隣人は密かに笑う。   7




「いや〜、にしても今日の相手はよかったな。」

「あの人チェスじゃなくて、俺のことが見てみたいだけといっていた。」

「マジ?ルルーシュ君モテモテじゃない。」

「よせよ。気持ち悪い。」


相手が弱すぎたのか、今までの中での短時間で勝負はついた。
途中で、どう考えても巻き返すことの出来なかった状況をわずか8分で破った以来だ。
あの時のイヤミな貴族の悔しそうな顔が傑作で、今でもよく覚えている。


「ルルーシュ、これからどうすんの?」

「クラブハウスに帰るよ。」

「え?生徒会行かねぇの?」

「別にサボりはいつもの事だろ?」

「そういえばそうだったな。」


リヴァルはバイクのスピードを上げた。





クラブハウスにつくと、咲世子から手紙を受け取った。
ルルーシュ宛に手紙が来るのは珍しい。

来る手紙はアッシュフォード宛になるようにしていたからだ。
ルルーシュ個人に来たとしても、自分で頼んだ通販や宅配ぐらいだ。
送り主の書かれていない少し重くて大きめな封筒を怪訝に見る。

手紙にしては厚いし思い。
何か危険物が入っているのでは?と疑いをもつ。
しかし、そういった類なものなら普通は封筒は使わないだろう。
神は透けてしまうからだ。

折り合えず、開けて見ないと何が入ってるかは分からない。
咲世子にお礼を言って自分の部屋に戻った。


探知機には変な反応は出てこない。
安堵したルルーシュは切り口を空けて唖然とした。



封筒に中身はルルーシュの写真が入っていた。


その写真は全てカメラ目線ではなく、隠し撮り。
まだ普通に外から撮っている写真ならまだ分かるが、間違いなく部屋に侵入してる形跡があるものまであった。
力が抜けて思わずバサリと音をたてて、写真を落としてしまった。


こんな写真撮って送りつける人物なんて、一人しか思いつかない。
きっと夜な夜なルルーシュの部屋に侵入してくる男に違いない。

フラッシュの音は今まで聞こえた事は無かったが、ルルーシュの裏をかくほどの人物だ考えられる。


嫌がらせなのか、封筒にはこの痴態が写っている写真しか入ってなかった。
きっと指紋も検出できないだろう。
念のため測定はしたが、予想どおりルルーシュの指紋しか検出できなかった。



暫く一人で出歩くのは危険かもしれない。
最近は夜に一人で出歩く事が多く、帰りも遅い。
昼間は学校の人や、人通りの多いところにいても気にはならないが、それでも危険だ。

だからって四六時中誰かに一緒にいてもらうのもゴメンだ。
今まで必死になって隠れていた事が、全て水の泡になってしまう。


だからといって家に引きこもりがちになっても、アイツは来る。


「・・・俺を一体どうしたいんだ。」



こんな恐怖で震えているルルーシュを考えて笑っているとでもいうのか?

























「ルルーシュ、私だ。」

「C.C.か?」

「あぁ・・。」


最近はちゃんとノックをして返事をしてから入ることを覚えたのか、C.C.はまだ部屋に入ってこない。
変な人物がルルーシュの事を付け回っているのを理解して、ルルーシュを刺激しないようにしているのだ。


彼女は今別室に避難している。
そろそろ余計なプライドを捨ててC.C.に協力を求めるべきだろうか?


「C.C.入れ。悪いんだが明日の・・」

「分かっている。私がゼロの代わりをやればいいのだろう?」

C.C.はルルーシュの言いたい事は分かっていた。
ここ最近の窶れ具合は、誰から見て身体の不調というのは分かる。


「ああ・・。スマン。」

「お前から礼を言われるなんて思わなかったぞ?」

「そうだな。コレが明日の予定だ。」

ルルーシュはC.C.に資料を渡す。
ルルーシュらしく、事細かく書かれており、非の打ち所がない。

「分かった。」

「ソレと、俺は暫く極力外に出ない。暫く俺の代わりを出来るか?」

「何を今更?」

「そうだったな。」

「ルルーシュ、礼は弾んでくれるんだろ?」

「ああ、コレで好きなだけ・・。」


渡したのはクレジットカード。
いつも使っているところとは別会社のところだった。
南下の為に、保険として用意していたのだろう。


「分かった。」

カードを受け取ると、C.C.は嬉しそうにカードをしまい、自室へ戻っていった。
ドアが閉まると、ルルーシュは写真を淵のある皿の上において燃やし始めた。

見つけなくては。
誰なのか?この写真のネガを。




学校を休んで、一週間目。
とうとう朝、スザクがルルーシュを迎えに来た。


「ルルーシュ、いるんだろ?」

「・・・・・・。」

「皆ルルーシュの事心配している!」

心配してるのから、気を利かせて放っておいてくれ!
と叫びたかったが、そんな事いったらドアを突き破って侵入されそうなので黙った。
昨日だって、また例のヤツがきて散々好き勝手されたのだ。
体なんて、動かせそうに無い。


