この恋を君に捧ぐ  1





初夏を過ぎた、7月10日。


枢木スザクが18歳を迎えた日であった。
いつものように学校から戻り、お腹がすいて冷蔵庫に何か食べるものでもないかと漁っていた。

まだ育ち盛り、胃袋はブラックホールだ。
そんな息子を母親は分かっているため、案の定多めになにか作っていたりする。
しかし、今日に限ってそれらしきものは無かった。

「・・・今日の部活結構しんどかったのに・・。ご飯まで待てないや・・参ったな。」

仕方なく、戸棚や冷蔵庫から適当につまんで、皿にのせた。

スザクは部屋へ戻り、食べ終わった頃に母親の帰る声が聞こえた。


「スザクー・・帰ってる?」
「母さん!!」


スザクはすぐに部屋から出てきた。
母親の顔はいつもより興奮気味で、顔が赤かった。

「母さん・・。どうしたんだ?」

「スザク・・・落ち着いて聞いてね?」
「いや、母さんがまず落ち着いてよ。」

「さっきお父さんから連絡あったんだけど・・貴方の正式な婚約者決まったよ!」


「ええ!!」



「なによ・・思ったよりリアクションないわね。」
「・・貴方が前から言っていたじゃないですか。ブリタニアの皇女が婚約者になるかもしれないと・・。」
「そうだったわね。」


今日のご飯はどうしましょうかね〜と独り言のように母親は去っていった。



枢木家は日本でも有数の名家に入る。
今では言う事を廃止されているが、華族なのだ。

世界は近代化され、国際社会は進む。
国際結婚なんて今では当たり前だ。

しかし、名家の家に他の血を混ぜるなんてよく許したものだ。
スザクは興味のなさそうに、部屋に戻った。
何事かと思ったらただ婚約者が正式に決まった事。

詳しい事は、母より父の方から聞くことにした。

名前も詳しいいきさつも言って来ないところから見ると、母親はそれだけ聞いて飛んできたのだろう。


「・・・ブリタニアの皇女ね・・。」


スザクは特に婚約者をもたれる事にさほど反発はしていなかった。
名家に生まれた自分の運命だろうと、どこか冷めて見ているところがある。
自分の妻になる女が、自分の好みならそれはソレでいい。
そんでもって、言う事を聞いてくれたらそれでいいと思っていた。

「皇女か・・・めんどくさいな。」

出来ればスザクは、結婚する相手は日本人がよかったと思った。
日本だけのようなものだ。女が男を立てるなど。

世界標準はレディーファースト。
日本の風習から見ても、そんなすぐには変えられない。
ましてや枢木家は亭主関白な家だ。

それは自分の両親を見ても、使用人夫婦をみても手に取るようにわかる。
スザクも女は男の言う事を聞くものだと、錯覚してしまう。











その日の夜、スザクは父親のゲンブから、詳しい事情を聞いた。

スザクとブリタニアの皇女の婚姻は
日本とブリタニアが同盟を結び友好関係を作るためのものらしい。

よするに外交の道具かよと意見したかったが、とりあえず話を最後まで聞くことにした。

「ブリタニアは世界各国で猛威を振るっておる、サクラダイトを提供する代わりににと
 ブリタニアからもその象徴を頂きたいと皇帝に謁見した。」
「・・・はぁ・・。」
「そうしたらブリタニア皇帝は自分の娘をやる言ったのだ。」


似たもの同士かもしれないとスザクは思った。
この二人の父親は、自分の子供をもの扱いのように言っている。

「でさ・・・この皇女様の写真とかないの?」
「気になるのも無理は無かろう。とりあえず今日決まったばかりでな、誰になるかはまだこれから決めるらしい。」
「そですか・・あんまりホエホエしたいかにもお姫様って感じの子はやめてくださいね。」

「なんだお前にも好みといものはあるのか?」


「当たり前です!」



「それにしてもお前の好みはズレてるな。普通なら世間は可愛らしいお姫様は男の憧れだろう?」

「嫌ですよ。メンドクサイ。ぬるま湯で甘やかされたお姫様・お嬢様なんて、付き合って見たらただの世間知らず。
 付き合うこっちの身にもなれと言っていいほど、面倒です。」


「お前それは経験か?」

「あたりまえです。」


だから今は後腐れない人と付き合ってますけどね。
とスザクは爽やかな笑みを浮かべた。


自分の息子はそこまで硬派ではなかったかと、ゲンブは苦笑した。

スザクは幾分か女性経験があるらしい。今の発言でそれはかなり深いと思われる。
一体どこのいいとこのお嬢さんを・・・と冷や汗が出た。



しかし、全く無いよりかは幾分かマシだろうが・・・
いきなり強姦めいた事をされるのも困りようだ。

スザクの性格を考えると、ゲンブは頭を痛めた。
なんせ江戸っ子というか、生粋の日本人だ。
女を気遣うなんて事を、息子は知らないだろう。

万が一のことがある、ゲンブはいろいろこれから考えなくてはいけないなと思った。




「そうか・・とりあえずお前の意見も言っておこう。」

「まぁ・・皇女な時点でみんなそうだからいいですよ。とりあえずちゃんとしますから。」


「お前・・仮にも婚約者をもつのだから・・・」

「わかってるよ。ちゃんと縁切るから。」


それは本当だろうか?
ゲンブはスザクに疑惑を持ちながら、今決まっている事の続きを語った。

ブリタニア皇女は日本に、枢木家に住むことになる。
そのため、式も日本。挙式は日本式と西洋式と両方やるらしい。
式は相手が決まってから、おいおい準備。



「まぁ・・今の所こんなもんだろう。」

「こっちに住むのか?」

「嫁ぐのだから当たり前だろう?それともお前、婿養子になってブリタニアに行くか?」

「死んでもゴメンだ。」


それだけは勘弁して欲しいと、スザクは即答した。

「後は、決まり次第連絡する。今日はもう休め。明日も学校だろ?」
「あぁ・・朝練が入ってるから。」
「そうか。」



スザクはゲンブの部屋を出て、部屋に戻ると布団がひいてあった。
使用人が敷いてくれたのだろう。

あぁ・・自分の部屋には入らないように言っておかないと。
なんていっても年頃。
見られては困るようなものは、沢山ある。
今日はよかったけど、明日はちゃんと言っておこう。



「婚約者ね・・・。出来れば俺だって普通に結婚したかったよ。はぁ・・・。」




スザクはすぐに横になって眠った。

























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