この恋を君に捧ぐ 5 「はじめまして、枢木ゲンブ首相。」 第1皇子は、ゲンブに握手を求め、ゲンブも手を出し挨拶の握手をした。 ルルーシュとスザクは無言のままだった。 「ルルーシュ・・。挨拶をしなさい。申し訳ありません。ルルーシュは少し人見知りが・・。」 「いいえ、こちらこそ!とんでもない。」 ゲンブはスザクに”挨拶しろ”とアイコンタクトを送ると、正気に戻ったスザクはあわてて返事をした。 手の甲にキスをする。欧米の挨拶だった。 ルルーシュは眉ひとつ動かさずに、社交辞令の言葉が返ってくる。 先ほど第1皇子が人見知りをすると言っていたが、ただの人見知りではないとスザクは思った。 表情が人形のように張り付いたままだからだ。 普通、相手の気分を悪くさせないように、少しは愛想よく笑うのは普通だろ。 皇女だからお高くとまっているわけでもない。 スザクはこんなに心の読み取れない女の子は初めて見た。 今日はとりあえずホテルのスイートで一泊することになる。 兄の第1皇子は、次の朝にはブリタニアに帰ることになっていた。 「ルルーシュ・・・怖いかい?」 「いいえ・・。」 スイートに兄弟二人きりになり、やっとルルーシュの重たい口が開いたかと思えば否定の一言だった。 「正直、お父上も、他の弟たちもこの結婚を悪く思っている。」 「わかっています。」 「ルルーシュ・・・。」 末の皇女で、母親も身分が低く、決して高望みが出来なかったルルーシュ。 自分から望みを言えることなんてなかった。 今でさえ、それはかわならい。 反抗できる立場ではないことを弁えて、言うことを聞いている。 「決定したことを覆すのは難しいです。兄上・・。」 「しかし!ルルーシュ!・・お前はそれで幸せなのか?!」 「・・・・私の幸せは、当の昔になくなりました。」 「!!!」 「兄上・・私は枢木スザクを愛せるかどうかわかりません。・・私は・・・私はただ・・・」 ルルーシュはすべてを悟ったように、無表情だった。 否定の言葉しかいえない、妹を第1皇子はただ黙るしかなかった。 「私はただ言われた事を従うだけです。」 悲しい笑みに、第1皇子はどう言葉を投げたらいいのか分からなかった。 翌朝、第1皇子は、朝早い便でブリタニアに戻っていった。 残されたルルーシュはゲンブ達につれられて車で移動をする。 マスコミ達はもうこっちに向かっているらしい。 大々的に婚約発表をしたものの、皇太子のような華やかにテレビに向かって挨拶など危険すぎてやめたのだ。 中に中華連邦やEUのスパイがいるかも知れないからだ。 だから華やかなことはしないと決めたのである。 暫くすれば、民衆も熱が冷めて顔をみても”誰だっけ?”とほとぼりが付くまでは外出は出来ないだろう。 「・・・・あんな綺麗な顔じゃ無理だな。」 「スザク・・・お前何を言ってるんだ?」 「父さん、ほとぼり冷める事ないと思うよ。もっと極秘にしておくべきだったんじゃい?」 「仕方無いだろう。完全に”意思表示”をしなければいけなかったのだ。」 「ま、俺としては全貌の眼差しは嫌じゃないけどね。」 「スザク!!」 「冗談だよ。」 どこまでが冗談なのか、ゲンブはため息をつく。 「まぁいい、私はこれから仕事がある。くれぐれも殿下にへんな事はするなよ!」 「大丈夫だって、そこらへんの女みたいな扱いはしないよ。」 「その言い方をなんとかならんのか!!」 ゲンブの付き人が、血圧が上がりますよと宥めるが、スザクの事が気がかりなだけに ろくに仕事に集中できそうもない。 「・・・はぁ・・・とにかくだ、今日はとくにお前も予定もないだろう。殿下のことを頼んだぞ。」 「わかったて、このまま真っ直ぐ家に帰ってもつまらないし、都内なら観光しても良いでしょ?」 「マスコミには気をつけろよ。」 「はいはい。」 秘書に時間ですと言われ、ゲンブは総理の顔に戻り、議事堂へと向かっていった。 「さてと、行きますか。」 スザクはまだスイートにいるルルーシュを迎えにいく。 流石に二人だけは緊張する。 「ルルーシュ殿下、スザクです。迎えにあがりました。」 しばらくしてからゆっくり扉が開いた。 昨日の正装とは違い、一般の人と変わらないカジュアルな服装である。 「・・・・総理から聞いた。・・・日本を、案内してくれるんでしょう?だからこっちの方がいいと思って・・。」 少しビクビクしながらスザクの目を見る。 