まだら模様のカーネーション   11






西浦高校は順調に三回戦、四回戦へと進んでいった。
昨年の優勝候補、桐青を倒して勝ち進む。
他校が気にするナンバー1の学校になっていた。


五回戦へと進む中、西浦を取材したいと新聞の編集者から依頼があった。
そろそろ来ると思っていた頃だった。
高校野球専門雑誌がある中、埼玉は激戦区。
イロイロな高校がインタビューや取材の依頼はある。

ノーマクーで、無名で一年生しかいない野球チーム。
これでけで十分ネタになるが、桐青を倒したとまできものだ。
編集者の関心は高いだろう。


大会中だから、愛想よく極力情報は与えない。

県大会だから、そこまで詳しく聞かれないだろうと決め込み、
インタビューは監督の百枝だけで行った。


カメラマンと、編集者は百枝にインタビューを終えた後、
少しグラウンドの見学をする。
練習風景や、選手の体つき。
狭いグラウンドの中、他の運動部と分け合って練習をしている。

部員は一年生だけに皆細い。
こんな子達が一体どんな練習で勝ち上がったのかが見たかったが、
練習内容は、他と変わり無いようだ。


「あ、すみません。」

「なんでしょうか?」

「写真を撮りたいんですけど・・。」

「写真ですか?」

「はい、新聞に載せるみなさんの写真。」

「いいですよ。」


編集者は皆の集合写真を希望しているようだ。
百枝は一度練習を中断させると、皆を集める。

「写真取るからみんな笑って。」


カメラマンの人が、皆表情が硬いと注意をするが、
この写真が新聞に載ると思うと全員緊張している。

「あ、そうだマネージャーの子も入ってくれる?」

編集者は全員写したいようだ。
千代は百枝の横に入った。

「ね〜、そこの娘帽子とってくれる?これじゃ顔が見えないよ?」

カメラマンは深く帽子を被っている三橋に、帽子を取るように注意した。


「え・・・。」

「三橋もしかして写真苦手?」

「うん・・映りたくな、い。」

「それじゃダメだよ。全員参加。」

「うう・・〜〜。」

頑なに帽子を取らない三橋。

「じゃぁ、どうしたら映ってくれる?」

帽子を取らない三橋に、カメラマンが機転を働かせる。
長年写真を撮っているからこそ分かるプロの勘。
この子は絶対に映りたくないと思っているのが分かる。

「・・・私だと・・わからなけれ・・・ば・・。」

「え〜三橋それじゃ詰まんなくネ?」

新聞に載るんだから、目立たないとダメだぜと田島は思いっきり笑顔だ。
早くシャッターが切れないかと、今か今かと待ちわびていた。
落ち着けと、花井は注意をする。


「ね、それならこの前みたいに、帽子の中に髪の毛入れて、
 男の子みたいになればいいんじゃない?」

練習試合に見せた変装ならいけるのでは?
そうかと、三橋はすぐに長い髪の毛を帽子の中に入れた。
日焼け防止の長袖のパーカーを着て体型を隠す。

よし、集合写真だから顔も小さく写るし問題ないだろう。


「じゃ、撮るよ。」


シャッターが押されて、無事に西浦の集合写真が撮れた。
これが掲載されるのは、次の埼玉新聞の高校野球の欄だ。








(大丈夫・・かな?)


本当は変装してても写真に写りたくなかった三橋。
幸いにも地方の新聞だから、全国区の新聞じゃないだけマシだったろう。


(埼玉だけしか売ってない新聞なら大丈夫だよね・・・・。)









「あれ?清水さんその写真も使うんですか?」

「ええ。だってあの娘、せっかく可愛いのに顔隠しちゃうんですもの。」

「でもな・・・あの娘何かありそうだよ?」

「え?」

「なんか、顔バラしちゃいけないような・・。」


編集者は、集合写真意外にも練習風景はカメラマンに撮影さておいた。
監督に、選手達に顧問の先生。
そして、選手を支えるマネージャーの姿もある。

「丁度ね、五回戦から隙間が大きいのよ。他の学校も合わせると、一枚ずつじゃ足りなくてさ〜。」

美丞大狭山は男子校だから、こう華が欲しかったところだ。

「この可愛い二人に、”選手を支えるマネジ達”って感じで小さいけど載せたいのよ。」


「何かあっても知りませんよ?」

「大丈夫だって!ハイこれコレを使うからお願いね。」

新聞に載せる写真をカメラマンに渡して、編集者は早速記事にする文章製作に入った。










次の朝、集合写真以外に他の何気ない練習風景画使われている事に
西浦の皆は驚きつつ、嬉しかったり、鼻が高かったりしたが、
一人だけ、顔を真っ青にしたのが一人だけ居た。


