幼い果実  7




行為を終えたぐったりした体を引きずり、ククールは部屋へと戻った。
明日はちゃんと学校へ行かなくてはならないのに行けるだろうか?

ベッドに横だれると、兄がドアをノックした。
適当に返事をして入らせる。
あれでも足りないのか?
ククールはぐったりした体を起こした。

「何?」
「・・・ゼシカから手紙が来ていたようだ。」
ククールはすぐに取り上げて、学校での連絡とゼシカからの手紙を読んだ。

”鍵かけないで物騒だよ。明日は学校ちゃんときてよね。明日は終業式なんだから!”



「・・・起点が回るいい人を恋人にしたものだなククール。」
マルチェロは優しくククールの頬を撫でた。
「兄貴・・・・・」
「さっきも言ったろう?書斎にいた時ゼシカは・・・私たちのことを探していたと・・・」
「・・・!」

マルチェロは楽しそうだった。
「・・・どうなるかな?あの少女がこの事を知ったら・・?」
「・・それだけは・・ゼシカには黙っててくれ・・・。」

ゼシカには知られたくない。
終わりだ。ゼシカに知られたら二人は終わってしまう。
「・・・良いだろう。そもそも誰かに口外するつもりはない。」
ククールはほっとため息をついた。

部屋を出るときマルチェロは黒い笑いを浮かべていたとも知らずに・・・・・









次の日ククールは何とか登校することができた。
「おはよう。ククール。」
ゼシカの作り笑いが見えた。
ゴメン。ゼシカ。
昨日、兄からゼシカが自分の家に来たとこをククールは知っていた。
そして、実の兄と自分がしていたことを彼女に見られていたことも・・・
だからゼシカが笑顔を見せるたびに、ククールは辛かった。

終業式を終え、帰りに成績表をもらい帰るだけだった。
世間では楽しい夏休みだが、ククールは浮かない顔をしていた。
「ククール、今日から夏休みなのにどうしたの?」
「・・・別に・・」
「今年はいろんなところ行きたいね。海とかキャンプとか・・うちの別荘とかにも行こうよ!」
「マジ?いいな・・・俺は・・・いろんなところに行きたいよ。」
「・・・ククール・・・。」


「あ・・悪いゼシカ。何辛気臭い顔してんだよ。さーて夏休み夏休み、これから遊び放題じゃねぇか!」

兄の大学はもう夏休みにはいている。
マルチェロは時々当番で学校の方へ行かなくてはならないから、いつも一緒ではない。
できればあまり顔をあわせたくなかった。



憂鬱な気分で家に着いた。
しかし、ククールの予想とは裏腹にマルチェロは家にはいなかった。
安堵して部屋へ入り、ベッドにのめりこんだ。
天上が無言に哀れんでいるように見えた。
この部屋でそんなことをするときもあった。
初めはこんなこと自分の部屋でなんてしたくなかった。
違う、この行為自体をしたくない。
ククールはマルチェロの考えていることがよくわからない。


両親が死んだあの日。
あれから変わりゆく兄の思考回路。
もう・・・・戻れないのだろうか?




考え事をしていたらいつの間にか寝てしまった。
はっと目が覚めると夕方になっていた。
時計を見ると5時を過ぎている。
どうやら寝すぎてしまったようだ。
あくびをしながら階段を下りると、下にはゼシカの母とサーベルトがいた。
「こんばんわ。あばさん、サーベルトさん。」
「丁度よかった。ククール。」

何がちょうどよかっただよ。

「ククール君!ゼシカを見なかった?」
「ゼシカ?今日一緒に帰って家でわかれてそのままですけど・・・・。」
「・・・母さん・・大丈夫だって。」

「ゼシカがどうしたんですか?」



「・・・・・・・・実は・・・・・












ククールは無我夢中で走り続けた。
「・・ゼシカ!!ゼシカ〜!!」






「ゼシカがこんな手紙をよこして帰ってこないの!!」
見せられた手紙はゼシカの字で”さようなら”と書いてあった。
ククールは闇へと落とされた感覚を感じ家を飛び出した。


何で?なんで?ナンデ?
ゼシカ・・お願いだ無事でいてくれ!!

