Love since xxx..... 1 I cry for you. この気持ちに気付いたのは何時だったのだろうか? マウンドに登る。 サインをくれる。 ボールを投げる。 戻ってくるボール。 そうしてまた、キャッチャーの手を見れば、何時のものようにサインをくれる。 それだけでよかったのに、コレがあれば自分は幸せになれると思っていたんだ。 三橋が己の恋心に気がついたのは、三星線の少し過ぎた後だった。 初めて自分を認めてくれた人、ソレが阿部だった。 真っ直ぐな瞳で、”俺は投手じゃなくても、お前が好きだよ”といってくれた人だった。 素直に嬉しかったのだ。 三橋廉という人間を、阿部隆也は認めてくれたのだから。 だから、阿部のために、西浦の為に頑張ってエースになろうと心から誓ったのだ。 でも、三橋に抱いている阿部への感情は、一人の人間に向ける感情が少しベクトルが違った。 阿部隆也のことは好きだ。 キャッチャーとして、チームメイトとして、友情的存在として・・。 その連立が壊れたのは、ついこの間。 阿部が女子の告白を受けたと聞いたときだった。 その話を聞いたとき、三橋は訳の分からぬ胸の痛みを経験した。 初めは、中のよかった友達が恋人ができてちょっと寂しいというような感情かと思った。 でもそんな生半可なものじゃなかった。 噂で聞いた、阿部に告白した女の子が、阿部に話しかけているのを目撃したときだった。 今まで抱いたことなのない黒い感情が、三橋の中を支配した。 嫉妬していたのだ。一緒にいた女の子に。 こんな思い気付きたくなかった。 何で友情的な感情じゃ無かったんだろう? 何でバッテリー以上の感情を求めてしまったのだろう。 いつも阿部の隣にいたいと思う。 ただそれだけだったのに・・。 この感情は抱いてはいけない。 早く忘れるべきなのだ。 しかし、いくら忘れようと忘れようと試みても、結果的に思いは強くなってしまう。 無理をしても余計に辛くなるという言葉は、今の為にあるのではないかと思うくらいピッタリとあてはまった。 三橋は今まで、”友達”という存在に恵まれていなかった。 小学校低学年の頃は、近所に数人いた以来、まったく対人関係は壊滅的だった。 引越しを終えてから、全く友達は出来なく、 中学は経営者の孫だからと、特別扱い。 疎まれていて、空気のような存在だった。 そんな日常を覆した西浦の野球部の人たち。 三橋という人間を認めてくれた阿部の存在。 勘違いならよかった。 今まで、友達という存在が無かった分。混乱していると思いたかった。 何も知らない雛鳥が、初めて見た人を親と思うような刷り込みだと・・。 コミュニケーションもままならない相手に、どんな態度をとったらいいのかわからないんだと・・・。 だから、どういった感情を向けたらいいのかもわからない。そうならよかったのに。 でも、気付いてしまった。 三橋は阿部に抱きしめてもらいたいのだ。 普通に考えても、男同士で抱きつくなんて良く見る。 テレビで甲子園に出ているチームが、試合に勝つと皆で喜びを分かち合っている場面がある。 それはなんとも微笑ましいことだろう。 でも、三橋の考えている抱きしめてもらいたい意味は少々違う。 力強く抱きしめて欲しい。 優しく微笑んでもらいたい。 己だけを見て欲しい。 甘くささやいて欲しい。 ・・・この唇を奪って欲しい・・。 一度認めてしまうと、願望はとどまる事を知らない。 気付かれてはいけない。 迷惑をかけたくない、気持ち悪いなんて言われたくない。 言ってしまっら最後、二度と戻れなくなるに・・。 人一倍隠し事が出来ない三橋には苦しくて、鋭い阿部には感づかれてしまいそうだ。 そんな三橋のソワソワ感は、主に投球に出てしまう。 「もう一球!」 いつもの三橋のコントロールが大分狂っている。 ミットを動かさなくても、すっぽりと真ん中に決まる軌道が定まらない。 何度もキャッチボールをしても、結果は同じだった。 「おい三橋、今日体調悪いのか?」 「え・・・そ、そんな事・・。」 「じゃぁ、なんなんだよ!今日の球は!」 「ひ!!」 「あ・・もう・・。いい。今日はもうやめ!」 「え・・!!」 「仕方無いだろ。お前今日はもう投げるな。荒れてるし、今無理に投げたら肩壊す。」 「うう・・。」 原因は分かっているのだ。 阿部が好きで、どうしたらいいのか分からなくて、 気持ちを押し殺していくなんて出来ないのだ。 「何だ?三橋、まだ何かあるのか?」 「う・・ううん?」 「・・?」 「お前、明日は大丈夫だろうな?」 阿部も今日の三橋の不調は、メンタル面の方だと呼んでいる。 ビクっと肩を跳ね上げる三橋を見て、ため息をついた。 「え・・その・・。」 「お前一体何があったんだよ。ってか最近なんか態度おかしいぞ。」 「!!」 三橋は顔に出やすい。 図星をつかれると、誰でもわかってしまう。 「何?俺にいえないこと?」 全くもってその通りだ。 正直に言ってしまったら、この関係は壊れてしまうのだから・・・。 「あ・・・お・・俺・・・」 「言わなきゃわかんねぇよ・・。」 「阿部君・・女の子に・・ここ・・告・・」 「あぁ?それはとっくに断ってるっての!それに今はそんなもん興味ねぇよ。」 阿部の即答に三橋はホっとした。 これで受け入れたと、聞いてしまったらきっともう二度と立ち直れないと思ったからだ。 「まさか、お前そんな事で・・・」 「ち・・・ちが!!・・・その・・俺・・・」 「何だよ?怒らねぇからいってみろ・・。」 怒る怒らないというレベルではない。 でも、チャンスでは? 一回伝えて、玉砕して、自分も忘れるから阿部も忘れてといって何事も無かったようにすれば・・・ ただ気持ちを聞いてもらえるだけでもアリなのでは? そんな考えが三橋の頭の中によぎった。 実際阿部に告白してくる子は多い。 運良く、その中の一人になれないだろうか? でも怖い・・ でも、正直に言わないと、今のこの状況は解放されない。 「三橋・・・聞いてんのか?」 「お・・・俺、・・」 「俺・・あ、あ・・・阿部君が・・好き・・だ!」 私は、貴方の為に泣きます。 でも、貴方は私の為に泣いてくれますか? |
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