まだら模様のカーネーション 4 携帯の着信音が三橋の部屋に響く。 この曲はメールの着信音だ。 三橋は携帯を開けて、誰からのメールかを確認した。 from 叶修吾 件名 アイツGW学校にはいない 本文 廉、元気か?GW会えるの楽しみにしてるぞ。 調べてみたんだが、アイツGWは部活の合宿で群馬に居ない うちの野球部の先輩達も遠征で居ない。 とりあえずは平気だと思うが・・・気をつけろよ? 「修ちゃん・・。」 そっか居ないのか、GWの不安材料はどうやら消えた。 続いて、表示を見ると携帯の待ち受け画面はメールの受信中だった。 受信をすると、今度は瑠里からのメールだった。 from 瑠里 件名 少し外見かえたら? 本文 叶から聞いたと思うけど、油断大敵! 帽子深く被って、顔隠したほうがいいよ。 アイツいなくても、いつだれがどこでレンレン見かけて、 アイツの耳に入るかわかんないし! それに、今レンレンの進学先は、先生にも事情を話して極秘にしてもらってるから 見つかったら、元も子もないよ!! 「瑠里も・・。」 二人とも、三橋をとても心配していた。 それはそうだ。あんな事があったのだから・・。 進学を急遽変えなくてはならなくなったのだから・・。 三橋の進学先を知るのは、叶、瑠里と中学の3年だった担任の先生だけだ。 外部を受けるときは、周りからどの学校を受けるかを聞かれるのが常だが、三橋は黙った。 内密にせざるを得なかった事情があったのだ。 だってもう、”あんな事”にはなりたくないから。 親にも、瑠里にも叶にも迷惑はかけたくないのだ。 小さめのスポーツバックに、合宿の荷物が綺麗に入れられている。 横には男の子が被るような帽子があった。 昨日母親に渡されたのだ。これを被れと。 「瑠里も、お母さんもありがとう。」 三橋は、少し大きめのTシャツと、黒の化学繊維で出来たジャージを入れた。 「おはよう!みんな揃ってる?」 GW初日。 西浦高校硬式野球部は合宿に入る。 集合場所は学校。 専用バスももう着いていた。 「あれ?三橋は?」 「そういえばまだ見えないな?」 三橋の姿が見えないことに気付く、田島と泉。 あの目立つ栗色のウェーブの髪の毛が見えない。 「・・あとは、三橋さんだけね!」 百枝は出席簿を確認する。 「わ・・私!ここに・・・居ます!!」 手を上げた存在に気付く。 声は三橋だった。 でもそこに居るのは、どう見ても男の子・・? 「あの・・私・・・です。」 三橋は、深く被った帽子を脱いだ。 中から、三橋のトレードマークである、フワフワな髪の毛と、色素の薄い瞳が顔をだした。 この三橋の格好に、誰もが驚いた。 え?最初の時ぐらい普通の服でいいのよ?と百枝は言ったがそうではないらしい。 誰もが三橋を確認すると、また三橋は帽子を被った。 髪の毛を全部中に入れて、短く見せる。 ダボダボの大きめな服を着て、体型もよくわからなくしている。 どう見ても、ワザとそうしているのは予想がつくが、何故そこまでする必要がなるのだろうか? 「三橋〜、なんでそんな男みたいな格好してんの?」 「え・・と内緒。」 思った事をすぐに口に出す田島は、三橋にすぐさま質問したが、あっけなく内緒で返されてしまった。 元気の無い三橋を見て、田島もそれ以上はつっかからなかった。 聞いてはいけないような感じを、田島は本能で悟った。 バスの中でも、三橋は帽子を取ろうとはしなかった。 むしろ、合宿所に近づくにつれて、その顔は隠しているようだった。 合宿所に着くと、みんなで掃除を始めた。 そうやら、三橋の予想はあっていた。 ここの合宿所の存在を三橋はしっていた。 聞いたことがある。 前に中学時代、野球部が使ったことがあったのだ。 たしか叶がそんなことをいっていた。 代金タダにしてもらう変わりに、施設を綺麗に掃除をしなくてはいけないと・・。 「ここだったのか・・。」 食事も自給自足 三橋は料理はあまり慣れていなく、殆ど篠岡に教わりながらだったが、最後の方はなんとか形になった。 「ね、何で帽子かぶってるの?ここ室内だよ?」 「えっと・・・ごめん、訳は・・きかない、で。」 「そっか、なんか廉ちゃん元気なさそうだし・・。」 「だ、大丈夫!!」 「そうかな〜、気分わるくなったらいつでも言ってね?」 「うん。」 篠岡と三橋はお互い微笑んで、食事の準備を進めた。 食事の前、志賀先生から脳内ホルモンの説明を受けた。 それを実行して、ご飯を食べる。 美味そう!と声をだし、頂きますの挨拶で、夕食はあっという間に終わった。 選手はご飯の後、すぐ浴場へいったが、三橋達は後片付けをした。 「三橋さん、群馬で何かあったの?」 ズバリな百枝の言葉に、三橋は固まった。 「変装みたいな格好してさ、そう思ったの。何か見つからないようにしてる・・。」 「・・・はい。」 「訳は言ってくれないのね。」 「すみません・・。」 流石女の勘は鋭い。 何かいえないわけなのだと百枝を察して、話題を変えた。 「さて、この食器荒いも終わったら私達もお風呂に入っちゃいましょう!」 「「はい!」」 お風呂上り、選手達は楽しそうに枕投げをしていた。 あんなにハードな練習の後でも、まだ動けるなんて凄いなと関心しつつ、明日の起床時間を伝えて女子用の部屋に戻った。 練習は朝から晩まで結構ハードに続いた。 マネージャーも結構、重労労働だった。 山の中にあるところから、買出しは結構かかる。 志賀先生と車で30分はかかる所まで行かないと、ものが買えない。 水を運ぶのも荷物を運ぶのも一苦労だった。 あんまり重いものを持った事ない三橋も、マネージャーを始めてから少しは力がついたのか 人並みに、荷物を運べるようにはなったが、辛かった。 「三橋〜大丈夫か?」 「は・・い。」 「無理しなくていいぞぉ。休憩するか。」 「すみま・・せん。」 案の定足手まといに負い目を感じる。 タダでさえ、テキパキ物事をこなせないのだから、コレぐらい・・・ 「三橋、焦んなくていいよ。時間はゆっくりある。少しずつ上手になっていけばいい。」 「そうだよ!それに実は私も疲れてたからね。」 「・・ありが・・とう、ございます。」 気を使われたけど、この心遣いが三橋は嬉しかった。 少し休憩をした後、再度荷物を合宿所へ運び終えた。 選択、料理、明日のスケジュール。 忙しくて、不安なんかすっとばんでいた。 それでも帽子を深く被る事は忘れない。 ばれないようにしなくては。 三橋廉が今、群馬に来ているという事がバレないようにしなくては。 気がつけば、明日はもう三星学園との練習試合の日だった。 |
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