今思えば、ゼシカは気付いていたんだ。
自分はそれをはぐらかし、黙っていた。
一番信頼できる彼女に何も告げなかった。
しかし、告げたところでどうするつもりなのか?
そんな考えが交差して結局なにもできなかったんだ。

ククールは心当たりの場所を駆けずり回ったが、ゼシカは見つけられなかった。


よく一緒に遊んだ公園。
夏になると水遊びをした川
ゼシカのお気に入りの小高の丘
念のため、友達にも聞いてみたが手がかりはなかった。


くたくたになって家へ戻ると、ゼシカが見つかったと知らせが入っていた。
ククールの顔が明るくなったが、みんなの顔が暗かった。
ゼシカは、水死体で発見されたのだ。
浜辺で発見されたのだ。















ゼシカが死んだのは・・追い込んだのは紛れもなく自分だ。
なんていえばいいのだろう?
ゼシカの母親とサーベルとは、ゼシカの死に顔を見て大粒の涙をこぼしていた。
自分だって泣きたい。無性に泣きたい。
でもどの面を下げて泣くことができるんだ?
死へ追いやった張本人が!!

ククールは廊下で見つからないように静かに止まらない涙をなんとか堪えていた。


葬儀には参列したが、正視できなかった。
それなのに・・・兄は・・・マルチェロは・・・
普通に・・・


ナンデだよ?なんでそんなことができるんだよ。
元はと言えば兄貴が・・・・・


いたたまれない気持ちでいっぱいでまた涙が出てくる。
そろそろ棺が土の中へと埋まっていく・・・・・。







それから、暫くしてマルチェロが姉妹学校の日本へ転勤になったのだ。
まるで、逃げるように日本へ来たのだ。

今でも最後に見た悲しい笑顔が忘れられない。
あの時ゼシカはどう思ってたんだろう?

どうしたらあんな事にならなかったんだろう?
全てを話して彼女に打ち明けていたら、変わっていたのかな?
ゼシカを危険な目にあわせたくなくて黙ってたのに・・・



兄貴が・・・憎いのに・・・
でも、いつかあの時の優しい兄に戻ってくれるんじゃないかって必死だったんだ。

一体どうすればよかったのかな?



この見た目のせいか、物好きの男や教師には色目で見られてみんな兄貴と同じ扱いだった。
だからあんまり人とはかかわらないようにしてた。

エイト・・・お前もその奴らと同じだと思っていたんだ。
今思えば・・・ゴメンな・・・
お前は他の奴らと違っていたよ。



ゼシカ・・・俺・・・どうしたらいい?
君は俺のこと許してくれる?
・・・許さないんだろうな・・・・・















「・・・ククール・・・僕はゼシカさんはきっとククールのこと本当に好きだったと思うよ。」

話の途中でエイトがそっと呟いた。

「だからこそ・・・・だと思う。きっと・・・僕もわからないけど言葉で説明するのは難しいけど・・・。」

「エイト・・・」

電気も消しているエイトの部屋は。時計の針の音だけが鳴り響く。
「・・・もういいよ。ククールも話すの辛いでしょ?それにまた明日も早いしもう寝よう。」



「・・・・ありがとう。エイト・・・・・」



その言葉を合図に、規則正しい息遣いが聞こえた。












ククールは久しぶりにぐっすり眠れたような気がする。


夢を見た。まだ何も知らなかった頃、
ゼシカと笑いあって、マルチェロとも普通の兄弟でいた頃。
懐かしいな・・・
あぁ・・・これは夢だ。そう意識できるほど幸せな夢だった。


最後に皆消えたしまうが、ゼシカは消える前に何か言っているようだった。



「・・・き・・・」


「・・・・ククール・・・大好きよ。・・・ごめんね・・・・・・」



「それは俺のほうだ。ゼシカ・・・大好きだよずっと・・」




次の朝はとても目覚めがよかった。















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