幼い果実 10 ククールが一人暮らしを始めてから1週間がたとうとしていた。 もともと、兄弟で暮らしてきたため一人暮らしは苦ではない。 掃除はマルチェロがしていた為部屋は結構汚いがそれなりに生活できている。 エイトは今日はククールのアパートに遊びに来ていた。 「・・・まぁ・・こんなもの?」 「なんだよエイト。文句あるか?」 ククールの部屋をみて唖然としたエイトだった。 家に帰る予定だからあまりものはないが、なんか汚い・・・・ 本当に掃除は駄目らしい。 「あ、電話買ったの?」 「ああ・・学校の連絡や、兄貴にそろそろかけようと思ってな・・・。」 「じゃあまだ、お兄さんには言っていないんだね。」 「・・ま、別に気にしないで仕事してると思うけど・・。」 質素な部屋に電話が一台。 ドコにも知られてないからかかってくるところはない。 でも、時々どこで調べられたのか変なのもかかってくる。 一瞬ドッキしたけどな・・ ククールは強がりを言った。 きっと本当は寂しいのか? エイトはそんな事を思った。 きっと毎日電話かけようかと思ってためらっているククールの顔が浮かび上がる。 エイトはそれを考えて少し笑った。 「お前、何考えてるんだよ。」 「いや・・・・なんかククールが可愛くて・・・」 「男に向かって可愛いはないだろ?」 「・・・だって電話も買ってるのになにも活用されてないじゃん!そんなに家にかけるのが緊張する?」 「てめ・・!!」 図星をつかれたククールは、赤面した。 その顔をみてエイトはもっと笑い出した。 「あ〜もう!!うるせぇよ!!黙れ。」 「あはは・・これが笑わずには・・」 「エイト!!」 「ゴメンごめん・・冗談だよ。」 「ったく」 ようやくエイトの笑いがおさまった。 ククールは根に持ったのかちょっと不機嫌だ。 でも、そんなに気になるなら早く連絡してあげれば良いのに・・ それにここの住所も言ってないのだろう。 伝えたところで連れ戻されるのがオチだとククールは言うが・・・ 連絡先も言わないで出て行くのはさすがのマルチェロも心配してると思う。 ククールは1ヶ月ぐらいと言っていた。 それくらいで解決できればいいのだが、そうなるにはもっと時間はかかると思う。 「〜〜・・・・・・〜〜・・・」 エイトが帰った夜、ククールは電話の前で一人うろちょろしていた。 「〜ん〜。」 少しの間電話のあるところでしゃがんだり、立ち上がったり・・・・ 「・・・かけるか・・。」 勇気を振り絞ってかけた電話は留守番電話だった。 『御用の方は、発信音のあとにお名前と、メッセージを入れて下さい。』 ピー・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・兄貴?・・・俺だ・・・ククールだ。いきなりこんなことになって驚いてると思うけど俺は・・・・・ ゴメン、上手く言えないけどこのままじゃ駄目だと思ったんだ。 俺、兄貴と・・・・その・・・普通の兄弟に戻りたい。できればあの・・・親父が死ぬ前のあの頃に戻りたい。 だから、ちゃんと俺のこと考えてくれ。お互いちゃんと冷静になろう? ・・・・・ごめん。出すぎたこと言ったけど、俺本気だから・・・兄貴がちゃんと俺と向き合ってくれないうちは帰らない。」 マルチェロの帰りは今日は遅かった。 いくら夏休みとはいえ、仕事はある。 まだ研究途中のもあれば、学生の合宿の顧問もある。 本当は今日も寝泊りと思っていたが、最近のマルチェロの顔色の悪さに心配した職員はマルチェロを帰らせた。 雷雨の夜、初めてククールは全力抵抗をしてきた。 なにかあったのか? いや、こんな仕打ちをしている自分にそんな心配する立場ではない。 その次の日、ククールの部屋のものは殆んど見あたらく帰ってこなかった。 何日たっても帰ってこない。 市役所からの申請書も持ち出している。 本格的な家出だろう。 二人暮しの一軒家 二人には広すぎる大きな家。 二人でもこんなに静かなのに一人になると何も聞こえないようだった。 いや、一人になることが殆んどだった。 でもこの虚しさはなんだろう? 悪いのは全面的に自分だというのはわかっている。 ずるずるとここまで引きずってきて今に至る。 帰ってきても誰もいない。 ククールの寝息さえも聞こえない。 ふと電話を見るとメッセージが登録されていた。 きっと大学の誰かが心配して電話でもしたのだろう。 そのまま聞き流そうと思ったが、第一声を聞いて驚いた。 その声の持ち主はククールだったからだ。 長くて、とめどない言葉だったがなぜか落ち着いた。 とりあえず無事が確認できたので、ほっとしたのだろう。 暫く気がめいっていたのだろう。 マルチェロはそのまま自分の部屋に戻り、そのまま夜の闇に呑まれた。 