幼い果実 6 ククールの家はなかなか複雑だった。 家柄は結構良く、お金も持っていた。 父親は投資家で、財産は数百億を超えると聞いていた。 そんな父親は気まぐれで、少々女好きだった。 妻として娶った女性は綺麗なプラチナの髪の毛に、サファイヤのような瞳をした大変麗しい人だった。 仲睦まじく幸せに暮らしていたのだ。 しかし、年数が経つことにつれて仲は急変した。 妻になかなか子供ができなかった。 子供ができないような細工はしていない。 妻を石女と決め付け、住み込みで働いていたメイドに子供を生ませた。 そのメイドは日本人だった。 屋敷の中での唯一の東洋人で成人年齢を超えていたが、顔つきは大変可愛らしく父親から気に入られていた。 その日本人のメイドから生まれてきた子供は男の子だった。 子供は”マルチェロ”名づけられ大変大切に育てられた。 しかし、数年たち本妻も体のなかに一つの生命を宿していた。 生まれた子供はやはり男の子。妻に似て綺麗な銀髪をしていた。 名を”ククール”と名づけられた。 メイドの子供、本妻の子供。本来ならば本妻の子供が優先される。 しかし、そんな封建的な時代は終わっていた。 世界は実力のある者が上がっていく。 マルチェロは幼少の頃から優れた才能を発揮していた。 ククールより10歳も離れていたので、早い跡取り候補となったのである。 最終的には、マルチェロとククールで跡目争いとなるかもしれないが・・・・・ 粗暴で女好きの投資家の主人だったが、そういうところではきちんとしていた。 破産しては困るからだ。 平等に扱うようにと使用人達も本妻もそう扱っていた。 だからマルチェロとククールは腹は違えども、仲良く兄弟をやっていくことができた。 ククールは兄のマルチェロが大好きだった。 優しくて、強くて・・・ きっと跡目はマルチェロがなるんだろうと子供なりにククールは思っていた。 マルチェロも年の離れた弟ククールを可愛がっていた。 人懐っこい笑顔が周りを和ませて、この家の兄弟は有名だった。 また、ククールは同じ名家のアルバートのゼシカと仲が良かった。 初めてできた友達でもあった。 マルチェロはゼシカの兄のサーベルトと良く話しがあっていた。 同じ家の跡取り息子。気が合うのだろう。 ククールたちはアルバートの子供達と良く遊んでいたのだ。 特にゼシカとは・・・ 二人は本当に仲が良かった。 しかし、そんな幸せな日々が崩れ去る日が来たのだ。 マルチェロとククールの両親が流行病で亡くなったのだ。 財産は、マルチェロとククールの二人に分け与えられた。 マルチェロとククールは経営のことなどのこれから投資のことに関しては全て手放した。 そんなものやりたいものがやればいい。 二人は跡継ぎを放棄した。 それからは、兄弟で二人で暮らし始めたのだ。 保護者にはアルバートのものがつくことになり、二人はゼシカたちの家の近くで暮らすようになった。 「ククール!」 「ゼシカ!」 家が近くになり、二人は喜んだ。 家に行って、招いて二人の仲は家族にも公認だった。 しかし、マルチェロは時折悲しそうな顔をしていたのだ。 その時マルチェロ18歳 ククール6歳の時であった。 はじめは戸惑いながらの二人の生活も次第に慣れていき、違和感もなくなってきた。 一人ではなかったから頑張ってこれてのだ。 イロイロとこなすのがはやり、兄のマルチェロだ。 ククールはそれを手伝う形になっている。 「ねぇ、兄貴。」 「なんだ?」 「今日ゼシカが来るんだけど、いい?」 「・・・あぁ・・好きにしろ。」 「ほんと、やり!」 マルチェロはゼシカの話になると少し声のトーンが変わるのをククールは見逃していない。 ゼシカは、幼馴染で・・・女の子としても好きだ。 可愛くていい子なのになんでマルチェロは受け入れてくれないんだろう? ククールには理解できなかった。 ククールも思春期を迎え始めて大人への段階を踏んだ頃、ゼシカもまた美しい少女へと成長していく。 二人が恋仲に発展するのはさほど時間がかからなかった。 「ククール・・好きよ・・・。」 「俺も・・大好き。」 あぁ・・・幸せだな。そんなことを思っていた。 「・・でさ・・・ゼシカが・・」 「・・・・・」 「兄貴?」 家に帰ってきた兄に話しかけてもマルチェロは黙っていた。 「兄・・・貴・・・?」 「・・るさい・・」 気がつくと天井が見えた。 一体何が起こったんだ? 上から大きく覆いかぶされた。 