まだら模様ののカーネーション   1






委員会で遅くなった。
部室で素早く着替えてグランドにつくと、もうアップぐらいは入っているのかと思ったが、
阿部の予想は全く違っていた。

掛け声の無い野球場のマウンドに一人の女の子が立っていた。


いまどき珍しい腰まである髪の毛をなびかせて、グローブを握っている。
他の部員達はそんな女子生徒を見ていた。
女子生徒の視線の先を見ると、キャプテンの浜田が嬉しそうにミットをもって構えている。

(一体どうなってるんだ?)

さっき来たばっかりの阿部には状況がついていけず、ただ入り口のところに突っ立ているだけしかなかった。
キャッチボールでもするというのか?マウンドから?

(大丈夫なのかよ・・ってか無理だろ距離がありすぎる。)


女の子にはきつい。
しかし、マウンドに立っている子はそんな事も気にせず、片足を上げて振りかぶった。
制服姿で、ローファーで、ズカズカとマウンドに上がる女子に阿部は少し腹が立つ。
神聖なるマウンドに、女がしかもローファーで上がり込んでいい場所じゃない。
男女差別をするつもりは無いが、概に野球の好きな女の子はたくさんいるし、野球の楽しさをしっているのら阿部だって嬉しい。
が、せめてその格好をなんとかして欲しいと思った。

そんな短いスカートで投げたら・・・・・・



阿部の予想通りだった。
短いスカートは、足の動きでめくれ上がり、後ろのプリーツが浮き上がる。
そして、その女子生徒の後ろに位置する阿部には、そのスカートの中身がよく見えた。
可愛いレースのついたピンク色の下着、おもわず少し見とれてハッ我にかえる。

どうやら、女の子の投げたボールは無事浜田の構えたミットに入った様子。
女の子の割にはよくやるな。
コイツも野球がすきなのだろうか?

あんな細い足と手で・・・・。
また気付くと下半身しか見ていない事に、己の不甲斐なさを阿部は実感する。
そう、決して自分は変態ではない。
そう、普通に思春期特有の興味だ。
鼻の下なんて・・・伸ばしていないハズなのだ。



「おーい!阿部!!お前、来ていたんなら挨拶しろよ。」

浜田が阿部に気付いて、手招きをした。
そしてもう浜田の横には例の女の子がいる。
パッと見、気弱そうな子だった。
阿部がその女の子に視線を向けると、方がびくついてうつむいてしまった。
この眼つきの悪さは元からだ、今更そんなことされても別にどうってことない。
そうされるのは少なくないのだ。阿部の場合。

「ほら、ほら、」

浜田が”どうしたんだ?”を肩を叩くが視線はうつむいたままだ。


「さっきみんなには紹介したんだけど、阿部はまだだったよな。」
「はぁ・・・そうっすね。」

「コイツ三橋・・三橋廉。俺の幼馴染。」

「へーそうなんすか。」

もう一度阿部は三橋をみる。効果音にギロっとつきそうな程だ。
今度は下を向いては無いが、目を合わせてくれない。
心なしが、涙ぐんでいる。

泣かせるような事は何一つしていない。

そのまま黙っていると、おそるおそるだが阿部を見始めた。
ちょっと上目遣い風に、本当に少しずつだった。


何故三橋を連れて来たのか阿部は考えていた。
別に彼女自慢じゃここまではしない。
それに浜田に恋人がいるなんて聞いて事ないし、彼女なら彼女と普通にいうだろう浜田の場合。
そういえば、この前のミーティングで篠岡がもう一人マネジが欲しいといっていた。

たしかに、少ない部員の部だが、練習量とハードさは野球部が一番だろう。
去年は浜田しかいなかった同好会になっていたが、今年は阿部達が入り正式に部となった。
それに伴い、マネジの仕事だって増えるのは当たり前。
監督の百枝は本気で甲子園を狙っているし、顧問の志賀も効率のいいメンタルサポートケアもハンパない。

そう、阿部は浜田がもう一人俺が連れてくるという言葉を思い出した。
それがこの三橋廉だったのか・・阿部は納得する。

さっきから黙ったまんまの阿部を見て、外野は心配になって声をかけようかと話しているのが聞こえた。
なんで泣かさなきゃならないんだと思いながら、阿部は言葉を出す。
言ってやりたい事があったからだ。

