悪の双子 2 今年の冬はとても慌しく、寒さを感じている暇などなかった。 アレルヤの母親の葬儀に新しい女王アレルヤの女王就任パーティーと大忙しだった。 前女王の遺体は丁重に埋葬され、瞬く間にアレルヤは王国の頂点となる。 「しばらく・・・僕は帝王学を学びたい。」 「アレルヤ様・・・勉強ながらという手もあります。」 自分はまだまだだと、政権を握ろうとしないアレルヤに大臣は、 これから勉強しながらやっていけば言いと言う。 「でも・・・。」 「大丈夫です。私をはじめ城の者も協力します。」 アレルヤは辺りを見下ろす。 いつもだったら階段のちょっと前に立ち、みんなと同じ目線で母親を見ていたが、 今日は玉座から皆を見下ろす形にいる。 皆、アレルヤに良心的だ。 「ありがとう・・・。皆、僕頑張るよ。」 城が活気溢れる中、民衆はアレルヤの幼すぎる年齢に不安を覚えるものが多かった。 せめて、アレルヤが女王に就任する年齢があと5年くらい先だったらよかっただろうに・・・。 ハレルヤは料理長から買出しを頼まれていた。 これから政治に、レディとしての嗜みに、勉強にと料理長はアレルヤの為に 腕を振るうつもりだ。 だから料理長は、アレルヤの好みをよく知っているハレルヤに食材を買ってくるように頼んだ。 「へ、あのオヤジも俺に頼むなんてな。高くつくぜ。」 市場へ行けば、活気あふれる人の声。 新鮮で色のいい食材や、完成の高い調度品などが数多く揃っている。 メニューは決まっているから、ハレルヤに任されたのはデザートだった。 食後のデザートチョイスはハレルヤが担当するのである。 「オヤツはブリオッシュだったからな・・・。生洋菓子にするか・・・?」 生クリームを多く使ったムースなんていいかもしれない。 牛乳と卵と、果物をみて回った。 「お、いい色したオレンジだな。」 「よ、坊主目が高いな。さっき?ぎたてたばっかりの新鮮果物だぜ。」 「じゃこれにするか。」 オレンジのムースかいいかも知れない。 オレンジ色はアレルヤが一番好きな色だ。 少し多めに買うと、市場を出た。 前女王が死んで暫く国は喪に服していたが、今ではそれも解かれ 普通の状態へと戻っていた。 町の状態が心配だったが、あまり変わり無いようでハレルヤも安心した・・・ハズだった。 <アレルヤ様っていくつだっけ?> <えっと前の女王様が死んだ時はまだ12だったよな?> <え?そんな子供だったっけ?> <でもこの前13才になったわよね。> 町人達の噂話が聞こえてしまった。 このまま通り過ぎるのもいいが、アレルヤの事を言っていてので少し聞いてみる事にした。 <アレルヤ様って大人しい方だったわよね。> <そうそう、あんまり外に出ないで静かに過ごす人だって聞いた。> <マジかよ?大丈夫かなこの国・・・。> <なんとかなるんじゃない?だって、アレルヤ様小さい頃から勉強熱心だったっていうじゃない。> <それはそうだけどよ・・・。> 町の皆もアレルヤが頂点に立つことに不安を覚えているようだ。 (なんかムカツクな。) アレルヤが必死になって頑張っている事を国民は知らない。 いい政治を出来るようになろうと、隣国に舐められないようにいい女王になろうと 今アレルヤは頑張っているのだ。 それを知らないで、国民達はアレルヤを事を悪く言っている。 (今度そんな事聞いたら、俺がぶっ殺してやる!) ハレルヤは不快感を覚えながらも、抱えている荷物があったため城へと急いだ。 (チクショウ!チクショウ!) 「どうしたのハレルヤ?」 「え・・・・?」 夕食も終わり、部屋にお茶を持ってきたハレルヤの顔がいつもと違う事にアレルヤは気付く。 ちょっと怖そうで近寄りがたいが、今はいつもより眉間に皺が寄っていた。 「なんかいつもより怖いよ?」 「アレルヤ・・・。」 アレルヤは本を読んでいた。 有名な人の伝記だった。 「お前、少しやすんだらどうだ?母さんが死んでからロクに寝て無いだろ?」 「・・・流石、ハレルヤだね。でもあともう少しで読み終わるんだ。」 「何読んでるんだ?」 「クライン家の人たちの伝記だよ。」 「ああ・・あのクラインか、お前が目指しているのはラクス・クラインか?」 「うん、こんな風に多くの人々を導けるようになりたいな・・僕も・・。」 「なれるさ!」 「なれるかな?」 「お前、こうやって頑張ってるじゃねぇか!」 珍しくハレルヤが熱くなった。 普段ならめんどくさそうに”大丈夫じゃねぇの”なんて言って来るのに・・・ 「ありがとう・・・・。ハレルヤ。」 アレルヤは嬉しくて笑った。 それからハレルヤの特製の紅茶を入れてもらって、心地よく眠りについた。 「何だ、ハレルヤまだ起きてたのか?」 「・・・料理長か、アレルヤ様のティーセット洗ってるんだよ。」 「そうかやっとお休みになられたか・・・。」 「ハレルヤ知っているか?」 「街でのアレルヤの評価か?」 「知っていたのか・・・アレルヤ様には内緒だぞ。」 「・・・ああ、分かっている。」 ハレルヤだけじゃない、アレルヤ以外みんな知っているのだ。 アレルヤは外に出ないから分からないだけだ。 (大丈夫だ、アレルヤ。俺が守ってやる。) (俺が・・俺が・・・必ず!) |
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