まだら模様のカーネーション 9 朝の五時集合。 今日から過酷な練習のはじまりである。 三橋と篠岡のマネージャー達は、集合時間は他のナイン達より遅かった。 しかし、六時半集合でも早いに越した事はない。 仕事の量も多くなった。 帰りもはやりナインより早かったが、ぐっと帰るのが遅くなった。 練習時間が延びた事を伝えてなかった三橋は、初日親に心配をかけてしまった。 もう少し遅ければ、警察に行こうと尚江は慌てふためいていた。 「もう〜、廉。それならそうと言ってよ。」 「ご・・・ごめんなさ、い。」 「実を言うとお母さん反対よ。」 「え・・?」 「普通に文化部に入り直す事は出来ないの?暫くは・・・。」 「イヤダ!」 「廉、何かあってからじゃ遅いのよ?三星の時だって・・・」 「イヤダ!野球・・スキなん、だ!」 「ちょっと・・廉!!」 その日はご飯も食べずに部屋にうずくまった。 次の日から早起きだったから、親の顔を見ずに学校へ行った。 どう説得しても頑固な三橋は折れなかった。 仕方ないと折れたのは両親の方だった。 防犯ブザーを持たせて、気をつけてねと言う位か出来なかったが、 やっとマネジをやる事を認めてくれた親に三橋は感謝した。 この一ヶ月、 浜田の同級生が応援団を結成してくれたり、 篠岡と二人で桐青へ偵察へいったり、データをまとめたり、 多忙な毎日だったが、一人たりとも根を上げる者はいなかった。 RRRRRRRRRRRRRRRRR 三橋家に一本の電話がなった。 夜の時間に電話なんて珍しい。 仕事の事でなにかあったの有ろうか? 最近は、携帯電話の方で用を済ますことがあるからきっと仕事がらみじゃないだろう。 受話器を取ると、花井の母親からだった。 「初めまして、私野球部の花井梓の母親です。」 「まー、いつもお世話になってます。」 「この前は息子に聞いたんだけど、ご馳走になったみたいで・・ごめんなさいね。 あんなムサい男の子が女の子の家に・・・。」 「いいんですよ。廉とても嬉しそうでしたし、それに私料理苦手なんで買ってきたもの並べたでけなんです。」 母親同士の電話は長い。 廉が喉が渇いたと飲み物が冷蔵庫にないかと一階へ降りてきた。 尚江は楽しそうに電話をしていた。 「誰・・・?」 家の電話で話すのは珍しい。 叶の母親だろうか? 「うちはね、監督さんが女性だけあって、女の子の帰りは早いのよ。」 「いいわね〜うちはあと、もう少し時間かかるかしら。」 「男の子だと大変ね〜。」 「あ、うちの子かえってきた。」 「長電話ごめんさいね。」 「いいえ、とんでもない。」 明日開会式があることが、花井の母親から聞いた。 廉が試合に出るわけじゃないから言わなかったのだろう。 ちゃっかり、花井の母親と開会式を見に行く約束をしてしまった。 母親として、どんんあ環境の部活なのか一度は見ておきたいからだ。 「お母さん、誰と電話・・してたの?」 「ん?花井君のお母さんとよ。」 「え?」 「ホラ、廉の誕生日にご馳走になったって、お礼の電話だったのよ。」 「・・・。」 「ホラ、もう寝なさい。」 「うん、おやすみ。」 開会式は快晴。 選手は外で、順番を待っていた。 「廉ちゃん、こっち。」 「わ!!」 各学校のマネージャーたちは、一つの場所へと席が決まっていた。 篠岡は他校に、中学校時代の先輩がいるらしく、待ち合わせをしているらしい。 三橋にもあわせようとしている。 「せんぱーい!!」 「しのーか!久しぶり、抽選会以来だね!」 この二人はどうやら、抽選会にも合っていたようだ。 「で、この子が一緒にマネジやってる子?」 「そうなんです。三橋廉ちゃん。」 「は・・はじめ・・まして。三橋・・です。」 「そんな緊張しないで?」 篠岡の先輩は優しく笑った。 席についてと、軽くジェスチャーした。 「に、しても焼けたね。・・・・って三橋さんは真っ白ね。」 「私はいくら日焼け止めを塗っても落ちちゃって・・。」 「汗と水仕事でね〜。」 「私も廉ちゃんみたいに、部活中は長袖にしようかな?」 「なるほど、だからそんなに白いのか?」 あまりの肌の白さに、篠岡の先輩は不思議がっていたが、 普段長袖を着用している事に、どうやら疑問が解けたようだ。 「・・私・・紫外線弱くて・・。」 「帽子もかぶってるもんね。」 