。 そっと目を開けると聞く丸とクルミがいた。 不自然なのはもう一人いることだ。 「マルチェロ兄さん・・。」 マルチェロは笑っている。 手を差し伸べて、向こうへ行こうと言っている。 そうだ。ククールはこれを望んでいたんだ。 お父さんに、お母さんに、兄のマルチェロ。 それは決して叶わない願いだけど、ずっと心に思い描いていた。 もし、なんの境遇もなく普通に生まれていたら僕達は一体どうしていただろう? 仲の良い兄弟になれていただろうか? 僕はきっと甘えん坊だから、お兄ちゃんに頼りっぱなしで 「ククールは本当にお兄ちゃんっ子ね。」 なんて言われるんだろうな。 マルチェロは元気だろうか? きっと自分の事なんて心配していないんだろうな・・。 居なくなって清々しただろうか? もし、ほんの少しでも気にかけてくれていたら・・・嬉しいな。 本当に叶わないのかな? もし、今生きているうちじゃなくていいから。 生まれからった時でもいいから、パパとママがいて僕とマルチェロ兄さんが仲良く暮らせて居たらな・・・・・。 昨日とは裏腹に今日の目覚めは緩やかだった。 でも目に涙が溜まっていて視界がぼやけた。 ククールは菊丸が帰ってくる前に寝てしまったらしい。 そういえばクルミのお帰りの声も、菊丸のただいまの声も聞いていなかった気がする。 いいや。菊丸も起きてくるのは遅いであろうと二度寝した。 案の定、菊丸が起床した時間はお昼になる少し前であった。 ククールは朝食も食べ終わって、菊丸が起きてくるのを待ってきた。 「あ、パパおはよう!」 「ファ〜・・おはよう。ククール。」 欠伸をしながらのけだるい挨拶だった。 「ね。パパ教えて欲しい事があるんだけど・・・。」 「ん?なんだい?」 「春と太陽が重なる日っていつ?」 「春と太陽が重なる日?」 思わず言葉を復唱してしまった。 聞いたことあるようなないような。 菊丸は怪訝そうな顔をする。 「パパ・・・?」 「う〜ん。それとマルッキリ同じとはいえないけど、似ている日は日本に存在するよ。」 「あら、おはよう。ククール、菊丸さん。」 「「おはようクルミ(ママ)」 「早速パパに聞いているのね。」 「しかし、ククールも面白いことを言うな。」 「そんなに変?」 「変じゃないよ。」 菊丸はパソコンに向かった。 カチカチと規則正しいキーボードを打つ音がする。 「あ、ほら、あったコレだよ。ククールが言っていたことって春分の日のことじゃないのかな? 春と太陽じゃないけど、地球が春分点を通過する日。ま、重なるってことだね。同じ理屈じゃないかな・・・?」 「ね・・・その春分の日っていつ・・・・?」 「えっと確か・・・3月21日だよ。」 今日は2月23日・・・ 一ヶ月を切っている。 そうか、だから光はあと一ヶ月っていっていたのか ククールは理解した。 きっとこれなんだろう。 もうすぐお別れなんだ。 |
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