「・・・分かった行くから。」

「ルルーシュ声が・・・。」

「今は無理だ。」

「ゴメン・・ルルーシュ。そんなに酷い状態だなんて知らなかったよ。」


声が枯れてしまっているルルーシュの声に、スザクはどうやら勘違いをしているらしい。
何はともあれ、スザクが部屋に入ってくる事は無くなった。

「大丈夫、気にするな。あとは声だけなんだ。明日は行くよ。」

「わかった。でも、無理は駄目だよ。会長さんやリヴァル達には言っておくから。」

「ありがとう。」




ずっと学校を休んでも居られなく、出席日数というめんどくさい体勢だってある。
明日は学校へ行こう。
スザクがいい意味で勘違いをしているから、何も言われなくてすみそうだ。


とりあえず、体を洗い流さなくてはとシャワー室へ向かった。















「オーッス!ルルーシュ。スザクから聞いたぞ?ヒッドイ風邪だったんだって?」

一週間ぶりの登校は特に質問攻めに合うことはなかった。
リヴァルもいつものように、気さくに挨拶を交わしてくれる。

「あ・・あぁ、声が全くでなくなってしまってな。大変だった。」


ルルーシュも何事も無かったかのように話す。
とりあえず、学園は安心だ。
ここは箱庭のように暖かく守ってくれるから・・・。









「ルルーシュ大丈夫?昨日の今日だよ?」

「あぁ、いいんだ。暫く外に出ていなかったからな。」

人間ずっと引きこもっていては駄目だと誰かが言っていたが、言葉どおりだ。
この一週間、カーテンを閉め切って日が当たらないように隠れていたが、気持ちが沈みすぎていた。
もともと物事をポジテブに考える方ではなかったが、それでも気持ちは違う。


放課後、スザクとリヴァルが一緒なら町へ出ても平気だろうと、賑やかなところへ出た。
そういえば、男三人でこうして遊ぶのは始めてかも知れない。
出かけると言ったら、リヴァルと賭けチェスや、一人で買出し、黒の騎士団関連しか思い浮かばなかった。



ルルーシュが普通の学生だったら、こうして友達と学校の帰りに寄り道をするなんて事できただろう。
ルルーシュと遊ぶ事が嬉しいのか、スザクとリヴァルは楽しそうだった。
それにつられてルルーシュも微笑む。



「いや〜、まさかルルーシュとゲーセンいくとは思わなかった。」

「僕も、ルルーシュってこういったことにお金使わなそうだし。」

「そうだな。無駄な事には使わない。」

「ルルーシュ、それゲーセンの中では言うなよ?」


外だったらよかったものの、ゲーセン内だったら絡まれているとろろだ。


「じゃ、僕はココで。」


スザクは寮には入らず、軍の施設で寝泊りをしている。

「おう!じゃあ明日な、スザク。」

「うん!」


スザクは、ルルーシュとリヴァルと別れ違う道を曲がっていった。
走っていったので、あっと間に後姿は見えなくなっていた。

気を取り直して、リヴァルとくだらない話をしながらかえる。
幸い、リヴァルは寮暮らし、ルルーシュも学園内のクラブハウス。
学園までは一緒だ、安全だろう。



「でも、ルルーシュ最近付き合い悪かったからさ、今日は楽しかった。」

「そうか?」

「そうだよ。なんかルルーシュ変わったもんな。」

「そうでもない、俺はかわらないよ。」

「はいはい。ま、でもこうやって一緒にいるから今日は許してやる。」

茶目っ気に笑うリヴァルに心が痛かった。
リヴァルの言っている事は真実だから。



「じゃ、俺はココで。」

「あぁ・・。」

「ルルーシュ、ちゃんと明日も学校来いよ。」

「分かってる。」

リヴァルは学園の寮がある方向に歩いていった。
もう空を見ると日は沈みすっかり暗くなっていた。


「ちょっとハメをはずしすぎたな。」


ルルーシュは一人学園内の夜道を歩く。
ナナリーへのお土産を持って、足取りも軽やかだった。


上機嫌で、いつもより警戒心が緩んでいた。
一昨日来たから、暫くはアイツはこないだろうと油断していた。


ルルーシュを見つめる一つの影に気付かなかった。
いつもだったら、視線に敏感なルルーシュなら気がつくことが出来たのに・・。
後ろから歩調をあわせて近づいている人物がいた。

片手には布らしきものを握っている。


間近になってルルーシュはやっと気付いた。
でも、もう遅かった。

薬品を染み込ませた布をかがされ、一瞬で視界はぼやける。



「・・・・あ・・おま・・・。」


ルルーシュは意識を取り戻そうと頑張るが、強制的な薬の成分により手放さざるを得なかった。
ルルーシュを襲った男の顔も、ハッキリと見ることは出来なかった。











ただ、そこにはルルーシュのカバンと、ナナリーへのお土産がぽつんと淋しく、地面に転がっていた。















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