誰も居ない・・・広い空間でなにを思うか? その日エイトはククールのものと家の前でウロウロしていた。 たずねようか、やめようか? ククールには余計な真似はやめろと言われたが、いてもたってもいられなかった。 それに、やっぱり何かあった時にマルチェロのところにも連絡が来るようにしておきたかった。 簡単に言えばこれだけだ。 でもまたマルチェロを信じてるわけじゃない。 突き止めてククールにまた何かしたら、ククールの苦労が水の泡だ。 でも自分以外にももしものために・・・・ 迷っていたそのときだった。 「君はたしか・・ククールの・・・」 「!」 聞き覚えのある声だと思って振り向けばマルチェロがいた。 「ククールに会いに着たのか?残念だがククールはこの家を出て行ったよ。」 「・・・それは知ってます。」 マルチェロはそうだろうなというような感じの顔をしていた。 べつにトゲトゲしい雰囲気は感じない。 というかむしろ・・・ 「どうした?人の顔をジロジロみて・・。」 少しやつれたんじゃ・・・? 「あの・・・あまり顔色が・・」 「やれやれ・・最近私はそれしか言われない。いたって健康だ。全く・・・」 もしかしたらククールのこと心配してるのかな? そうだったらいいなと思った。 そしたらククールの思いも少しは救われる。 「で、君は何の用でここにいる?」 「マルチェロさん貴方に話しがあります。」 「・・・・・やっぱり・・・ククールのいるところマルチェロさんも知っておいたほうがいいんじゃないかって・・。」 家に案内されたエイトはお茶をくれたマルチェロに、ククールの今すんでいる住所が書いてある紙を渡した。 「いいのかい?私にわたして。」 「きっとククールは、暫く教えるつもりもないと思うから・・。」 「そういう意味で言っているわけではない。」 マルチェロはゆっくりティーカーップにミルク入れ混ぜて、紅茶を眺めていた。 エイトはマルチェロの言っている意味がわからない。 「じゃ・・・」 「エイト君、君は私がククールにしてきた仕打ちのことは知っているはずだ。」 「・・・はい。」 「私はククールの所在地を得たわけだ。そしてククールの部屋へ行きそうなることはたやすく想像できるはずだよ。」 「・・・それはないと思います。」 「な・・!!」 マルチェロはスプーンを落としてしまった。 冷静にエイトはマルチェロを見据える。 「貴方を別に信じているわけではないです。さっきまでどうしようか迷っていたんだし。」 「だったら何故・・?解せぬな。」 「もし仮に、貴方がそんな人だったらきっともうククールの居場所を見つけて無理やりにでも連れて帰ってる。」 「!!」 確かにマルチェロは無理に探して連れて帰ろうだなんて思っていない。 それに突き止めてドウコウするつもりもない。 何故かそう思えた。 「違いますか?」 「・・・・君はなかなか鋭いね。その通りだよ。」 マルチェロはいつもの手を前に組み、エイトの目を見る。 「・・・・マルチェロさんだってククールがどうしたいのか解かっているはずだ。」 「あぁ・・・ちょうどこの前電話があったよ。」 「!」 「・・・あいつが自分から教えてくれるまでは行かないつもりだ。」 マルチェロはエイトから貰ったメモをビリビリに破き灰皿の中へ居れ燃やしてしまった。 「・・・・やっぱり教えるべきじゃなかった。ボクは余計な事をしてしまったみたいですね。」 「そんな事はない。」 「え?」 「・・・君の言葉に気付かされたよ。自分でも不思議だ。以前の自分ならきっと無理にでも引きずってでも連れて帰ろうとしただろうか?」 もう十分です。 ククール、君のお兄さん君の事ちゃんと思ってくれてるよ。 「・・・・一人になったからだろうか?静かで、とても落ち着いていられる。」 「・・・・・・。」 「しかし、ふとやはり何か物足りないのだ・・・。」 「・・・マルチェロさん。」 「それではもうボクは帰ります。」 「あぁ・・・いろいろと時間をとってしまって悪かったね。」 「・・・ボクに言った言葉ククールに言ってやってください。」 「それはまだできない。」 「どうして?」 「ククールをちゃんと正視できるようになるには少し時間がかかるだろ。」 さっき来るべきではなかったという言葉をエイトは取り消した。 だって、マルチェロが少し笑ったように見えたから。 ククールには悪いけど、余計なことかもしれないけど、背負い込まないで。 大丈夫。前に進んでる。少しづつだけど前に進んでる。 でも、このことはククールには秘密だ。 ククール、君の判断は決して間違っていなかったよ。 |
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