幼い果実  8




昨日は遅くまで話し込んでいたのに、目覚めは穏やかだった。
ククールはカーテンからこぼれ出る光に目が覚めた。

こんなに穏やかな朝は久しぶりだった。
毎日、兄の顔色をうかがってはそわそわしながら家にいたのだから・・・・・

ちょっと欠伸をしカーテンを開けたら、エイトもおきてきた。
黒髪が寝癖で毛先が変な方向へうねっていた。
「おはようククール。」
「ああ、おはよう。エイト」


ククールの学生服のシャツは昨日のうちに洗濯してもらった。
朝にはキチンとアイロンがされてあるシャツを着た。
「悪かったな。こんな手間・・。」
「・・・理事長の家のお手伝いさんがやったから。」
「そうなのか、後で俺言わなきゃな。」


ダイニングへはトロデ、ミーティア、エイトとククールでそろって朝食を食べた。
いつもこうなのだろうか?
わきあいあいとした風景。

エイトもククールも親無しだ。
でも環境でここまで違うのだろう。
ククールは少しエイトが羨ましく思った。

「昨日はよく眠れたかの?」
トロデがククールのことを気にかけてきてくれた。
ククールはあまり理事長に会ったことがない。
噂には結構娘に弱いごく普通のおじさんと聞いていたが、どうやらそうらしい。
「はい・・おかげさまで。」
「そうか、それはよかった。また気にせずいつでも来い。ここは広いが人が少なく寂しいからの。」








その日はそのままククールは家に寄らないで学校へ行った。
時間が時間だけに寄ることも出来なかった。
でもきっと時間に余裕があったとしても、寄らないだろう・・・。


その朝は生徒がエイトとククール、ミーティアが一緒に登校しているのがみられた。



















「ねえ・・・・大丈夫?僕も一緒に行こうか?」

平和な一日が終わり、もう放課後だ。

エイトはククールが家に帰るのが堪らなく不安だった。
あれを目のあたりにして心配しないのがおかしいが。

「大丈夫だよ。エイト」
「でも!!」

「だから俺は大丈夫。」
「ククール?!」

エイトを否めるククールは穏やかだった。
あの入学式の時はじめて見た印象に近いような不思議な感覚だった。

「いつもああじゃない。それに俺はもう大丈夫。」
「ククール・・。」
「夕べ、お前の家に泊まって思ったんだ。このままじゃいけないって・・。・・・お前の受け売りだけどさ。」
「どういう意味だい?」



「俺・・・あの家でいこうと思ってさ・・。」

逆光から見えるククールの表情は見えていなかったが、口元はしっかりしていた。
心なしか微笑んでいるように見えた。

「でも・・ククール高校生だよ?そんなこと。」
「俺は一応外人だし、孤児だし、親父からの遺産はいっぱい在るし、
 子供だからとかいったものは孤児用のへんな書類を市役所からもらってる。もちろん他の役所からもな。
 もし、未成年で一人で暮らすことになった場合これを見せればいいんだと。」
そういった事はあまりないみたいだけどな。と付け足して。

確かに高校生から親元を離れて一人で暮らす人はいるけど、ククールの場合は違う。

「でも・・」

「大丈夫だって、俺はずっと一人で暮らすわけじゃないなら。」
エイトはその言葉にないか引っかかる。
「それ・・・どういう意味だよ?」

「暫くの間という意味だ。」

なんで、そんなことする必要があるのだろうか?
エイトは本当は警察に通報したいくらいいたたまれない気持ちなのに・・・
こんなことを何年も我慢してきたククールの気持ちを考えると胸が張り裂けそうだ。



「きっと兄貴がああなったのは俺に関係あると思うんだ。それに話し合いたいとしてもこのままじゃ埒が明かない。
 それぞれ冷静になれる期間が必要なんだよ・・・独りになって。俺はともかく・・・兄貴は・・・。」

「ククール・・だからって・・危ないよ。」


「なにお前がしみじみ感じてるんだよ!そうなるのは俺だぜ?」
浮かない顔をするエイトにククールは悪ふざけたように、エイトにデコピンをした。
「!・・何するんだよう。」


「お前が湿っぽい顔してるからだよ。心配性なんだよ。エイトは!」
「・・当たり前だろ・・と・・・・・・・」
「?なんだ?今なにか言いかけなかったか?」
「ううん?!何でもないよ。」

うっかり友達だからといいそうになったのを止めた。
今そんなことを言う自信がない。
ククールはどう思っているのだろうか?
自分は友達でありたい。

だから気にかけるし・・・心配だ。


「・・・ま、だから俺のことを信じてくれよエイト。俺は大丈夫だって・・」
「・・・・わかったよ。」
「ありがとう。」

他人から見たらきっと早くこんなこと止めさせるためには、警察に通報とかするんだと思う。
エイトもそうしようか悩んだ。




「お前・・・余計なことするなよ。」
「何のこと?」

「・・誰にも言うな。わかったな?」

エイトの考えていることはククールにはばれていた。

「わかったよ・・。でもなにかあったら絶対連絡してよ。それにトロデ様やミーティアはククールがまた来るの楽しみにしてるから。」
「そうか・・・ありがとうな。」



つい教室で長話をしてしまった。
もう教室には誰もいない。


「あ!!!」

「・・・???何だエイト?」

「ヤバ!!今日部活だった!主将にどやされる!始まるまであと5分だ〜。」
ククールとのやり取りですっかり部活を忘れていたエイトは荷物を持って慌てて教室を飛び出した。
そんなエイトの行動をククールはくすくす笑う。

そういえばエイトは剣道部だったんだよな。
エイトが剣道部にないってなかったら、あの体育の授業でエイトがククールをスカウトすることもなかったのだろうか?



「お〜い。エイト!!部活頑張れよ〜!!」


廊下でエイトは走りながら、後ろで手を振った。

「さて、俺も帰るか。」


今日は天気で雨が降るといっていたが、振らなかった。
傘が邪魔と思いながらも正門を出た。
もうそろそろ梅雨の季節も終わるな。
夏になる。

雨もイヤだが、夏にもあまりいい思いではない。
両親が死んだは梅雨の時期で、雨に濡れながら葬式に参列した。

ゼシカが死んだのは夏休みが始まった日

海の日は嫌いだ。
ゼシカの命日だからだ。


あれから何年経ったのだろうか?
もう終わりにしたい。

自分の背中を押してくれたエイトのためにも
自分のためにも
兄のためにも・・・・・

これはきっと神様がくれた一度のチャンスなんだ。
それを無駄にしたくない。

そろそろ腹を決めるときなんだ。
「さて、兄貴と対決してきますか・・・・」

ククールは帰りづらい家に向かって歩き出した。

「まっ、反対されても俺は行くけどね。」

少し空が曇ってきた。
まだ雨は降りそうにないが、家に着くまでには大丈夫かわからない。

「あ〜あ・・・降ってくるなこりゃ!!早く帰りたくはないが走るか・・。」

ククールは駆け足で走り出した。




















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