花が咲き散る頃  中編





院長の部屋をでたリュウは即座にククールの元へと歩き出した。
院長も自分と同じ事を考えていたとこを知って、すぐそれをククール伝えたかった。

聖堂騎士団員や修道士をかきわけて目指す一人の所へ向かった。
「ククール!」
「・・・な・・なんだよ。」

大きな声で突然呼ばれてククールはひるんだ。

「話があるんだ!ちょっときてくれ!」
「な!!・・・おい!」


リュウはククールの腕を引っ張り人気の無いところへ行く。


「一体なんなんだよ?」
「なぁ・・ククール落ち着いて聞けよ?」
「ぁぁ・・だから何なんだよ?」


リュウはゴホンと咳をし真剣な表情でククールの方をつかんだ。


「・・・ククール・・・。俺と結婚してくれ。」
「寝言は寝て言え。」

「本気なんだ!」
「!」



「ククール、もう院長の了解は得てるんだよ。あとはお前次第。」
「なんだそんなの勝手に決めるんだよ!」
ククールは勝手に決められて気分が悪かった。

「君が女性とばれるのは時間の問題だ。」
「んなことは百の承知なんだ。」

「だから、そうなる前に俺のところに来てほしい。」

リュウの切羽詰った声にククールは方を下げた。
一体なにがリュウをそうさせているのだろう?


「俺・・家を継ぐことになったんだ。」
「リュウ・・・。」


「・・・ククール、君がいくら団長と一緒にいたくても・・」
「そんなことは、知っている。」

お前なんかに言われなくたってわかっている顔を向ける。


「・・・考えてくれないか?俺は一ヶ月位でここを出て行くことになる。今夜団長に言うつもりだ。もちろん。ククールのことも。」

「リュウ・・・。」


そっとリュウはククールを抱き寄せた。
放すものかというように強く。

「俺はククールのことが好きだ。君が女の子と知る前から・・。」
「・・・リュウ!」

リュウの発言にククールは少し驚いた。

「ここは確かに、そういった事の噂は多い。実際、ある。俺だって最初は悩んだ・・でも今はその必要も無い。」

ククールはリュウの腕の中でリュウの話を聞いていた。
見目麗しいククールのことだ。こういった言葉は何度もいわれたことがある。
でも、リュウのように真剣に言われたことが無い。
逆に戸惑ってしまう。


確かに、今リュウの誘いを受ければククールは幸せになれるだろう。
真の愛情をもって接してくれる男と、何不自由しない生活が待っているのだから。
しかし、ククールの胸の中には一人の男が離れてくれないのだ。



「ククールが団長の事好きなのは知ってる。でも団長はククールの事知らないんだろう?」
「・・・そうだよ。」
「・・・・・」


沈黙が重い。


リュウはククールを放すともう一度ククールに言った。


「ククール俺は本気だ。」


「・・・・しばらく考えさせてくれ。」

ククールは混乱したまま自室へ戻っていった。













リュウはそのままマルチェロのところへ向かった。


大きく息を吸って団長室のドアを叩く。


「なんだ?」
「リュウです。お話があって参りました。」
「よし、入れ。」

「失礼します。」



マルチェロは変わらず、他の団員からの報告書に目を通していた。
「話はなんだ?」

さっさと済ませてほしいような口調でマルチェロはリュウをせかした。

「先日、家から手紙が届きました。生憎にも私には上に男の兄弟はおりません。」
「なるほどつまり跡継ぎの事だな。」
「はい・・そこまで急いではありません。来月あたりには・・・。」
「わかった。お前は他の者とは違って人柄もいいいい主になるだろう。」
「はい!ありがとうございます。それでひとつ相談が・・・」
「なんだ?言ってみろ。」

リュウの朗報にマルチェロもすっかり機嫌がよくなっていた。

「・・・ククールのことです。」
「何故お前のような優秀なやつがあの劣等性を相手にするのか・・・」
「一緒に連れて行っていいでしょか?まだ・・これから彼を説得することになりますが・・。」
「・・!!。・・・それはどういうことだ?」

