まだら模様のカーネーション  2






「ああ、畜生!どこにいるんだよ!」


闇雲に校舎を探す阿部。
三橋が出て行ってそうそう時間は経っていない。
男の足と女の足、追いつくのは容易いのだが、どこに行ったのか分からなければ意味は無い。

そもそもこんな奥へ行っているのなら、途中で気付くはず。
ましてや、泣き顔なんて人に見られてたくないハズ。

「チ・・・どこに隠れてるんだよ。」

この時間帯は部活動がピークになる時間。
帰宅部はもういないハズ。

屋上は・・・違うだろう。
そこまで行ってないはず。



ギャハハと品のない笑い声が聞こえた。
きっと上級生だろう。
空き缶をつぶして、座っている。

だがそんな事気にしている暇は無い。自分には関係ないと場所を変えようとしたときだ。

「そういえばさっき、ここに来る途中可愛い子みたぞ。」

「え?マジ?」

「見たことない顔だから新入生だと思うよ。」

ニヤケた笑いが飛び交う。
もしかしたら三橋のことじゃないだろうかと、阿部は黙って耳を傾けた。

「髪の毛がさ、お姫様みたいにウェーブかかった長くてさ、制服着ててもうスカートも短いのなんの!」
「へ〜!!」
「なんかさ、泣いてたんだよね〜。泣き顔も可愛くてさ〜。思わず捕まえそうになっちゃったよ〜。」
「お前!それじゃただの変態だよ〜。」
「まじかよ。で、どこに行ったの?」
「ん?なんかそこら辺の草陰で隠れて泣いてるんじゃない?向こうの方にいった。」
「俺追いかけてみようかな〜。」
「うわ!マジかよ!!」


・・・上級生が話していた女子生徒は間違いなく三橋の事だ。
上級生より先に、三橋を早く見つけないとややこしいことになりそうだ。
さっき指を刺していた男の方向を頼りに、阿部は走り出した。


どこかで隠れているかもしれない。
その考えは阿部にも納得がいく。


辺りを見回すと、グスっと涙を堪える声が聞こえた。


あの後ろ姿は紛れも泣く三橋だった。




「三橋・・。」


三橋は肩をびくつかせる。
震えながら振り向いた。
声をかけた人物が、阿部だと気付くとまた目をそらす。
どうやら完全に怯えさせてしまったようである。

どうしたものか、このままでは練習に参加できない。
泣く三橋の後ろを回り、前に座る。



「ひ!!」


今ちょっとへこんだ。
まさかココまでされるとは思っても見なかった。

泣き止まない三橋をよそ目に、阿部はどう言葉を発したらいいか分からなかった。
一言ゴメンと謝ればいいものを、不器用な阿部にはそれが難しいのだ。

「・・その・・なんだ・・。」

「う・・ぐす・・。」


「さっきの・・・・。」

「ひ・・!!」


その泣き方はどうかして欲しい。
コレじゃ、なんか自分が目の前にいある三橋を襲っているようにしか見えない。


「ああ”!もう、悪かったよ!」


開き直ったのか、これでは謝っているうちには入らないが、阿部にしては上出来であろう。
いきなりの謝罪に、三橋はピタリと泣き止んだ。

「えっとあの・・・。」


「・・俺もいいすぎだよ。」


目はあわせてくれなかったが、ちゃんと謝ってくれた。


「あ・・う・・私こそ・・・ごめんな、さい。」
「お前は、悪くない。」
「ひ!!」

「だからその悲鳴はやめてくれ。」

ガックリとヘコこむ阿部に、三橋は一体なんのことだか分からず、無言になる。


「ホラ、行くぞ。浜田先輩に頼まれてんだ。大人しくこいよ。」
「浜ちゃん・・?」
「・・・お前マネジなるんだろ?」
「・・でも・・・えっと・・。」

「阿部。阿部隆也。」


「あの・・その・・。」

「さっき言った事は気にするな。アレは俺が悪かったんだから。ホラ行くぞ!」
「え・・わ!!」


強引に腕を引っ張られ、三橋は阿部とグラウンドの方へ戻っていった。
もう三橋は泣いてはいなかった。
















「おい、遅いぞ阿部〜!!」

「悪かったな。・・ホラ!」

阿部は三橋をグラウンドの中に入れる。

「お帰り三橋!阿部に変なことされなかったか?」
「どういう意味だ?田島。」
「別に、そのままの意味だよ。阿部ってムッツリそうだし!」

「な・・!!」


田島の爆弾発言に、周りは口がふさがらない。
女子がいるのに、クラスでも普通に猥談に走る田島には羞恥心というものはないらしい。


「あ、お〜い!!廉!!」

「浜・・ちゃん・・。」


「おかえり〜阿部に変なことされなかったか?」

「そんな、先輩まで・・。」
「お前が悪いよ。」

泉はさっきの阿部の言葉を聞いて、俺もそう思うと付け足す。




改めて三橋の紹介が始まった。
子供のころよく、浜田と野球をして遊んでいたという。
確かに、女の子でもいいピッチングはしていた。

しかし、気弱そうな印象は変わらない。
本当に大丈夫なのだろうか?