頼むから、泣かすことだけは勘弁して欲しい誰もがそう思った。


「アンタさ、本当にマネジやりたいわけ?」

ここの重要ポイントはやらされると自分からやる事。
”やりたい”ならそれでいいろ。
むしろそうしたほうがいいだろう。

阿部から見て三橋の印象が全くそういったものが感じられなかった。

「そんな格好でグランドいて、少し自覚たりなんじゃない?」


あぁ、と周りはため息が漏れる。
こうなってしまえば後の展開の予想は容易く考えられる。


「俺は認めない!お前がマネジなんて!!」


この男は初対面の女の子になんて事をいうんだという突っ込みの隙も与えずに暴言をはたいた。
阿部は野球に関しては人一倍こだわりがある。
チームメイトもそれは付き合っていく中で、知った事だ。
詳しいし、よく知ってる。
理屈っぽいところもあるが、反面情熱的な部分も見せるときがある。
なにか阿部の気に障ることをしたのかと思うが、他の者たちから見れば検討もつかない。

初めから見ていたが、三橋が一体なにをしたというのか?
納得できないという声が一斉に上がった。


三橋は泣き出して、浜田が慰め、花井が言い過ぎだぞと阿部を怒鳴る。
三橋は泣き虫なのか、かなかな泣き止んでくれない。
浜田が大丈夫だよと背中をさすってくれたが、浜田の手を振り解いてグラウンドから出て行ってしまった。









「あ〜〜べ〜〜お前〜〜。」

浜田はうなりながら阿部を睨むが、そんなもん怖くないというのか

「俺はただ自分の意見をいっただけです」

といってきた。


「おい!なんだよ阿部言いすぎじゃんか!」
「謝れ!!今すぐ謝って来い!!」

横から水谷と田島が猛反発を飛ばす。
彼らは比較的女の子の味方だ。どうであれ、阿部が悪に見える。
そして傍らに、いつからいたのか気付かなかったが、篠岡もあんまりよくない顔色を見せる。


完全に阿部が悪いという状況である。


「お前何が気に入らないんだよ?」

泉がドライな態度を決め込んだのか、それなりの理由を求める。

「俺はあのピッチング見る限り、あの子きっと野球スキだと思うけど・・・。」

泉の言い分は正しい。
阿部も少しはそう思う事がある。
そうしなければ、あんな気持ちのいいミットの音が出ないからだ。

「何が気にいらねぇんだよ?言ってみろよ。」


「・・・アイツ・・ローファーなんかでマウンド立ちやがって・・・」

「「「「「「「「「「「へ?」」」」」」」」」」」

たったソレだけ?
なんて心の狭い男だろと全員が落胆した時、駄目押しの言葉がでた。

「それに・・!!あんな格好でやるなよ!場を弁えろ!目のやり場に困る!
 本気をだしたいんならちっとは考えてくれなきゃだな・・・」


「つまりはさ、阿部はさっき三橋のパンツ見たの?」


つまり分かりやすく言えばそうなるだろう。
田島はそう聞こえたようだ。
確かにそうだ。阿部は見た。スカートの中身を。
いや、誤解を招くような表現だ。
偶然にも見えてしまったと言うほうが正しい。

そんな事説明する間もなく、田島は”ズリー俺もみたかったー”と駄々をこね
花井に呆れられ、周りからなんともいえない視線が刺さる。


「ちょ・・!チゲーよ!!おい!人の話を聞け!!」


お前逆恨みかよ〜ってかだったら別にラッキーとか言って普通に接すればいいじゃんなどと
栄口が言うが、それじゃ阿部が本当に覗いたという事を肯定してしまう。
それだけは思われたくない。

「違うっつってんだろ!!」


「うるせぇ・・変態にかまっている暇はない。」


泉は帽子を被りなおして、背中を向けた。
それに引きづられて他のメンバーたちも、ため息突きなら練習を始める。



「阿部、お前は謝ってから練習に参加しろよ。」

「なんで俺が・・!!」

花井からそんな事いわれ、反発した。
しかし、肩を後ろから叩かれた。
振り向くと、篠岡と百枝がニッコリと笑っていたのだ。
そう、実に晴れ晴れしい爽やかな笑顔だ。
篠岡に関しては、何故か拳を重ねている。
今にも間接をポキポキと鳴らしそうなほどだった。


「阿部君、私も謝った方がいいと思うよ。」

気まずいでしょ?と付け足され舌打ちをする。


「阿部君・・・。」


ぽんとまた肩を叩かれると、篠岡が至近距離にいた。

笑顔である。
そう、いい笑顔である。
本当に、いい笑顔なんです。
笑顔なのに後ろのオーラはとても黒く感じるのは阿部だけではない。


「3年間ずーっと白おむすびと、今謝ってくるの、どっちがいい?」



これに流石の阿部も危機を感じたのか、あわててグラウンドを飛び出した。


上手くいったと篠岡と百枝はピースとガッツポーズを交わした。
他のナインは篠岡を怒らせては駄目だと肝に銘じたらしい。
ある意味、百枝より怖い。


















「くそ!!出て行ったのはいいが、あいつどこにいるんだよ!!」

メンドクサイ事になった。
とりあえず阿部は三橋を校内中探すハメになった。















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