家に帰るのにククールが話に出るのか良くわからなかった。
でもマルチェロにとっては、厄介者のククールがいなくなることは好都合だ。
しかしククールの粗暴でリュウの家に汚名がつくのも嫌ではあった。
彼は聖堂騎士団でも有能で、地元ではちょっとした名士になっているからだ。


「・・・うちはそこまで人がいないんです。はっきり言いますと馬鹿みたいにメイドがいないんです。
 手紙には長年執事をしていたものがなくなったと書いてありました。 
 うちは女系が多く、男が少ない。親父ももう年だ。私以外にいればいいのですが・・姉は嫁いで出ています。」

「なるほど・・それで君が”一番仲のいい”ククールを連れて行こうとしているのか・・
 それならもっといいほかのめぼしい団員がいるではないか・・」
「いえ・・ククールがいいんです。団長・・。許可をいただけないでしょうか?」


リュウが何故ククールにそこまで執着するかわからないが、追い払ういい機会だとマルチェロは思った。

「いいだろう。ならやつを説得するがいい。修道院にとっても好都合だ。」
「はい。ありがとうございます。」

リュウは一礼をして、早々とマルチェロの部屋を去った。
あとはどうククールを説得するかだ。
院長にも頑なに断っているのだから、そうやすやすとなびかないのは目に見えている。









もう消灯時間はあ過ぎている。
リュウはククールをなんとか呼び出すことに成功し、一目のつかない場所へつれてきた。

「・・話ってなんだよ?」

今日は運良く、ククールはドニの方へ遊びに行ってなかったのだ。
「ククール・・・・・俺が昼間言ったこと覚えているか」
「ああ。」
「・・うちは女系家族で男手が足りない。不幸にも兄弟はみんな女だ。」
「・・・そうなんだ。で、それとこれとなんの関係があるんだ?」
「特に・・団長にはククールを屋敷の執事にすると言ってある。」
「おい・・。なんだよそれ・・・。」


「院長にも、団長にももう許可は得てあるんだ。」

ククールは思わず声を張り上げてしまった。

「な・・・なんだよそれ?!」

「もちろん強引に連れて行く気は無いよ。期間は一ヶ月もあるんだ。昼間も言ったろ?」
「そんな・・俺・・・」


リュウはククールの方にそっと手を置いた。


「考えてくれないか?俺は・・お前が女と知る前からお前のことが好きだったんだ。」

「な・・・!!なに馬鹿なこと!!」

「本気なんだよ・・・好きなんだ。」


そのまま腕の中にククールを包み込んだ。


「・・・こんなこと言うつもり無かったんだ。この閉鎖的環境。煩悩を断ち切ることを強いられた生活。
 中には一部で欲の解消に男同士なんてこともあることは知っている。
 無論・・・ククールも祈祷でそんなことされていると思ってたし、他の知り合いの団員でも小奇麗な男と関係を作ってる奴もいた。
 初めはこんな感情何かの間違いだと思っていたさ。俺にはそんな趣味無かったし・・・。」

ククールは返す言葉が見つからなかった。
彼のいっている事は正しいことだから・・・。

男のなりをしているせいか、酒場の女の子に一瞬でもある以上の感情を持った事だってある。
それと同じなんだとククールは思った。


「自分でもおかしいと思ってたんだ。お前は他の奴と違ってなんな違和感があったし・・・
 でも・・ククールと院長の話を聞いてしまった時すべて腑に落ちた。
 だから今までのせき止められていた感情が・・・もう、抑えられない!!」
「え?!」


リュウはククールの頭を片手で押さえ、位置を固定させるとその唇にすいついた。


「ん・・!!」


一瞬なにがおこったのかわからなかった。
しかし、ククールとってこれは初めてのこと。
互いの唇を合わせる行為は生まれて初めてだった。


「んん・・ん・・・」


長い間身動きが取れなかった。
所詮は女だ。本気を出した男の力にかなうことは無い。


リュウはようやく唇を離すと、一歩下がった。

「・・とにかくこれが俺の気持ちだ。考えておいてくれ・・。」

そういって逃げるように去ってしまった。
ククールは未だに何が起こったか検討がつかず、指を唇にあわせた。

「・・ファーストキス・・。」


”一緒に行かないか?”