「さて、マネージャーも二人に増えたことだし、GWの合宿のことについてお話しましょう。」


仕切りなおして、百枝が手を叩いた。
合宿の案内を配り、保護者に向けての手紙と同意書。
日時と場所が書いてある。

「費用はなんとか無料になったのよね〜。それとちゃんと同意書のサイン持ってきてね。」

費用がタダなんて、一体そんなところどうやって見つけてくるのだろうか?
我らが監督ながら、百枝を凄さを再確認する。


「ん?どうした?三橋。」


プリントを片手に三橋の顔色は悪かった。
いや、阿部との一件があってから悪かったが、大分また青くなっている。


「場所・・ぐ、んま?」
「そうだね。それがとうかしの?」


「べ・・別に・・。」



群馬がなんだというのか?
西浦ナインと、百枝と志賀は頭を悩ませる。


「ま、合宿の話はさておき、練習しましょうか?三橋さん着替えは持ってきてる?」
「は・・はい!」


「よろしい!じゃ、部室で着替えてきてくれる?詳しいことは千代ちゃんに聞いて。」
「はい!」


「宜しくね。三橋さん。」

篠岡は笑顔で三橋に握手を求める。


「こちら、こ、そ・・。篠岡さん。」
「ヤーダー、千代でいいよ。」

「千代・・・ちゃん。」
「じゃぁ、私も廉ちゃんて呼ぶね。」
「う・・うん!」


三橋は部室の場所を教えてもらい、着替え始める。


マネージャーの仕事を大まかのな流れを教えてもらうと、二人で分散する。
三橋が入ってくれて、篠岡も助かっているようだ。

三橋がグラウンドの水撒きをしてる間に、篠岡は自転車でドリンクの用意をしに行ったようだ。
水撒きの後の仕事も聞いているし、私も頑張ろうと、三橋も精をだす。




「GW練習試合・・・三星じゃなければいいけど・・。」

合宿先は群馬。
その合宿先の所は知っている。
もう、無人になって使われていないコテージだった気がする。

朦朧とした記憶を必死に探り寄せている。

たしか、あそこはコテージを綺麗に掃除してくれる人には無料で貸してくれると聞いたことがある。
百枝はそれを狙ったのだろう。
あそこは生半可な掃除じゃ綺麗にならない。

食事も出ない。自給自足だ。
それにあの場所と三星学園は場所が近い、帰りがてらに練習試合なんてケースもある。

ばれないようにしなくては、
三橋廉が、三星をでて、西浦に来ているという事を分からせないようにしなくては・・・。



三橋は頭を振った。


グラウンドの水撒きが終わると、次の仕事に入った。









途中篠岡と合流する。

グラウンドの整備が終わっていないところがあるので、二人で草むしりをするのだ。


「あ、廉ちゃん。虫除けスプレー」
「ありが、とう。」

西浦のグラウンドの外野はまだ、綺麗に整っていない。


「あぁ、廉ちゃん来てくれて助かった〜。まだ今の時間じゃ今ドリンクが終わったところだもん!
 夏までにここの草なんとかしないとね!5月いっぱいまでには終わらせたいな〜」


「・・・夏だと、草すごいよね。」

「そうそう!伸びる伸びる!根っこからとるの大変だよね〜。」


順調に草むしりも進んでいく。
どうやら篠岡とは仲良くなっていけそうだ。

「そういえば、廉ちゃんさっき顔色悪かったけど大丈夫。」
「だい・・丈夫。」

「そっか、気分悪くなったら遠慮なく言ってね。」


篠岡はいい人だ。
この人に迷惑はかけられない。

また大丈夫と一言言って、草むしりを始める。


だが、本当にどうしようか。
合宿を出るのは特に問題はないのだ。

問題は、合宿先なのである。

あとで、練習試合をする学校を監督に聞いておこうと三橋は思った。
















しかし、練習が終わったと、試合をする学校名を聞いて三橋は顔が真っ青になる。


「試合する学校。あぁ、三星学園よ。」

「え・・!!」


あっけらかんと百枝は答えた。
部員達は三星学園?と顔を寄せ合った。
聞いたこともない学校だから、尚のことだろう。



「合宿先と近いからね。丁度いいでしょ・・って何どうしたの?」


三橋の顔色がさらに悪くなった。



「・・・そう、でうか。失礼します。」










各自解散になった後、三橋はトボトボと歩き出した。
他のみんなは自転車通学だが、三橋は電車通学だ。


「おい!」

本日2度目となる呼びかけ。
この声は


「あ・・べ・・君」



予想外の人物に三橋は固まった。




















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