「三橋、そうしたんだよ?顔真っ青さぜ?」


今朝の新聞を家出見てきて、三橋は朝から顔色が悪い。
朝練でも真っ青な三橋を見て、戻らせたぐらいだ。
授業が始めるまで保健室で眠らせてもらっている。


「う・・・写真・・。」

「あぁ、コレか?よく撮れてるよな?流石プロだぜ?」

「あ、俺大きく写ってる!三橋も篠岡と一緒に写ってるのあるぜ?」

新聞を広げる浜田に、泉と田島は一緒になって見ている。
田島は自分が大きく写っている写真を見つけて喜んでいた。
浜田と泉は皆の写真を見て笑っている。

三橋は篠岡と一緒に、選手に飲み物を渡しているところを撮られて、
そのまま新聞に載せられてしまった。
そこにいる三橋は、普段の髪をまとめて、7部丈のシャツをきて、下はジャージ。
帽子も少し浅めに被っていて、顔はハッキリと見えている。


「ね・・・ハマちゃん。」

「ん?どうしたんだ?そういえばまだ、顔青いな。今日の練習休んでいいぞ。」

「新聞・・・。」

「あぁ、コレがどうしたの?欲しいのか?」

「違う!!」


三橋の叫びに、野球部以外のクラスの皆が三橋に視線を入れた。
始めてみる興奮している三橋の態度に、何かあると思って浜田はあわてて三橋を宥めた。

「お・・オイ、三橋。皆ビックリしてるじゃないか。落ち着け!」

「どうしたんだよ〜いつもの三橋らしくないゼぜ?」

「大丈夫か?三橋・・。」


息を荒くする三橋に、深呼吸を促す浜田。
呼吸が整って、三橋は新聞を握り締めた。

「コレ・・・埼玉以外で、売ってる・・の?」

「埼玉新聞の事か?そうだな・・・地方の新聞だから全国じゃねぇけど、関東の一部は売ってるよ。」

「!!」

「ね・・・群馬って・・・それ売ってるのかな?」

「埼玉の隣だもんな。コッチでも群馬の地方新聞見かけるぜ?あと千葉な〜。」


浜田の言葉に三橋は目の前が真っ暗になった。
群馬でも売ってる確立は大いに高い。

しかし、アイツは野球なんて興味ないハズだし、そもそも埼玉の新聞なんて買うハズない。
三橋が埼玉にいるなんて知らないから。


「そうか、この前の叶に知らせるのか?三橋も可愛いな〜。」


勝手に予想した浜田が、”修ちゃんに見せたい”と思ったのか、
頭をグリグリを撫でる。
いつもならそれが気持ちいのに、ちっとも気持ちよくない。

不安を紛らわす事さえもなってくれない。


(修ちゃんに・・・頼んでおこう)


三星の野球部員なら、チェックするだろう。
埼玉の高校野球の県大会。

三橋の話題を出さないようにすれば、大丈夫だろう。
そうと決まれば、早速三橋は携帯電話を取り出して、叶にも瑠里にも念の為送っておいた。


三星で、己の名前が一文字でも出ないようにと・・・・・・・・・・
















数日後、三橋宛に差出人の無い手紙が届いた。
封筒だったから、中身に差出人でもあるのだろうか?

三橋に手紙をよこすなんて、群馬の祖父か、瑠里か、叶しか心辺りは無い。

それにその三人なら、前もって連絡が来るはずだ。

難だろうと、部屋に戻って手紙を開けた。



「・・・・あ・・・あぁ・・・・。」


封筒の中から落ちて来たのは写真だった。
バラバラと落ちた写真の被写体は三橋だった。


それも最近のものばかりで、隠し撮りだとすぐに分かるものだ。






一枚の便箋に入っている手紙を見つけた。



ヤット、ミツケタ・・・・。




「いやだ・・イダ・・・!!!」





三橋はそのまま泣き崩れてしまった。















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