まだら模様のカーネーション   5






三星学園についても西浦高校野球部は、特に緊張の色を見せることなく順調にアップを始めた。


「あ・・あの・・」

「何?どうしたの?三橋さん」

「きょ・・今日、お願いがあって・・」

「何?言ってみて?」


「その、私・・の事ここでは・・・み・・・三浦って事にして・・くだ、さ・・。」

「三浦?」


「その・・あのここは・・。」


「経営者の孫がいるって事を知られたくないのね。」


三橋はコクコクと首を何度も縦に振った。


(この変装といい、名前を変えるなり何かあるわね。でも、まだ私達には話してくれないのね)


「分かったわ。みんなにも伝えとく。」

「ありがとうございます。」



アップが終わって、皆がベンチへ戻ると、百枝が三橋の事を今日は三浦と呼ぶようにと指示が入った。
三星のことだから、見つかったらややこしい事になると言い訳をして・・。
西浦ナインは特に怪しく思う事無く普通にうなづいた。

金持ちは金持ちなりに、悩み事があるんだなと納得したらしい。




地形を知っているからと、三橋はドリンクの用意を命じられた。
水道の位置も思えている。
どうやら、アイツは叶の情報によると、GWは学校にいない。
姿が分からないほうにしておけば、大丈夫だろう。

アクエリアスの粉と氷を入れて、水を入れて薄める。
試合用に2個用意をしなくてはならない。
まだ一個目だ。早くしないと、試合が始まってします。

篠岡は、三星の生徒にウグイス嬢を頼まれていた。
三星は共学だが、男子と女子に分かれているから、女の子がいてはしゃいでいるのだろう。

三橋は今変装しているから、男の子にしか見えない。
だから、眼が行くのは篠岡だ。


「よいしょっと・・。」


ベンチについて、こう一個のジャグを運び出した。
どうやらもう試合はもう始まってしまっていた。


「もう一個いって・・きます。」

「焦らなくていいからね。まだ始まったばっかりだから!」

「はい!」











三橋も三星の高等部に上がっていれば、この景色を毎日見ることになっていただろう。

男子部と女子部ではちょっと違うかも知れないけど、中等部はほどんど変わりなかった。


「・・・瑠里に会うのはちょっと難しいかな。」



そんな考えをさえぎって、三橋はもう一度水量が沢山入った重いジャグを運んだ。

丁度戻ってきたときが、皆ベンチに戻ってきたときだった。



「よ・・み・・・っと三浦!」


ちゃんと皆名前を変えることを実行してくれていた。


「なぁ、三浦。このメンバー表で知らないヤツ何人いる?」

「えっと・・・4・・6、7・・8番のひと・・しら、ない。」

「四人か。なぁ、知人のクセとか知ってるか?」

「うん!」


三橋は阿部に中学時代の自分が知っている選手の癖を阿部に教えた。
ちょっとスパイみたいと思ったけど、勝つためには相手のデータをそろえて研究する事も大事だ。
三橋は知ってる限りを教えた。

「そっか・・サンキュ。」

攻撃の回は阿部は、メモしたノートを見て、守備のリードを考えている。


みんな一生懸命勝とうとしているんだな。
三橋はスコアをつけながら、この練習試合の行く末を見守った。



















試合の結果は西浦の逆転勝ちだった。

一度、ホームランを打たれて、ヒヤっとさせる部分はあったが、なんとか持ちこたえ逆転をする事が出来た。






夕方、バスがあと10分ぐらいで来るなか、三橋は叶を探していた。


「廉!!」


声のする方を振り向くと、探していた人物の姿がそこにあった。


「修ちゃん!!」


三橋は久しぶりと言わんばかりに、抱きついた。


「久しぶり・・廉。」

叶は力いっぱい三橋を抱きしめた。


「何も変わりないか?」

「大丈夫・・・。」

「そっか、何かあったらちゃんと知らせるんだぞ。」

「うん。」

「こっちも何か動きがあったら、すぐに知らせる。」

「うん・・。」



三橋は叶の服を掴む。
まだ暫くは」こうしていたかったが、集合時間の声が聞こえた。
どうやらバスが到着したみたいだ。


「・・・修ちゃん。」

「何?廉・・。」

「・・・離れたくなかった・・。」

「・・俺もだよ!廉!!」





「も、行くね・・。」

「あぁ・・。」






その二人の光景を影で見ているものがいた。

「アレは・・三橋?と三星のピッチャー?」



「阿部、三橋見つかった。」

「あぁ。こち今向かってるんじゃね?」

「なんだよその疑問系。」

「いや・・。」


「ね、阿部なんかあった?」

「ぁぁ?何でもねぇよ。」

「だって、眉間の皺さっきより増えてるし、なんな怖いよ。」

「うっせぇえ!」


「あ・・三橋!!」

「あ・・栄口君!!」

「ヤベ!!」




”三橋”の言葉はこの敷地内では禁句だった。
試合が終わって、気が抜けたのか、ついつい出してしまったのである。

「バス着いてる。急ごう!」

「うん!」


栄口、三橋と阿部は走って校門へ向かった。



「お帰り、遅かったね。さぁ、乗った乗った!」

百枝が、もう皆をバスに乗せて待っていた。


バスに乗り込もうとしたとき、三橋を呼ぶ声がした。


「廉!」

「修ちゃん。」

「コレ・・。」

叶が三橋に渡したのは、リストバンドだった。

「・・前は突然の引越しだったから、渡せなかった。だから持ってろ!」

「ありがとう!」


最後の三橋がバスに乗り込むと、バスは出発した。



「廉ちゃん、あの人から何貰ったの?」

「リストバンド。」

「あの人と仲よかったの?」

「うん幼馴染。」

「そっか・・。よかったね。」

「うん。」



三橋はリストバンドを強く握り締めた。

















GWは休み無しだった。
合宿を終えた最終日も、朝から部活だった。

野球部に休みなんてないだろう。















「お・・・おはようございます。」

「チーっす!」

「はよ〜。」

「おはよう!三橋!」



GWの最終日から、毎日することが一つ増えた。


瞑想。


志賀から集中とリラックスの根本的な説明が終わり、皆で輪になる。
三橋の右となりが西広で、左隣が阿部だった。
一瞬手を繋ぐのを戸惑ったが、みんな普通につないでいるのを見て三橋は観念して手を繋いだ。

阿部も菱広も三橋の手が以上に冷たいのを意識する。
この5分間二人は、イメージで体温を三橋に送ろうと試みてみたが、三橋の体温が上がる事は無かった。


























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