「・・・え・・・・」 「煩い・・・」 この一夜今までのものが崩された。 自分は何をされてるの? 終わったあと泣いた。 なんで?どうして? 何でだよ・・・?兄貴・・・ 「ククール・・どうしたの?元気ないね。」 「え・・・そうか?」 マルチェロのことがあってから、ククールも少し変わってしまった。 「大丈夫?」 ゼシカはククールの顔を両手で包んだ。 「ククール元気だして。ね!」 「あぁ・・ありがとう。ゼシカ・・・。」 言えない。 駄目だ。ゼシカには知られたくない。 そんなことしたらゼシカはきっと傷つくに決まってる。 そんなことさせたくない。 マルチェロは一体なんであんなことしたんだろう? それから、マルチェロとククールの関係がガラリと変わってしまった。 今までに見たことないマルチェロの顔にククールはすっかり無口になってしまった。 そんなククールの異変にゼシカも気付かないわけない。 14歳の夏の日だった。 夏休み直前であとは成績表をもらう日を待つのみだった。 ククールは学校を欠席した。 ゼシカはクラスメイトだったので、手紙と連絡を届けにククールの家へと向かう。 すっかりなじんでしまったゼシカにはククールの家ももう一つの自分の家みたいなものだった。 最近はインターホンもしないで普通に入るようになっていた。 ククールの家に着きドアをあける。 「ゼシカです〜。今日のプリント届けに来ました。」 家の中は静かだった。 「あれ?留守なのかな?物騒だな・・ククール?マルチェロさん?」 ゼシカは中へ入りキッチンへ移動した。 シンクを見るとものを食べた形跡が残っている。 「・・・ん〜書斎かな?」 読書の好きなマルチェロは、本を集め書斎を作っていた。 そこは一番奥でインターホンが鳴らない限りあまり気付かないだろう。 ククールはきっと寝てるし、マルチェロに渡して帰ろうと思った。 「・・もうすぐ夏休みだ。夏休みになったらククールといろんなところに行きたいな。」 その前に風邪を早く治してもらわないとと付け加えた。 マルチェロとククールの家は二人だけには広かった。 普通の一軒家なのだ。 受け継いだ財産で建てたのだと思う。 しかし、なんでマルチェロは跡継ぎを放棄したのだろう? ゼシカはふと思った。 兄のサーベルトと仲のいいマルチェロだったが、サーベルトもそこは良く知らないようだ。 ぼそぼそと話し声が聞こえてきた。 やっぱり書斎にいた。 でも話し声だから二人ともそこにいるのだろうか? ドアを開けようとしてためらった。 なんだか様子が違う。 話し声じゃない。悲鳴みたいなものが聞こえる。 怖くて気付かれないように隙間位を開けて様子を見た。 ・・・・・・・ゼシカは自分の今見てるものを疑った。 ククールとマルチェロが・・・・ 「いい・・・!!痛い!」 「・・・そうか?お前の体はそうには聞こえないがな。」 「やだ!!」 ・・・・・コレが原因だったんだ。ククールがずっとよそよそしい態度をとっていたのは・・・・ ゴメンナサイ。気付いてあげられなかった。 でもどうしてこんなことになってるの? あんなに仲のいい兄弟だったのに・・・。 ゼシカの頬には涙が流れた。 まともに見てられない。 帰ろう。そう思ったときだった。 不意にマルチェロがドアへ視線を変えた。 「!!」 マルチェロはゼシカがいたのを気付いたようだった。 ククールはそれどころではなく悲鳴を上げていたが・・・・ まずい・・ククールに気付かれたら彼を傷つけてしまう。 ゼシカはゆっくり音をたてないように、震えながらも後ずさりをした。 マルチェロの顔が怖かった。 暗闇が似合うような冷たい笑顔。 ゼシカに仕向けるその表情は非常なものだった。 「い”だ!!」 「痛いか・・・?」 「え・・・?」 後ろから攻められていたククールが、マルチェロと向き合う形になりゼシカへと見せ付ける。 早く帰れと・・・・・ ゼシカは思わず音を出して駆け出してしまった。 「・・・?!」 「おや、今の音はナンだろうな?」 「え・・・」 ククールはマルチェロから与えれる熱に思考がついていかない。 「そういえばさっき、ゼシカが私達を探していたな。」 「な・・・・あぁ!」 「お前には選択権はない。」 「あぁぁ・・・はぁ!」 「・・・お前は・・私のものだ・・・。」 |
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