花が咲き散る頃  前編




ククール朝は早い。
夜ドニへ酒を飲みに行き遊んでこようとも一番に起きる。
まだ、他の団員達が寝ている頃慎重に起こさないように、身支度をする。

それでも身支度は人目のつかぬ、隅っこでしていた。
平均的な女性良い大きい胸を隠す。
これが一日で一番の大仕事だ。
誰にも気取られないように必死だったからだ。

女人禁制聖堂騎士団
ククールは女でいることを隠してどのくらいここへいたのだろう?
もう随分たった気がする。
ククールがここにいられるのも全てオディロ院長のお陰だ。
オディロがいなければとっくに自分の正体はバレてとんでもないことになっていたに違いない。

さらしは苦しいが結構きつく閉める。
胸だけ抑えてもはやり少しは目立ってしまう。
最近は腰やお腹にもグルグルに巻いて、胸を目立たないようにしていた。

コレがククールの朝の日課。
本当は寝てるときも隠していたいのだが、コレでは苦しくて眠れない。
仕方なく、団員達より遅く寝て、早く起きるようになっていた。
お陰で早起きには慣れっこだ。


教会はミサから始まる。
オディロの聖書の朗読から入り、聖歌を歌う。
なんせ声変わりというものがないがら声を低く出すのも結構辛い。
いつも無口でいるようにしていた。
兄のマルチェロもククールとは、顔も見たくもない存在だったので必然的にククールは孤立している状態だった。
むしろこの方が好都合だ。


時々団員から来る野次も一言で終わらせることができる。
一言だけならどすの利いた声で相手をひるませて終わりだ。
よし、今日も大丈夫。



騎士団の一日は各個人違う時がある。
貴族からの依頼で祈祷に行くものや、団長または院長のお供で出張に出るも者
それ以外ならいつも、日々鍛錬の時間と、ミサと、祈りの時間に当てられる。
ククールはその美貌で貴族達の祈祷に呼ばれることが多かった。

祈祷以外にも何かやっているだろうと変な噂はたっているがそんなことは一度もしたことがない。
正直に言えば、そうなりそうなのを言葉巧みに回避している。
自分が女だとばれたら、修道院に迷惑もかかるし、弱みを握られることなる。
それだけは避けたかった。


ククールは貴族からの祈祷の依頼が多いせいか、剣等の身体能力が他の者より劣っていた。
それ以外にも原因はあるが・・・・・
そのせいかククールは落ちこぼれ扱いだっった。
マルチェロは恥じているだろうか?
こんな自分を・・こんな”弟”を持ったことに

酒を飲み
賭博をして
女と遊ぶ


修道院始まって以来の問題児
そうでもしないとここにはいられない
友好的になったらそのほうが恐い。
あえて近寄りがたい印象を与えていたほうがいい・・・・




それでも何人かは自分の味方だと手を差し伸べてくれるものもいる。
本当にごく一部だが・・・
その中でも”リュウ”という男は皆から信頼されている人情厚い男だった。
アスカンタ地方の名のある貴族の息子と聞いている。
貴族というものは傲慢で、金でなんでもしそうなイメージがあったがこの男はそんなこと微塵も感じさせない男だった。

何かとククールの世話を焼いて、不利な立場になるとかばってくれるいい奴だ。
一人でいたほうがいいと思っていたが、こいつなら大丈夫かな?なんて思ってしまうほどの優しい男だった。



「ククール・・」
噂をすればだ。
リュウの声が聞こえた。

「リュウ・・何だ?」
「院長がお前のこと呼んでたよ。」
「そうか、ありがとう。」

「・・・・・・・・・・。」


最近リュウはククールと会話をするとき、何か言いたそうな様子を見せる。
「どうしたんだよ?なんかお前最近おかしぞ。」
「・・・な・・ククール・・お前・・・」
「なんだよ。もう俺は行くぞ。」
「あ・・あぁ・・わかった。じゃあな。」

院長に呼ばれているといってきたのはリュウなのに、なんで呼び止めたりしたのだろう?
まえなら普通に”大丈夫か””お前・・問題児ぶるのもいいかげんにしておけよ”とか言ってくるのに
そもそも何でそうしている事を知っているのだろう。
侮れない奴だな。











院長への屋敷を入り、2階の部屋のドアをノックした。
院長は朗らかな声で「どうぞ」と言ってくれた。

「聖堂騎士団ククール入ります。」

いつもなら、院長の部屋のドアの外には万一のために警備が2人いるがククールがここへ来るといつもいない。
オディロなりに気を使ってくれてるのだろう。
ククールはオディロのそんな心の配慮を深く感謝した。


「院長今回は・・」
「そう・・お前にちょっと聞きたい事があったな・・・」
「はぁ・・・」


「ククールや・・お前は今年でいくつになった?」
「16です。院長。」

「そうか・・お前もそんな年になったのか・・・」
オディロは自慢の長いひげをさすりククールの前にたった。

「ククールや、お前はこのままでいいのか?」
「どういうことですか?」
「おぬしは女子じゃ・・・女子ならそれなりの願望もあるじゃろ。何故にこの男だらけの修道院に・・」
「院長・・・私は・・・・」