「なるほどね・・私もそうしようかな?」 手と足の肌の色の違いを見比べて、篠岡の先輩はどうしようと考えた。 「そうだ、そうだ、二人とも本命君は決めたかい?」 「「???」」 先輩の言葉に、何を指しているのか分からなかった二人は首をかしげた。 「だーかーらー、今ぐらいでしょ本命が決まる時期は?」 「えっと、・・・」 「いいじゃない、聞いたってふーん、そう。でおわるんだから?で、三橋さんは・・。」 「お!」 「おお!じゃなくて・・・」 「廉ちゃん、抽選会の時と春大会見学で、武蔵野の榛名さんにナンパされてたよね。」 「スッゴーイ!ま、こんだけ可愛いと仕方ないよね。」 三橋は顔を真っ赤にして、どう答えていいか分からなく、グルグルと 思考をはりめぐらしていた。 「え・・と。」 「お、なんか特別な人いるって感じ?」 そんな三橋の反応の、先輩は見逃さない。 篠岡はこの先輩は恋話が好きで、よく根掘り葉掘りくると言っておかなったことに後悔した。 まさか三橋に、そんな人がいるとは思っても見なかったからだ。 「わからない・・・皆いい人。」 「なんだ、篠岡と同じ・・。」 「でも・・大切な人・・いる!」 「待ってました!!」 「ちょっと、先輩!!」 「良いではないか?よいではないか?今の部活の子?」 「修ちゃん!!」 「「え??」」 ”修ちゃん”て誰?と聞こうとしたが、タイミング良く開会式の時間となってしまった。 向かいの席から吹奏楽の演奏が響き渡って、アナウンスが流れた。 お決まりの行進曲が流れて、昨年の優勝高校の桐青がもう姿を見せていた。 「あ、ホラ!西浦出てきたよ。」 「本当だ!歩いている!」 「なんか、当たり前のことに感動するね。」 「うん!!」 篠岡と三橋は祈った。 (どうかみんなが一つでも多くかてますように) 開会式が終わって、みんな一つに固まっていた。 突如花井を呼ぶ声があった。 呼んだのは花井の母親だった。 そして横に、誰かに似ている人が一緒にいた。 花井の母親だと気付いた百枝は挨拶をした。 百枝は後の予定を花井に伝えると、キャプテンらしく花井は皆に指示を出して、みんな荷物をまとめ始めた。 女性監督と聞いていたが、ここまでやり手とは思わなく、息子を宜しく願いします。と花井の母は挨拶をした。 「で、監督さん。この人三橋さんのお母様。」 「やっぱり!似てますよね!」 天然パーマと肌の白さは母親譲りだった。 ちょっと気の弱そうな所も遺伝なのだろうか? 「あの・・・うちの子大丈夫ですか?」 「え・・・?」 モジモジと尚江はうつむいたが、この際ハッキリ言っておいたほうがいいかもしれない。 尚江は思い切っていってみた。 「あのこ、私に似てしょっと気弱なところあって・・・ こういう運動部タイプじゃみんなに不快感を与えるッじゃないかって・・・・。」 「はぁ・・。」 「それにちょっと事情があって、反対だったんです。廉がマネージャーの仕事をやるの・・・。 でも、あの子ったら頑なにやめなかったわ。男の子苦手で会話をするのも怖いくせに・・。」 「大丈夫ですよ。三橋さん、彼女とってもやってくれています。野球が大好きなんですよきっと。」 「そうなんです・・・小さい頃はよく近所の男の子とキャッチボールなんかしてて・・。」 「だから投球が出来るんですね。入部初日、男の子顔負けのピッチングしてて皆に一目置かれてますよ?」 「本当ですか〜?」 信じられないというように、尚江は声を上げた。 花井の母親も高校に入った息子が、中学とはまるで別人のようで感謝をしていた。 よっぽど今の部活が好きで、イキイキしているのが花井の母親の話でわかる。 不安を抱いていたのは、自分だけじゃなかったのかと、尚江は胸をなでおろした。 花井の母親はどうやら父母会の設立を提案していた。 本格的に上を目指すなら、経費もかかる。 花井は百枝がその金銭的な面を全て負担していると、自分の母親にいっていたのだ。 それじゃいけないと、花井の母親は部費も集めて皆で支援しようと、声をかけるつもりでいるらしい。 「そうすれば、オニギリの具なんかも協力できるとおもいます。無論他の飲み物とか・・。」 「はい!有難うございます。」 それからまもなく、西浦高校野球部父母会が設立された。 夏の一回戦まで、あともう少しのところだった。 |
BACK NEXT |