陰に咲く花   9






アリサは今日も薬草を摘みに行っていた。


俗世を離れて約一年。
外の世界の事情は全く分からずにいた。

ソレスタルビーイングなんて組織彼女は知らない。
人里離れた修道院で、今日も彼女は神の為にお祈りを続けるのだ。


「あら?」


いつも歩く森が騒がしかった。
鳥のさえずりが綺麗に聞こえる所が、今日はざわついて他の動物達も集団でどこかへ移動している。
何か不吉な事の前触れなのか?それになんだか焦げ臭い。

「もしかして火事かしら?」

動物達が来た道を辿ってみると、奥の方で炎が見える。

「大変!早く皆に知らせないと!」


急いで修道院の仲間に知らせようと戻ろうとしたときだ。


「あ・・・アレは・・・・??!」
















額が冷たくて気持ちいい。
体もフワフワして気持ちいい。

このままずっとこういられたらどんなに楽だろうか?


ああ、そうだ。ずっとこのままで・・・・・・



『おい、いつまでおねんねしてんだ?アレルヤ?』


誰かの声が聞こえた。



「え・・・・・?」



「あ、気が付いたんですね。」


目を覚ませば見慣れない天井。
体を動かそうとすると、痛みが走る。

「い・・!!」

「駄目ですよ!いきなり動いちゃ・・・。」

「ここは・・・?」

「ここは修道院です。貴女倒れていたんですよ。」

「そう・・・だったの・・・。」

「それはそうと、貴女は軍人ですか?」

「えっと・・・。あれ・・。」


直ぐにアレルヤは自分の事を話そうとしたが、何も言葉が浮かんでこない。
頭を整理してしてみて、何故こんなところいる原因すら分からない。

「あれ・・僕・・・自分誰なのか・・・・。」

分からない・・・!













「スメラギさん、王留美からの暗号通信です。」

「急いで読んで頂戴。」

「はい・・・あ・・・」

王留美からの通信を読んだクリスティナの顔色が変わった。
俯き、内容を読みたくないようだ。

「どうしたの?」

「あの・・・アレルヤ、ユニオンで性別女の子だってバレるみたいです。
 ユニオンに潜入しているエージェントの情報によると、暴行を受けたみたいで・・・。」

「そんな・・・。」

「それに、昨夜未明アレルヤはフラッグを一機強奪して脱走したみたいです。」

「アレルヤは無事なの?」

「・・・それが・・・追っ手に打ち落とされて現在生死不明です。」


クリスの話が終わると、フェルトは泣き出してしまった。

「泣かないで、フェルト。王留美に伝えてユニオンより早く捜索してと、
 それにもし、アレルヤが生きているなら落下地点に手がかりはあるはずだから・・。」

「はい。」

クリスは急いで王留美に返信を送った。
この情報はまだマイスターには全ては言わないでおこう。
とりあえず性別の事は伏せておいて、脱走して行方不明とだけ伝えておけば問題ないだろう。

「フェルトはマイスターたちにこの文章を送って。」

「分かりました。」

「アレルヤが見つかり次第、私と王留美でアレルヤを迎えに行くわ。」












「わぁ、似合いますよ。アレルヤさん。」

「そ・・・そうですか?」


シスターの服を着て鏡の前に移ると、似合う似合うとアリサは褒めてくれた。

「で、どうして僕の名前アレルヤなんですか?」

「ハレルヤさんに教えてもらったのよ。」

「???」

「フフ・・・ハレルヤさんまだアレルヤさんとお話してないみたね?」


自分の事を思いだせないアレルヤは行く当てがなかった。
それならと、シスター長がここでシスターとして暫くいてくれればいいと言ってくれた。
アレルヤはご好意に甘えて、今日から見習いシスターとしてこの修道院で生活する事となった。

自給自足のこの修道院では、農作物は自分達で育てているらしい。
少し離れたところに大きな畑があった。
生活事態質素だったから、時々来る人のお布施や大きな町での教会行事の手伝いで貰う報酬で
なんとかなっているようだ。

「僕もちゃんとしないと・・・。」

しかし、シスターの服は裾が長くとても歩きにくい。
時々スカートの裾を踏んづけて転びそうになる。

「わ・・・!!」

「大丈夫?」

「うん、なんとか・・・。」

「アレルヤさんは、記憶がなくなる前あまりスカー穿いてていなかったのね。歩き方ぎこちない。」

「そっか〜。」

「でもアレルヤは力があるから助かってるよ。土を耕すのは結構疲れるし。」

「ハハハ!僕はきっと丈夫な娘だったんだね。」

「きっとね。」

二人で笑いながら畑を耕し、次の時期の旬の野菜の種を蒔く。
本日の分の野菜と果物をかごに入れ、修道院へと帰った。

「今日はある町の偉い人のお嬢さんが、少しの間修道院で花嫁修行することになったの。
 だから寄付金がイッパイきたから、今日はささやかだけど歓迎会をやるみたいだよ。」