ククールは一人の人物を思い描いた。
漆黒の髪の毛
強い緑の瞳
絶対的な存在の自分の兄


ククールはその男にとらわれここを離れられない。


「マルチェロのことか・・?」
「はい・・・私はもう肉親を失いたくないんです。たとえ憎まれても兄と一緒にいたいのです。」
「おぬしがそこまで言うのなら・・・・悪かったのククール。」
「いいえ・・・。」

「もし、お前が普通の娘として幸せを探しているのならいつでもわしに言うのじゃぞ。」
「え・・・」
「嫁探しをしている貴族の方が多くいるのでな。」
「はぁ・・・・」


「ありがとうございます。」
ククールは深くお辞儀をして、院長の部屋を出た。


「!!」


「お前!」


部屋を出てから驚いた。
誰もいないはずの院長の部屋に他の人がいたからだ。
いつも院長に呼ばれるときは自分の正体がばれない様に無人にしているのに、人がいるのだ。


「・・・ククール・・・?」

その男はさっき自分を呼びにきたリュウだった。
鳩が豆鉄砲を食らったように目を真ん丸にして、あいた口がふさがらないようだった。

「リュウ・・・お前・・・・・。」


「ククールお前・・・」


まずい。
今この話を院長に聞かれるのはまずい。

「ちょっと来い!リュウ!」
「わ!何するんだよ。」

院長には迷惑をかけられない。
ククールは誰も来ないだろう、昼間に地下室へとリュウを連れ出した。

「ここなら人もいないし、安心だろう。」
「・・・・・・」
リュウはモゴモゴして、何かいいたそうだった。

「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ。ただしあんまり周りに聞こえないようにな。」


「・・・・・ククール・・お前女の子だったのか?」

やっぱりそれか・・・
院長の話を聞いていたんだな。

「あぁ・・・そうだよ。」
「否定しないのか?」
「仮に、否定して証拠を見せろと言われたら終わりなんでね。」

強がりを言って見せるが、内心は心臓がバクバクで仕方がない。
リュウはいいやつだけど、怖い。





「心配すんなよ。俺は誰にも言わない。」

「え・・」

「だから誰にもいわねぇ。」
「リュウ・・・」

リュウはククールの髪の毛をそっとなでた。
「・・・女扱いするな。」
「女だろ?」

むっとして言い返そうとしたがそれも出来なくなった。


「こんなところで何をしている?」


マルチェロだ。

「別に・・・」
「まだ職務の時間だ。さっさと持ち場に戻ったらそうだ?」
「団長、ククールは院長に呼ばれてその帰りな・・」

「お前には質問はしていない。こんな輩といるとお前の品が下がってしまうよリュウ。」
「団長!」
「いいから!」
「でも・・」

「申し訳ありません団長。直ちに戻ります。」
「ふん。ならそうしろ。」





「なぁ、ククール。」
「なんだよ。」
「団長は知ってるのか?」
「知らないよ。」
「え?仮にも兄貴なんだろ。」

問い詰めるリュウにククールは眉をひそめた。
「後でな、またしゃべってたら、あの団長がまた小言いうぜ。」
「ああ、そうだな悪かった。」



その後、ククールもリュウも元の位置に戻りなんの問題もなくその日が過ぎていった。









あれからリュウはククールの事をかまうようになった。
もともと絡むことの多かった二人だが、いっそう増したということだ。







ある日、リュウの元に一通の手紙が届いた。
手紙の主は、家からだった。



手紙を開けて内容を呼んでみると、家に戻り跡を継げという事だった。
リュウには上の兄弟は姉しかいない。
一環の修行の意味で入った聖堂騎士団だったが、こんなに早く去る日が来るとは思わなかった。
家に帰るのは別にいいのだが、リュウはククールの事情を知ってしまいなかなか決心がつかめなかった。


しかし、こんな手紙が来たのだから団長のマルチェロと院長のオディロにはすぐ報告したが気が乗らない。



リュウは院長の部屋に訪れた。




「失礼します。院長。」
「おおなんじゃ?リュウよ。」


「実は・・・この前院長とククールの話を聞いてしまって・・。」
「ほぉほぉ・・それでおぬしはどうするのじゃ?」


オディロは長いひげを手でいじりリュウの次の言葉を待っている。


「俺・・・もうすぐここを出て行きます。だから・・・もしククールの合意を得られたら、
 ククールを自分の嫁として一緒に連れて行くのを許していただけるでしょうか?」
「!」

「マルチェロ団長はククールの事を知らないと存じています。だから院長にと・・・」

オディロは笑ってリュウの方をぽんとたたいた。

「ぁあぁ・・わしは大いに賛成じゃ。実はわしも心配でな・・・そろそろと思っていたのじゃ。
 でも、なかなかククールは首を縦に振ってくれないのじゃ。もしかしたらお主なら上手くいくかもしれん。」

「はい・・・ありがとうございます。」

リュウはオディロにお辞儀をして、院長の部屋を出て行った。

















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