それはきっとこういう意味合いも入っている。そうしたら彼のものなるということ。
そんなの当たり前だ。何を今更・・・
これがククールではなく、他の女性なら返事二つでOKするだろう。
家柄も、富も名誉もある、心優しい青年のもと幸せに暮らせることが出来るのだから・・・
こんな素敵な話一緒ない。


ククールはどうしかものかと思いながら、ゆっくりと自分の部屋に戻っていった。


「おや、こんな時間に何をしている?もうとっくに消灯時間になっているぞ。」
「団長・・・・」
今一番顔を合わせたくない人と会ってしまった。
目を合わせずらい。

「そんな格好でなにをウロウロしている見っとも無いぞ。ただでさえお前はここの品性を下げているのだ。
 人一倍行いには気をつけたまえ。」

内心言っておくがきっと修道院の中で、一番行動に気を使っているのはククールであろう。
今まで正体が明るみにならないのは、オディロのサポートだけじゃない。ククールの努力もあるからだ。
「すいませんでした。」
今下手に揉め事になりたくない。素直に謝ってここから去りたかった。
「まあ、深夜でもないその格好をみれば今夜は、おとなしいのだろう。」

マルチェロはククールの考えがわかったのか、自分もかかわらないように避けていた相手だ自然と別れの言葉が出る。

「・・・変な気を起こさぬようにな・・。」
「わかりました。団長もすこしはお体に気を使われてはいかがですか?」
「貴様に言われる筋合いは無い。」

視線も合わせずにすれ違うと、マルチェロは言い忘れたかのようにククールに付け足しをした。


「そうだった・・・。ククールお前はもう聞いているかも知れないが、ミスター・ミハエルから話は来ていると思うが・・」
「団長・・・俺は・・・」

「素晴らしいお誘いだと私は思うが・・・なぜ返事を返さなかったのか?」
「え・・・!」

そうだ、リュウはもうマルチェロと院長には許可はもらっていると言っていた。
疫病神のように見ているマルチェロにとってはここから追い出すいい話だ。
そう思っているのはククールでも分かる。

「賢いお前なら分かるだろう。こことアスカンタの名貴族どちらかいいか・・。」
「・・・・団長はどうお考えなのですか?」

ククールはマルチェロの考えなんて予想がついているのに、どこか期待したように聞いてみた。

「自惚れるな疫病神。いくら頭の悪いお前でも今度の話のこと私がどう思っているかぐらいわかるだろう・・・。」


ほんの少しの期待がガラスのように脆く崩れ去った。
ここまで言われるとは思ってなかった。

「そうですか・・・私もおいしいお誘いだとは思っていましたので・・」
「なら早急に返事をするがよい。相手に失礼だ。」
「はい・・。」


ちゃんとした顔で自室に帰ることが出たのか分からなかった。
マルチェロの言葉が突き刺さって眠ることが出来なかった。
やっぱりとともっていたけど面を向かって言われるといわれないとでは違う。

「もう・・だめなのかな?」

オディロ、リュウそしてマルチェロの言葉が頭の中でグルグルまわっている。
そうだ・・・自分は男ではない女の子なんだ。
いつまでここにいられるか分からない。
本当はとっくに正体がバレて酷い目にあっていてもおかしくないのだ。
もうこれ以上オディロにも迷惑をかけたくはない。




ククールは泣きつかれて静かに眠りについた。
















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