「そうなんだ。でも今時修道院で花嫁修業なんて珍しいね。」

「私もそう思う。でも、この時代になってもシスターなんてやってる私も珍しいね。」

「僕もそう思う。」


今日はめったに食べれない料理が食べれるせいか、アリサもアレルヤも浮かれていた。
二人を怪しげな目で見ていた人物にきづかづに・・・・



『アレルヤ・・・お前、見られているぞ。』


「え・・・・?」

「アレルヤ?どうかした?」

「えっと・・・なんだろう頭の中で声がした。」

「・・・今日夜、話しかけるといいよ。」

「え?アリサ、どういう意味?」

「知らないのはアレルヤだけ〜。」

「もー酷いよー!」


足取りも軽やかに、二人は修道院へと道を急ぐ。


その日、プトレマイオスに王留美から一通の暗号文が届いた。


落下地点から、少し離れたところにひっそりと修道院がある。
その修道院の中に、アレルヤにそっくりなシスターがいると報告されていた。





「王留美からアレルヤが見つかったのは本当なのか?」


グリーフィングルームへ全員集合のなか、ティエリアは通信文の内容を聞いて
アレルヤが見つかったところへ行くと志願していた。
ティエリアの他にもロックオンも希望している。

「ええ、でも完全にアレルヤと決まったわけじゃ・・。」

「写真はあるのでしょう?」

「ええ・・。」


添付ファイルにちゃんとアレルヤの写真が付いていた。
アリサと笑っているシスター姿のアレルヤが・・・・。

「なぁ、ミス・スメラギ。俺たちには見せてくれないのか?」

「一人で見るより皆で検証したほうがいい。」

「そうっすよ。アレルヤ追われているんなら、変装してるんですよね?」

「いいえ、アレルヤは変装してないわ。そのままよ。」

「なら、なおさら直ぐ迎えに行くべきだ!」

このままでは直ぐにユニオンに気付かれてしまう。
アレルヤが生きていることに・・・・。


「・・・皆、驚かないで聞いてくれる?」

「何だよ、ミス・スメラギ。」


「アレルヤはね・・・実は女の子なの。」

「ええ?!」

「・・・・。」


スメラギの告白に、ロックオンは驚きを隠せないが他の皆は普通だった。

「な・・なんで皆、驚かないんだよ!」

「ごめんね、ロックオン。私達女性クルーは知ってたの。」

「俺は途中で気が付いた。」

アハハと笑って謝るクリスに、一緒にゴメンネと言ったフェルト。
ティエリアは随分前から、アレルヤのことは知っていたみたいだ。

刹那はつい最近雰囲気が変わって直接本人に聞いてみたといった。
ラッセとリヒティは男っぽくないからもしかしたら・・とは予想はしていたみたいだ。
実際女の子だとわかって、ホっとしている様子だった。


「知らなかったの俺だけかよ!!」


「ナカマハズレ!ナカマハズレ!」

「な・・!!」


ハロの毒舌な突っ込みに、一堂笑いが生まれた。


「さぁ、で本題はアレルヤの居場所。ごめんなさいね。男子禁制の修道院なの。」

「それでいくら頼んでも、俺たちは駄目だったのか・・。」

「そういう事、私と王留美で行くんだけど、普通にお祈りとしていくのなら男性も同伴可能。
 ただし一人だけよ。希望を出しているのは、ロックオンとティエリアだけど・・・。」


「・・・・ロックオン、貴方が行けばいい。」

「な・・・お前!」


「一つ気になる事があります。」

「何なの?ティエリア?」

「アレルヤは無事生還したのなら、何故こっちに連絡をよこさない。
 もしもの為に、エージェントへの緊急連絡先は知っているハズだ。」


皆の顔が、ハっとする。
ティエリアの言う事は間違ってはいない。
アレルヤがユニオンを脱走をして数日過ぎている。

連絡一つ寄越さないのはあまりにも不自然すぎる。


「私もね、それは考えてたのよ。考えられるとしたら・・・・「記憶喪失。」・・。」


スメラギが言う前に、刹那が的確な言葉を発した。


「そうね、可能性は高いわ。エージェントの情報によると一日アレルヤの事を観察してたみたいなんだけど、
 普通に周りにいるシスターと変わらない、神に身を捧げた女性のようだったと報告に書いてあった。」

「そうね・・・写真を見ると、アレルヤ笑ってるもの。」

クリスティナはマイスターたちに、アレルヤが写っている写真を見せた。
シスター服を違和感なく着こなしている、笑顔のアレルヤを・・・。


「こんな笑顔初めて見たぜ。」

「俺も・・」

「俺もだ。」



「と、いう訳で任せた。ロックオン。」

「な・・・!」

「俺も、記憶のないアレルヤとどう接すればなんて分からないからな。」

「面倒事は全部俺かよ!!」



「貧乏くじ!貧乏くじ!」


本日のハロの突っ込みは冴えている。
皆はロックオンに向かって手を合わせた。

















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