まだら模様のカーネーション   7





試合終了後、榛名はグラウンド整備をしなくていいからダウンの許可を貰ったが、
すぐに球場の外へ出て行った。
一緒にダウンをする許可を貰った秋丸は、榛名の勝手な行動に呆れつつも後を追う。


追いついた時には、完全に外にいた。


「ちょっと、どうしたの?」


「クソ!アイツ待っとけってっつたのに!」

「あ?”タカヤ”シニアで組んでたキャッチャーだよね?」


そういえば、さっき試合前に話していたのが、目つきの悪いシニアのキャチャーの”タカヤ”だったのかと秋丸は理解した。

「え?何でお前知ってんの?」


春名は何故秋丸が、”タカヤ”を知っているのか不思議だ。
中学の頃良くシニアのことを秋丸に話していたのを、完全に榛名は忘れているようだ。
”タカヤ”とう単語は良く出てきていたから、秋丸も覚えていたのだろう。

「アイツ生意気でさ〜。」

「構いすぎるから嫌われるんだよ。」

「違う、本気で生意気なんだよ!!チ!それにあのフワフワもいねぇ!!」


”タカヤ”以外にも、お目当てはいたようだ。
榛名に指名を貰った、可愛そうな女の子。
確かにポワンとおっとりそうな感じの、可愛い子だったと思う。


「榛名・・・さっさと諦めてダウンやるよ。」


「チッ!」


ずっとココにいるわけにも行かないので、榛名は観念して秋丸とクールダウンを始めた。






その日、西浦ではめでたく主将と副主将二名が決まり、
新しく気持ちを切り替えて練習できる日となった。


やはり、主将が決まると部活も大分変わってくる。
みんなの指名だけされただけあって、キャプテンになった花井は面倒見のよさを発揮していた。

外野と、内野にバッテリ−でバランスよく代表が決まり、打ち合わせもしやすい。
ポジションも一つにとどまらず、少ない人数の中で、上手く回れるように
複数のポジションを担当して、もしもの時に備えた。














5月中ごろのことだった。
その日、野球部は練習試合をしていた。
結果は6−2で西浦の勝利だった。



三橋は後片付けで、箱に入ったボールを運んでいる。
どうやらみんなは今日の試合の反省をしているようだ。
グラウンド整備は、負けた学校の試合に出ていない部の子達がやってくれていた。


「わ!」
「キャ!!」


余所見をしていたら、誰かとぶつかった。

「ゴメン〜へんな所ぶつけなかった?」

ぶつかった相手は篠岡だった。

「大・・丈夫。・・・そっちは・・・」

「平気、平気、ぶつかちゃったね。」


どやらボールの入った箱も、こぼれることなくキチント収まっていた。
不幸中の幸いだ。


「あ、そうだ。廉ちゃん今日誕生日だよね?おめでとう!」

「・・!!!」


マネジだから知ってるんだよと、篠岡は可愛く笑った。
今日、5月17日は三橋の誕生日だった。
まさか、ここで祝ってくれるとは思わなかったので、突然のことで三橋は声が出なかった。


午前0時丁度に、叶と瑠里に浜田からメールをもっらってから篠岡は4人目だった。


「あ・・有難う・・。」

「どういたしまして、じゃあね!」


篠岡は、すぐに仕事に戻った。
三橋も汚れたジャージを叩いて、箱を持ち直して物置に運んでいった。












部活の帰り、部室から皆が出てくるのが見えた。
様子を見るとなんかおかしい。


「どうしたんだろう?みんな・・。」

「なんだろう・・ね?」


状況が飲み込めない篠岡と三橋は首をかしげる。


「ね、花井君なにかあった?」

「あぁ、篠岡、三橋。」


どうやら試合の反省の後、中間試験の赤点0命令が出されたらしいが、不安要素が多いらしい。
皆で勉強するにも、場所が見つからなくて困っているのだと花井は言った。


「そうだよね〜10人だもんね。」

「・・・あ・・・」


「何?三橋なんか言った?」


小声で三橋がボソリと言ったのを泉は聞き取った。
そして花井が聞く様に、ヒジで花井の背中を押した。


「え・・っと・・・家・・・きませんか・・・・。」

「え?三橋の家?」


三橋の家だって?と言葉を聴いて、興味津々にみんな話の後ろに群がる。



「だって10人だぞ〜で、篠岡は?」


「私もいいの?」

「モチ・・ロン!!」



三橋は大丈夫だという。
皆内心悟った。
三橋の家は、金持ちで大きいんだと・・・・。



「でもさ、三橋今日誕生日だろ?おじさんとおばさんイロイロ用意してるんじゃないの?」


「え?」

「そうなの?三橋??!」


「うん!今日、誕生・・日だ、よ。」



三橋の普通すぎる態度に、皆がガックリした。




「って事は、勉強の後ご馳走食べられるな〜」

「嘘?マジ」


ご馳走という言葉に、田島が食いついた。
浜田は三橋の誕生日の日は、どういった事になるのか良く覚えていた。

狭いアパートだったけど、皆を部屋に入れてご馳走をいっぱい買ってきて、
皆で楽しく歌を歌ったり、盛大に祝っていたのが懐かしい。


「三橋の家だから毎年盛大にやってんだろ?」

「う・・ん」


「でもいいの?三橋、迷惑じゃ・・。」


「親に連絡入れる。」



祝ってくれる友達を連れてくるのだ、許可しないわけがない。
案の定、すぐ携帯から返信が入り、みんなの分も用意しておくとはいっていた。



三橋の親から了解をもらっと言うと、みんな大喜びで三橋の家に向かう。
まるでどこかの別荘を意識している造りで、オシャレな家である。

やはり、周りとならでいる家より幾分か大きかった。
中も広々としていて、大人数で入っていても窮屈さを感じなかった。




どうやら三橋の親は留守らしい。
それなら静かなうちに勉強を始めようと、早速三橋の部屋に入らせてもらった


女の子らしい可愛い内装で、篠岡が大絶賛だった。
今度お泊り会をしようと、コッソリ約束を取り付けた。



「じゃ、英語は俺。数学は阿部で、古典は栄口な。まずは一時間。」








暫くすると、三橋の母親が帰ってきた。


手土産にたくさんの荷物がある。
どうやらプレゼントもあるらしい。

丁度、宅急便で何個か届いた。


いいとこの令嬢にもなると、誕生日は戦争になる。
玄関はあっという間に、いろんなものに埋め尽くされてしまった。


とりあえず、これでは祝えるものも祝えないので皆で片付けることにした。
お寿司もピザも注文して、フライドチキンまで来るという。
食欲旺盛な男の子が10人も、量も半端ではなかった。


ケーキも2個買ってきて、皆で誕生日パティーの始まりだ。

歌を歌って、大勢でご飯を食べて・・・
どやら、またご飯食べ終わった後、花井がまだ勉強やるぞと言って、みんなからブーイングを浴びている。
しかし、赤点にはかえられなく、みんなシブシブ花井のいう事に従った。


みんなが帰ったと、三橋はプレゼントの箱の中身を開けた。
叶に瑠里、おじいちゃんと、両親からと、父親の会社の人からと、今年は結構多かった。



「と、これで最後だ。」





こうやって皆で祝ってもらうのはギシギシ壮以来だ。


明日また改めて、お礼を言おうと三橋は思った。

次の日、三橋は皆にお礼を言った。
そして、野球部はテスト前はみんなで集まって勉強するようになる。


どうやら今回の中間試験は、一人も赤点者ははいなかった。





















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