まだら模様のカーネーション   3






「阿部・・君。」

「おい、送ってやるよ。」


「え・・・でも・・。」


「夜遅いんだ!お前一人で帰ったほうがよっぽど迷惑!」


阿部は自転車のカゴに、荷物をいれろというようなジェスチャーをする。

「阿部君、つ・・疲れてるのに・・。」
「大丈夫って行ってんだろ。ホラ!乗れ!」

三橋はこれ以上グズグズしてると、本当に雷が落ちそうだったので
大人しく、阿部の後ろに乗った。


「お前、家どこらへん。」

「えっと・・・〜〜〜・・・だよ。」

「じゃ、俺と大してかわらねぇな。」



三橋を後ろに載せてバランスよくペダルをこぐ。
さすが運動部だけあって、二人乗りの坂道もスムーズに進む。
降りようかと三橋は行ったが、どうやら阿部には必要なかったらしい。


「コレで礼は返したからな!」
「え・・?」

「昼間の侘びだよ。」


あぁ、そうか、だから声をかけてくれたのか。

「ありがとう。」


三橋は倒れないように、阿部にしがみつく。
男の子の背中は大きいんだなと、思った。
そういえば、修ちゃんもこんな背中だったなと、離れた幼馴染のことを思い出した。

練習試合の相手は三星学園。
少しいや、叶に協力が必要になるだろう。


「お前、これからチャリ通の方がいいぞ。」

「え・・?」


「練習は夏大が近づくにつれて遅くなる。徒歩じゃあぶねぇよ。」

「・・・そっか。」

「チャリもってるだろ?」


阿部は他にもいろいろと話しかけてくる。
ちょっと早口で、三橋には聞き取りずらかった。
まるで、何かを紛らわせているみたいなしゃべり方だった。

「ごめ・・阿部君よく、聞こえ、ない。」


声をよく聞こうと、阿部の口元によると、気付いた。
阿部は耳まで真っ赤になっていた。
でも、何故赤くなる必要があるのだろうか?
三橋は不思議に思った。


「阿部、君。大丈夫顔・・あか・・」

「だ・・大丈夫だ!!」


スピードが速くなり、あっという間に三橋の家についた。



(デカイ・・・。)


三橋の家を見て、阿部は圧倒された。
いいとこのお嬢さんなのか?とジロジロみてしまう。
確かに、おっとりした感じはあるけど、まさかココまでとは思っても見なかった。

「ありが、とう。阿部君。」

「お・・おう!」


時刻は8時。
きっと来月あたりから、帰りはもっと遅くなるだろう。

「やっぱりお前、チャリないなら買ってもらえ。その方がいい。」


「う・・うん。」



阿部はそれからずぐ、自分の家に帰っていった。




部屋に戻ると、早速三橋は携帯を取り出した。
他人から見れば、なれない手つきで遅めでだが、キチンと自分で打ち送信する。

返事はすぐに返ってきた。
返信は2件。
叶と瑠里だった。

二人ともすぐに返事をよこしてくれた。



「・・・そっか。よかった。」



三橋は文面を確認した後、安心してそのまま眠りに付いた。






























朝が少し早く登校することになる。
昨日、朝練での仕事内容もちゃんと聞いていた。

監督が用意したオニギリの具を、冷蔵庫に保管。
朝は比較的、仕事内容は楽なようだ。



「阿部〜!昨日見たぞ〜!」

「はぁ?何がだよ?!」

「隠しちゃって〜。昨日三橋と一緒に帰ってただろ?」


俺みちゃったもんね〜と田島は手を腰に当てた。
田島の言葉に他の部員も集まる。

「え?何もうそこまでいったの?」

水谷が関心したように阿部をみた。
泣かしたくせに・・・と文句の視線を送るのは栄口。


「ちげぇよ。昨日は侘びをかねて送ってやっただけだ!アイツ電車と徒歩だっつたから!」

「そうなんだ〜。で、送り狼になったの?」

「うるせぇ!!」


興味しんしんなチームメイトに、阿部はイラついて大きな声をだす。
またそんな態度をとる阿部がおかしくて、からかうのはやめない。


「なんか楽しそうだね。」
「そ・・・そうだね。」


遠いから、まさか自分の事を言われているとは知らない三橋は、
ただ篠岡と楽しそうに、阿部達の行動をみていた。



その日の放課後の練習後、部員達は昨日配られた合宿の同意書を提出した。
無論、三橋もである。

「よし!今日で全員分そろったわね!来週からいよいよGW合宿ね!」

みんなで集まり、連絡事項の内容を確認する。
大まかなスケジュールはもう決まっているようだった。

「で、GWは殆ど練習だから、宿題は早めにおわらせちゃいなね!」

元気良く返事が飛ぶ。

「じゃ、今日の練習は終わり。」


ありがとうございました。とグランドに礼をして、練習の締めを終えた。
身支度も整い、他の部とは数時間遅れての下校となる。

「じゃ、おっさき〜!!」

一番違い田島は、着替える事もしないで、そのまま帰る。
そして、次々と明日に備えてみんな帰っていく。




三橋は、他の人と比べて少し動きが大分遅い。
きっと自分が帰ることには、誰もいないだろう。

帰りが遅いという事で、親にはちゃんと防犯ブザーを持たされたが、
学校周辺は畑だ。
駅の近くにならない限り、きっと役には立たないだろう。

でも、こんな駄目な自分を襲う奴なんて・・・・・・・・・
・・・・いや、少なくとも一人はいた。

世の中って結構意外な事があるんだな。と三橋は正門をでた。




「やっぱり昨日の今日じゃ、無理だよな。」

「え?」


正門には阿部がいた。


「・・・・え、どうして?」

「お前、本当に危機感ねぇのな。それじゃ本当に襲われるぞ?」


いや、こんな自分を襲う人がいたら見てみたいとなんて、
今はちょっと言えそうになかった。



「ホラ、お前がチャリ通になるまで帰り限定で送る。」

「い・・・いいよ。」

「このまま俺が無視してかえって、お前に何かあったらその方が嫌だ。」

「うう・・。」


どうやら阿部相手に、口では勝てないようだ。
昨日と同じ、三橋は後ろに乗った。



「ちゃんと・・・GWに休み・・一日あるから、そこで、用意る!」

「おう、そうしておけ。」



今日の阿部は、やたらと静だ。


「三橋・・・あのさ、お願いがあるんだけど・・。」

「な・・に?」

「俺にしがみつくのは、構わないんだが、腕を放して手で肩掴むようにしてもらえないか?」

「え・・?」

「いや、分かってないならいい・・。」


今度は切羽つまったようなしゃべり方だった。
まぁ、そのままでいいなら、三橋はこっちの方が安心するから、背中に縋りつきお腹まで腕をまわした。




(胸があってるのは気付いてないのか・・・気付いてくれ!)



阿部の心の叫びは、三橋に届く事は無かった。




合宿兼、練習試合までもう残り少ない日数間迄、
数日だけ、三橋は阿部に帰り送ってもらうことになった。






GWまで、あともう少し。



















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