まだら模様のカーネーション    6




賑やかな町に掛け声が聞こえる。
ランニングをしながら、十数人の男の子が元気良く声を上げていた。


「西浦〜!ファイ、ファイ、ファイ、ファイ、ファイトー!!」


通りかかる人に見守られながら、ある場所へと走り続けた。
先頭は自転車の百枝、後ろの篠岡と三橋が同じく自転車を後追う。
これは少し恥かしかった。



少々時間がかかったが、ある球場へついた。
これから県大会のベスト8をきめる試合を見学すると百枝は言っていた。
微妙と阿部が独り言を言ったのが聞こえたのか、高すぎる目標は良くないと百枝に言われた。
入場手続きをとると、皆で三塁側の席へ座る。


試合は浦和総合対武蔵野第一。



応援席は浦和総合がたくさんの人がスタンドで埋まっている中、武蔵野は人がいなかった。
栄口と水谷が人事ながらちょっとかわいそうなんて言っている。

ここでもどっちが勝つと思う?なんて雑談が始まった。
皆が浦和総合と言い放つ。
武蔵野はどうやら、野球よりもサッカーが強い高校らしい。

埼玉県内の高校事情を知らない三橋は、彼らの会話だけでも為になる。
武蔵野の野球部は人気なさそうだなと、水谷と花井、泉と沖が笑っていたら、
突如武蔵野の野球部の人がフェンスに近づいてきた。
四人は慌てて誰が言った、コイツが言ったと責任転換していたが、選手はそのままフェンスを叩いて誰かを呼んでいるようだ。


「タカヤ!!」


文句を言われると勘違いをしていた四人は、ほっと胸をなでおろした。


「タカヤ!」


武蔵野の選手が呼んでいる人は、分からない。


「タカヤ?」

「誰?」

「知らない。」


タカヤささん呼んでますよ?と泉は後ろにも聞こえるように声をかけるが反応が無かった。
武蔵野選手が起こった声で、文句を言っている。


「あの・・阿部君。」


一番後ろで篠岡と三橋はいたが、篠岡は阿部に話を振った。

「あの人呼んでるんじゃない?」


篠岡は武蔵野の人を指差した。
無視を決め込んでいた阿部は、イヤそうに階段を降りた。

みんなは阿部のことだったのかとか、タカヤというのかと関心を持っている。


「良く知っていたね。」

「マネジだもん知ってるよ。」


ソレくらいと、篠岡は普通だといった。


「スご、い・・。」

「え?」


「まだ・・ちゃんと覚えてないのに・・。」

「え〜大丈夫だよ。」


三橋はみんなの苗字しか覚えていなかった。
マネジだとやぱりもっといろんな事を知らなくてはいけないのか?
三橋は顔を青くしたが、別に普通の時は関係ないよと篠岡は言った。

「三橋、無理しなくてもいいよ。ゆっくり思えればね。」

「うん・・。」




「榛名さんだ!」


「え?」

「何?栄口君?」


「あ、あの人ね、シニアで阿部とバッテリー組んでた人なんだよ。」


栄口はその武蔵野の選手を知っていたようだ。
榛名という名前らしい。

「なんか、カワイイ名前・・だ。」

「でも榛名って苗字だよ?」

「そうな・・の?」

「うん。本名は榛名元希。」

「ふ〜ん。」


栄口は阿部と同じ中学だっただけに結構詳しかった。













「チワス。」

不機嫌そうに阿部が榛名に挨拶をかわす。
そんな阿部を気にすることなく榛名は会話を続けた。

「お前、どこ入ったんだよ。」

「西浦っす。」

「ニシウラ?」

「同じ地区だろ?」


眼鏡をかけた捕手の恰好をした人が、話しに入り込んできた。
どうやら榛名を迎えに来たらしい。
そもそもこれから試合なのだ。
つれてくるのは当たり前だろう。

榛名は野球部のあるところはわかっていたつもりだ。
しかし、榛名のデータに西浦高校は無かった。


「・・?アレ、そういえば軟式だったハズじゃ・・。」

捕手の人はどうやら軟式だと思っていたらしい。
そもそも一度部の歴史を断っているのだから、軟式があるというのを知っているのさえ珍しい。

「今年から硬式になりました。」

阿部はつかさず武蔵野の選手のチェックを欠かさない。
捕手の背番号は12番だった。
正捕手は他にいるが、きっと来年はこの人が榛名のキャッチをするのだろう。
ご愁傷様この上ない。


「・・じゃあ、先輩いねぇのか。お前もつくづく人に従えない性格だよなぁ〜。」

多少イラっとされる発言をされたが、ここで問題は起こしたくない。
阿部は唇を噛む。

「ちょっと何いいにきたんだよ。試合前なんだぞ!」


この場に常識のある人がいてよかった。
榛名と阿部は短気同士、二人だけだったら口論になっていたに違いない。
榛名は4回から投げるからいいといったが、捕手の選手は本気で怒った。
さすがの榛名も観念したらしく大人しくなる。
榛名はこの人のいう事は聞くらしい。


「おい、試合終わるまでいろよ。」

「コッチも団体中なんで。」

「んだぁ?その物言いは!」

「榛名!!!!」

「わぁってるよ!」








「阿部ってあの人と知り合いだったんだな。」

「そうみたいだね。」




「あ、それと・・・おい!そこのフワフワ!!」



「え?」

「はい?」

「フワフワ?」


榛名が大声を上げた。
まだ知り合いがいるのだろうか?


三橋はキョロキョロと辺りを見回すが、フワフワという単語に当てはまる人が見つからない。

「フワフワって・・。」

「もしかして・・。」


近くにいた西広と栄口がたがに顔をあわせて三橋を見る。

「え・・何?」

「三橋のことなんじゃない?」



三橋は自分の指で自分を指した?



「おい!そこのフワフワウェーブ!さっさとこい!」


案の上三橋の事みたいだ。
この中で、髪の毛がウェーブがかかっているのは三橋以外いない。
でも何故三橋が呼ばれるのか分からない。
三橋は榛名を知らない。


(・・・どうしよう。)


ビクビクして階段を降りる。



「あ・・あの・・。」

「へー、近くで見たほうが可愛いな。」

「「はぁ?!」」


阿部も一緒にいた武蔵野の選手も呆れてモノがいえない。


「なぁ、お前名前なんてーの?」

「・・え・・み・・みみ・・みは・・」

「おい、コイツなんかに、教えなくていいぞ。」

「タカヤ!」

「もう!榛名試合始まるぞ!」


グイっと榛名の服をひっぱった。
ベンチで他の選手が手を振っているのが見える。
どうやら長居しすぎたようだ。

「ちぇ・・でもお前タカヤと一緒にいるって事はマネジだろ?別にいいや。またな?フワフワ。」


榛名は嵐の如く去っていった。


「・・・あ、名前・・三橋・・。」

「三橋、ソレ聞こえてねぇから。あと、今度会った時も教えんなよ?」

「????」


なんかムカつくからと、阿部は階段を登った。
でも名前を教えないのは失礼ではないか?
しかし、今度榛名に会うとこなんて、よっぽどの事が無い限りないと思う。
練習試合でも行えば、話はベツだが・・・・。






「榛名〜、試合前にナンパはやめてくれよ。」

「うっせぇ!秋丸、だってアイツすっげぇ可愛いかったんだもん。」

「ま、わからなくも無いけどさ・・・。」

「西浦に行けばアイツ会えるし、今度は携帯番号聞こう!」

「めげないヤツ。」

「さてっと試合、試合。」















試合の結果は

4−3で武蔵野第一高校の勝利だった。


















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