ルルーシュはスザクのことが怖いのか、目をあまり合わせようとはしなかった。 「はは・・・父さんこっちに来ていたんだ。」 「・・・お前には注意しろといっていかが、よくわからん。」 (余計な事を!!) スザクは内心毒づきながらも、いつもの可愛い笑顔でルルーシュに手を差し出す。 「さて、行きましょう。お姫様。」 ルルーシュはスザクの手をとった。 「なんで裏口から・・。」 「マスコミにはニセの車で出て行ってもらってるんだ。」 「そう・・・。」 ルルーシュは深く帽子をかぶって、下をむいた。 「そんなに不自然だと余計目立つよ。」 「あ!!」 スザクはルルーシュの被っている帽子を取る。 「なに・・・」 「こっちの方がいい。顔隠してると余計怪しまれるよ。」 堂々としているほうがかえって、普通なんだよ。 「・・・・・じゃ・・・そうする。」 ルルーシュの印象を一言で表せば”無口”だ。 自分から話しかけようともせず、気付いたら大人しく隅の方へ行く。 そろそろ警戒心をとってもらいたかったが、なかなか事はうまくいかなかった。 今までこんな事なかったら、どうしていいかわからない。 大抵の女の子はみんな、スザクの笑顔に騙されてきたからだ。 その分自分のルックスには自身があったし、 人懐っこいこの笑顔にはルルーシュも警戒を解いてくれると思っていたが、 「・・・・・。」 ルルーシュの周りには、”近づくなビーム”が飛んでいるように見える。 これではせっかくの東京観光も意味がない。 こうなれば、ちゃんと渡された資料目を通して、好みの研究でもしておけばよかったなと、 今更後悔を始めたのである。 (しかし、本当に・・・綺麗だな。ドレスとか・・・着物も似合いそう。) ここまで距離を置かれては、案内するこっちもどうしたら良いか分からない。 スザクは、ルルーシュの正面にたって手を掴んだ。 「!!」 「ね、俺のこと怖い?」 スザクはルルーシュの手を握って顔を近づけた。 それも一心にルルーシュの瞳を見る。 大抵の女の子はこれで落ちる。 ルーシュは無言のまま、瞳で恐怖を訴えた。 (なるほど、男に免疫がないのか・・・。) それは無理もない。 彼女は誰にも触れられないように、奥深いアリエス宮にひっそりと生活していたのだから。 (やっぱり近くで見たほうがいいな。) スザクはルルーシュの美貌に、膝まづきそうになったほどだ。 「とりあえず、俺のことは普通にスザクって呼んでかまわにないよ。殿下は・・なんて呼んだららいい?」 こうすれば向こうも口を開いてくれるだろう。 「・・・・ルルーシュでいい。」 一言だったが、綺麗な声がした。 スザクはニヤりと笑うとルルーシュの手をそのまま引っ張る。 「そう、それならそう呼ぶ。今日はもう疲れたでしょ?帰る?」 「・・・そうしてもらえると・・・ありがたい。」 車を呼んで枢木邸へ帰る。 その間は一言もしゃべらなかった。 「あぁ・・・スザク帰ったか。」 「今戻りました。」 「ルルーシュ殿下、今日はお疲れでしょう。ゆっくりしてください。」 「ありがとうございます。」 ルルーシュは少し顔が緩んだ。 ルルーシュは使用人に自室の案内してもらう。 「にして、父さん。なんであんな離れたところをルルーシュの部屋にしたの?変な誤解されない?」 「・・・それは私も思ったが、この際殿下に誤解をされようが、お前から殿下を守るためだ。」 「意味がわからないよ。」 婚約者なのに。 「このドラ息子!正式に殿下と式を迎え籍を入れるまでは、殿下に触れる事は禁止だ。」 「はぁ?!!」 わけがわからいといわんばかりに、スザクはゲンブに反抗する。 一般世間じゃ、正式に婚約したのなら結婚したと同じだろう。 これからスザクはルルーシュをどう口説き落とそうかと、頭を回転させていたというのに。 海外なんて婚約=結婚だ。 何を考えているのだ、この父親は。 「いいか!とにかくだ、正式に籍を入れ式を迎えるまでは触れてはならん。」 「何でですか?」 「お前の粗暴な交遊関係は概に知れ渡っている。お前の毒牙には降りかからないようにするのだ。」 「・・・・そんなの拷問だよ!!」 しかし、結局スザクの反抗も通される事もなく、 ルルーシュの部屋はスザクから一番遠い部屋の位置のまま。 夜忍び込もうとしても、途中で見つかりあえなく部屋に戻された。 |
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