幼い果実 11 「・・でお兄さん元気なの?」 最近ククールはよく家に電話をするようになった。 休み時間になるとククールはその話ししかしてくれない。 「・・結構留守電が多くてさ、でも繋がる時はちゃんと俺の話聞いてくれる。」 「そっか・・よかったね。」 「あぁ・・」 エイトは前にククールに黙ってマルチェロに会いに行ったことがある。 マルチェロは気にするなとは言っていたが、やつれているように見えた。 いろいろあるんだろうケド、早くククールは帰ったほうがいいんじゃないかと思う。 それが駄目なら、一度会ってみたほうがいい。 「エイト・・・なんかボーっとしてるよ。」 「あ・・ご免。」 「別に、いいけどさ。」 「そういえばもすぐ期末が始まるな・・あ〜やだやだ。日本はどうしてこうテストが多いんだよ。」 「うちは少ないほうだと思うよ?」 「マジ?」 「レベルの高い高校は毎週とか、毎日とかあるね。」 「げ〜!!」 期末さえ終われば夏休みだ。 今は7月に入ったばかり、毎日暑い。 一応私立だから冷房の完備はあるが、やはり暑い。 ククールは夏休みが始まるまで一人でいるといってた。 最悪は9月までと・・・ そろそろいい頃だと思うんだけどな僕は・・・・・ やっぱり心配だ。 「エイト〜、やっぱりお前変だよ。」 「何でだよ?」 「なんかボーっとして、考え事しててさ。」 誰のせいだと思ってるんだよと心の中で突っ込んだ。 「ククール・・・一度家に戻ってみたら?」 「え・・・」 エイトの唐突な発言に、ククールは驚いた。 「な・・・」 「ご免・・」 「お前なんか隠してるだろ?」 鋭いククールの視線にエイトは笑って誤魔化した。 「別に?だってもう家出て行ってから結構経つでしょ?」 「まぁ・・そりゃそろそろだとは思うけど・・・」 きっかけが掴めないでいる。 「・・・お前にはいろいろ心配かけてばかりだな。」 「そんなことないよ。」 この前あったときのマルチェロの様子が変だったからククールに早く会わせた方がいいと思ったのだ。 「でも、エイトこれはこれは俺が勝手に決めたことだから、お前を巻き込むわけには行かない。」 「ククール・・。」 「心配するなって、近いうちに家に戻るから・・・」 「うん・・・。」 ククールも本当は早くこんなこと終わりにしたいと思っているのになかなか踏みとどまれない。 帰るのがこわい。 「・・でも俺が家を出るのを反対してたから、お前がそんなこと言い出すのもわかるけどな。」 「ククール。」 マルチェロと一回だけあったことは言わない。 いったらククールは怒るだろう。 これは”自分と兄貴”の問題なんだと言い出して・・・ 「でも、そろそろなころあいだとは俺も思うよ。兄貴の声聞いてるとやっぱり会いたいんだ。それに兄貴のとこも気になるし。」 「うんそうだね。」 「・・そろそろ兄貴が家に帰ってくる頃だよな・・。」 その夕方ククールは家の周辺をぐるぐると回っていた。 もうマルチェロは帰っているのだろうか? 「あら?ククール君じゃない?」 振り返ると近所のおばさんが声をかけてくれた。 「あ・・こんにちは。」 「今帰り?」 「はい。」 「そうなの?最近はククール君あんまり見なかったから。」 「あ・・いえ・・。」 「さっきお兄さん帰ってきてたわよ。」 「そうなんですか?」 どうやらマルチェロは帰ってきているらしい。 今日は早い帰宅のようだ。 「ええ・・でもお兄さん最近まんまり顔色がよくないわね。」 「?!」 「大丈夫なの?」 「・・あんまり病院にいきたがらなくて・・。」 「そうなの・・。体調崩さないように気をつけてね。って伝えておいてね。」 「はい、ありがとうございます。」 おばさんと話し終わった後ククールは急いで家に向かった。 体調を崩しているのだろうか? 顔色が悪いと聞いていてもたってもいられなかった。 マルチェロはいつも無理して倒れるまで仕事をしたりするから心配だ。 「・・・・」 家の鍵はかかっていなかった。 そっとドアを開けると暗い廊下が続く。 いつもの書斎にいるのだろうか? 「ククールか・・・・?」 