陰に咲く花 1 息をするのが苦しいぐらい体に布を巻きつける。 それはもう日課になっていた。 体型を隠すためとはいえ、少しやりすぎる位サラシをきつく巻く。 標準より大きく育ってし合った果実は、あまり人目に触れる事はない。 毎日アレルヤ本人が見るぐらいで終わっていた。 自分の姿を見てため息がでる。 今更、人前で本当の姿になるなんて自身がない。 一緒に乗っている女性クルー達と比べて、可愛らしさの欠片もないのだから。 せめて、もう少し自分に自信があったらと思う。 そうしたら、もう少し胸を張って歩けたかな? パイロットスーツに身を包み、部屋へでる。 パイロットスーツは、普段着と違いからだのラインがくっきりとでてしまう。 今日はいつも以上にきつく巻いた。 それでもいつかバレてしまうんじゃないかって、いつもソワソワしている。 『怖いのか?アレルヤ。』 「ううん・・大丈夫。でも・・・」 『なんだよ。やっぱりビビってんじゃねぇか?いつでも代わってやるぜ?』 「いい・・。」 女性だけに、雰囲気が柔らかい。 ハレルヤにかわったら、言動もそぶりも荒々しいから疑われる事はないだろう。 でも、ハレルヤに頼ってばっかりではいられない。 だってコレは自分の体で、自分の意思でこんな事をしているのだから。 「アレルヤ。」 「ロックオン。」 「よぉ、調子はどうだ?」 「まずまずといったところです。」 ロックオンは持ち前の兄貴肌で、みんなをイロイロと気遣う。 それはアレルヤも例外ではなくて、気さくに話してくれる数少ない存在だった。 彼のささやく言葉に心なしか嬉しくなる。 「あんまり考え込むなよ。ほんとお前さんは優しいな。」 「別に・・・そんな事・・。」 「いーや。でも、その優しさを刹那とティエリアに少しでも分けられたらな。」 「悪かったな。」 「わ!」 ミッションの直前のプラン確認で召集を受けていた。 ロックオンとアレルヤは同時にグリーフィングルームに入ったが、どうやら先に刹那とティエリアは集合していた。 久しぶりのミッションだから、二人とも待ちきれなかったのだろう。 「刹那・・お前いたのかよ。」 「いては悪いか?」 「いってねぇだろ!そんな事。」 「まぁまぁ、二人とも。」 全くもって、いつもの光景だ。 刹那とロックオンと、時々入るティアリアの口論にアレルヤが仲裁に入る。 そんな事をしていると、スメラギが最後に入ってきた。 直前の簡単な打ち合わせみたいなものだから、すぐに終わった。 各自MSに乗り込み目標地へと向かっていく。 今日のミッションは、特に大きな戦闘もおきなくすぐに終わってしまった。 あまり人を殺したくないアレルヤにとっては、願ってもないことだろう。 前にも麻薬を裁判していた土地を焼き払う任務があったが、そういった事の方が気がらくだ。 MSから着艦して、コクピットから出てきた。 ヘルメットをとって、つぶれた髪の毛を整える。 ふと、誰かに見られている事に気付き、視線のする方へ体を向けた。 「ロックオン・・・。」 視線の正体はロックオンだった。 ロックオンは、黙ったままアレルヤを見る。 アレルヤは居た堪れなくなってロックオンに話をふった。 「ロックオン、僕の顔になにかついてますか?」 「え・・?あ、イヤ悪かったな。ぼーっとしてたぜ。」 「はぁ・・。」 「それにしてもお前、ちゃんと食べてる?」 「え?」 マジマジと今度はアレルヤの体を見回す。 何か違和感でもあるのか? 今日はいつもよりカバーは上手く出来たつもりでいるが・・・。 「アレルヤさ、細いよな。なんか腰とかが異様に・・。」 「へ?!」 腰のラインが女性のようなSの字ラインで綺麗と思った。 が、アレルヤは男だぞと、そんな意識をロックオンは頭からおいやった。 スレンダーな細身の男性の代表といった感じだろう。 様子がおかしいロックオンに、アレルヤは恐る恐る声をかけた。 「あ・・いやスマン。気に障ったら謝る。でも、お前もう少し食べたほうがいいんじゃねえか?」 「食事ですか?」 「もう飯。くおうぜ。」 何度か食事を一緒になったことはあるが、確かアレルヤは小食だったなとロックオンは思い出した。 19歳なら普通はまだまだ食べる年だ、しかしアレルヤは一般男子の中でも食べる量は少ない方だと思う。 「・・・そうですね。体力もつけなきゃいけないし・・・。」 「よし、着替えたら飯食うぞ!」 「え・・。」 「アレルヤ、さっきからそればっかだな。」 「あ、すみません。」 「いいって、いいって。着替えたら待ってろ。迎えに行くから。」 ロックオンはそういって、ハロをつれて自室へ戻った。 ギクリとした。 一瞬ばれたのかと思った。 でも、ロックオンは疑いをかけるわけでもなく、アレルヤを細みな体なんだと納得したらしい。 それはそれでよかったのだが、ショックもある。 ロックオンは優しい。 でも、ソレは誰にでも平等に与えるものであって、個人的な優しさではない。 最近自覚している。 日に日に増すこの心のざわつき。 ロックオンへの恋心を否定できなくなっている。 『アレルヤ、お前も早く戻んねぇと、アイツを待たすことになるぜ。』 「いけない・・。」 『なぁ、アレルヤ。お前あいつの事好きなんだろ?』 「別に・・そんなんじゃ・・。」 否定したところで、ハレルヤには見透かされている。 アレルヤはハレルヤであって、ハレルヤはアレルヤである。 ハレルヤも分かってて言ってくるのだ、タチが悪い。 『アレルヤ、やめておけ。お前が傷つくだけだぜ?』 「わかっるよ・・・ハレルヤ。僕なんかじゃ、相手にもならない。」 『そういうこった。さっさと捨てるんだな。そんな思いなんか』 「うん・・。」 身長は170近い。 胸はあるかもしれない。 でも、女の子特有の柔らかさや、可愛らしさなんてない体。 不完全に改造された体。 もう、人間にも化け物にもなれない未完成な存在。 そんな自分を誰が愛してくれるというの? 「僕の事を好きなんていってくる人なんて、いないのは分かってるよ。」 アレルヤはロックオンの後姿を後にして、自分も部屋へ戻った。 絶対に秘密だ。 体の事がバレたとしても、この気持ちは悟られてはいけない。 だって怖い。 知られた後の反応が怖い。 気持ち悪いに決まっている。 こんな中途半端な存在。 『いい子だ、アレルヤ。お前をわかってやれるのは俺だけだよ。アレルヤ・・・。』 |
BACK NEXT |