切なさの行方2 〜風の通り道〜  9








「イタチさん!落ち着いてくださいよ!悪いのはサクラさんではないんですよ。」



「分かっている。分かっているんだ。」


こんな事を口にしているイタチだが、ちっともわかっていない。

「あいつを一発殴らないと収まりきらない。」
「・・・・。」

こうなってしまったら、イタチは止められない。
過去にも経験済みだ。
原因は異なれど、一度キレるとおさまるまでが難しい。


「よ、イタチ。なんだ?そんなに怖い顔して・・・?」


全ての元凶である人物が何食わぬ顔して、からかうように挑発している。
「・・・・。」
「何?”紫苑”って言ってたけど、俺に何か用?」
「そんな事、お前が一番知っているんじゃないのか?」

「あぁ・・・サクラちゃんを襲おうとしたこ・・・・」


紫苑が言いかけている途中で中断された。
目にも止まらぬスピードで、イタチが紫苑を殴ったのだから。


「こうやって人を殴るのは、久しぶりだな。」


紫苑は殴られた顔を抑えながら、体勢を戻した。

「俺も、こうされるのは初めてだわ。あらぬ邪魔が入ってけどね。」
「あぁ・・・サソリには感謝しなくてはな。」
「・・・サクラちゃんは嘘がつけないタイプだったんだね。」


紫苑は再度イタチに睨まれて手を上げた。


「わかった。わかった。悪かったよ。ふざけがすぎた。もうしない。」
「当たり前だ。つぎやったら殺す。」


「あ・・・また!!待ってください。イタチさん」

イタチは腹の虫が治まったのか、鬼鮫を無視して去っていった。


「なんだよ・・。まったくそんなに大事ならもっと大切にしろよな・・・。」
ふと考えて紫苑は何か納得した様子だった。

「あぁ・・・そうか・・だかたイタチの奴・・・。」







だから暁を抜けるのか・・・あの娘の為に・・・










「ぷ・・・・不器用な奴。」

これじゃ、鬼鮫が一緒に抜けるのも納得がいくな。
あとはイタチ次第ってことだな。












「あんたこんな所で何やってるの?」
「無花果か・・。」

「どうしたの?ソノ顔?」

「イタチに殴られた。」


無花果はそれで一気に理解する。

「なるほどね。あんまりイタチをいじめちゃ駄目よ。」


無花果の変化に紫苑は違和感を覚えた。

「なぁ・・・」
「ん?」

「お前・・・イタチの事好きだったよな?」
「そうだけど?」


何を今更?といってるような無花果に紫苑は腑に落ちない。
そもそも、自分は見事玉砕したが、無花果はどうなのだ?


「お前はいいのか・・・?」

「ん〜。なんかあの二人見てたら横恋慕が面倒になってきた。」
「それは言えてるな。」
「初めから入り込む隙間なかったのね。まぁいいわ、私サクラちゃんの事気に入ってるし。」



確かに、無花果はサクラのことを気に入っていた。
年相応の素直さが彼女の魅力なのだろう。
まだ忍の過酷さを知らないサクラは、暁から見れば聖域だ。

だからうかつに近づけなかったのだ。

「それにイタチがあんな顔するの、サクラちゃんの前だけだもんね。」
「じれったいな。」
「イタチがしっかりしてないからよ。」


でも、二人の間を闇雲にさせた原因は、間違いなく今ここに居る二人なのだ。
どうしようかと無花果に紫苑は聞いたが、それじゃつまらないと二人は放って事に決めた。
今からこんな事になったのでは、これからが心配だ。
これぐらい何とか自分達でしてみろ。


これは、紫苑と無花果からのささやかな仕返しだった。
























イタチはサクラの前で立ち往生していた。
今更、サクラになんていったらいいのか分からない。
自分は全然成長してないなと、自分を恥じた。


「イタチさん。明日にしたらどうです?サクラさん寝てますよ。」


それはない。サクラの性格上起きていると思うが、扉を開く勇気が出ない。


「・・・今イタチさんは冷静な考えが出来ないんですから、頭を一回冷やして下さい。」

もっともな鬼鮫の意見にイタチは従うしかなかた。























サクラはふと窓を見た。
日の出が見えた。

気がついたら明け方だった。
眠れない夜を過ごすのは、久しぶりだった気がする。

イタチに会うのが怖い。
またあの目を向けられるのが怖い。



ベッドに縮こまって、サクラはシーツで頭まで隠した。

「嫌われちゃったかな。戻されるのかな・・・?私・・。」


それは嫌だった。
イタチと隣にいることを望んだのは自分だ。



「誰が誰を戻すって・・?」

「え・・?」



ガバっと起き上がると、イタチが立ていた。

「おはよう。サクラ・・まだ早いがな。」

そこにるイタチは昨日とは違い、穏やかな顔をしていた。
「おはようございます。」
「どうやら・・・良く眠れなかったみたいだな。」

サクラの目じりにイタチが触れた。
目が充血しているのが分かるからだ。

「それとも泣いていたか?」

サクラは無言首を横に振った。
サクラは安心したのか、体の力が抜けた。

「おい!サクラ・・!」

あわててイタチがサクラを抱きとめた。

「・・・ごめんなさい。ちょっと安心したら・・。」
「そうか・・・ごめんなサクラ。昨日は・・悪いのはお前じゃない・・・わかってるから。」
「ううん、私もいけないの。あの時ね、紫苑さん一人でここに来たの。」
「・・・・」

「いつも無花果さんと一緒だったけど、少しぐらいなら大丈夫かな?って思ったのがいけなかった。
 私はイタチさんの言いつけを破ってしまったの。」

「そえはもういい・・。」
「・・うん。」

イタチはゆっくり脱力したサクラをベッドに寝かせた。

「まだ明け方だ。ゆっくりお休み。」

あぁ・・・これなら眠れそうだ。
サクラは重い瞼をゆっくり閉じた。






次に目を覚ますとイタチの姿はいなかった。

探したが、見つからない。

「あら?おはようさくらちゃん。イタチならもうすぐこっち来るわよ。」
「はぁ・・・。」

無花果はまだ寝たりないのか大きなあくびをした。

「夜の見張り当番イタチだから・・・そろそろ戻るでしょ。あ、昨日は大変だったわね。」
「な・・・!!」
「ごめんね。紫苑の奴・・。」
「別に・・・もういいです。」




「サクラ!」


「ほら、皇子様の登場ね。」


「行くぞ。」
「うん、バイバイ無花果さん。」



無花果はサクラに優しく手を振った。















「そういえば・・・お前に言っておかなきゃいけない事がある。」

「え?」



「俺と鬼鮫は暁を抜けることにした。」

「え・・・そんな突然。」

「前から決めていたことだ。」

「私は・・・?」

サクラは不安げにイタチの言葉をまった。


「・・・心配するな。お前の為にこうすのだから・・。」





















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