「兄貴?!」 マルチェロは自分の部屋にいた。 2階の廊下で久しぶりに会う兄の顔色が悪いように見えた。 「いつ帰ってきた?」 「今・・」 「そうか・・・ここにいるのもなんだな。下に降りよう。」 リビングにおりた。 さっきは暗くてよく見えなかったマルチェロの顔がはっきりと見えた。 「兄貴・・・ちゃんと食べてる?」 「・・・お前程ではないがな食べてる。」 「そっか・・」 なかなか会話が続かない。 日本にきてからそんなに会話することもなかったし、こうやって面と向かって話すのも久しぶりだ。 どんな言葉をかけたらいいのかもわならない。 でも心配はしていた。 ククールは掃除はできなかったけど、ほかの事はできる。 マルチェロは仕事や読書に夢中でそんなことがそっちのけになるからだ。 やっぱり顔がやせているように見えた。 「でも兄貴・・・やつれたね。ごめん・・・」 「何故お前があやまる。」 「勝手なことして怒ってるだろ?」 「・・・お前がいなくなってからずっと一人で考えていたんだ。」 「・・・え・・」 「・・・・私は一体何がしたかったのだろうと・・。」 互いに冷静に考え込む。 一体何故こんなことになってしまったのだろう? 「・・今考えたところで何もどうなることもないのにな・・。」 「兄貴・・。」 「今日はどうするのだ?帰るのか?」 「いいや・・今日はここにいるってここも俺の家でしょ?」 「・・そうだったな。」 ククールはしばらくぶりの部屋に入った。 必要最低限のものしか持ち出さなかったため、ほとんどものは部屋に残っていた。 やはり少し離れて変わったなとククールは思った。 これならもう少し早く行動を起こせていたらと思うほどだ。 いや、自分がこういったことが出来たのもきっとエイトの存在があったからなのだろうとしみじみ思った。 「あと、もう少しなんだけどな・・。」 でも何かが足りない。 それが何なのか思い出せない。 父親が死んだ。 母親も死んだ。 マルチェロは喪主をして忙しく、ククールは葬儀に来てくれたゼシカと遊んでいた。 ゼシカをはじめサーベル達が帰ることになり、ククールも自分の家に帰ろうとした。 「あ、ククール君。」 聞き覚えのある声にククールは笑顔で走っていった。 家でよく面倒を見ていてくれた男だた。 他に何人かの男がいたが別に気にしなかった。 父親の仕事関係の人だろうと小さいなりに理解はしていた。 「兄さんは?」 「お兄さんはまだ忙しいんだ。終わるまでおじさんたちと遊ぼうね。」 「うん!!」 男はククールの好きなお菓子を買い、ククールの知らぬ場所へ連れて行った。 子供の遊び場所みたいなところで、楽しく遊んでいたらさっきの男が電話を差し出した。 「お兄ちゃんに迎えに来てもうらおうね。ほらお兄ちゃんとつながってるよ。」 ククールは喜んで受話器をとった。 「もしもしおにいちゃん!」 「ククール?!」 マルチェロの声は何故かあせっているような感じだった。 「お兄ちゃん、お菓子かってもらったんだ。」 「そうか・・いますぐそっちへ行くからいい子にしてるんだぞ。」 「うん!」 しばらくしてからマルチェロは息を切らしてこっちへきた。 「帰るぞ、ククール。」 「うん」 マルチェロに抱きつき、なんのためらいもなくククールは帰っていく。 「それじゃお兄さんよろしくね。」 「ああ・・」 帰り際に一言二言マルチェロは自分の面倒を見てくれた男と話していたが、意味がわからなかったのでどうでもいいと思った。 心なしか、マルチェロの歩く速度が早かった。 それについていくのに必死だった。 「お兄ちゃん・・」 「・・!・・あぁ・・ごめん。」 マルチェロは少しスピードを落とし、歩幅をあわせた。 そんな兄を少しククールは不思議に思ったが、振り返った兄の顔はいつもの優しい表情に戻っていたので考えるのをやめた。 朝、ククールは全身に汗が刺すように噴出してるかのような感覚で目が覚めた。 「今のは・・・・?」 今のは一体何・・? 冷や汗を体中にかいて気持ち悪いままククールは混乱していた。 |
BACK NEXT |