まだら模様のカーネーション   12





恐怖で涙が止まらなかった。
現在家にいるのは三橋一人。

両親は共働きで仕事中。
そんな日に限って、今日は仕事が長引くと朝言っていた。

(ヤダヤダ!コワイ!!)


一人で、外へ一歩出ただけで監視される感覚に陥りそうになる。

(お・・お母さん・・!!!)


三橋は慌てて母親の携帯に連絡を入れたが繋がらない。

「お願い・・・繋がって!!」

ピツンと受話器を取る音が聞こえた。


『もしもし、廉?どうしたの?お母さん仕事中なんだけど・・・。』

「お・・母さん!!かえって・・きて!!」

『ちょっと、廉?何?どうしたの?』

娘の尋常ではない声に、流石の尚江も慌てだす。
何かあったのかもしれない。
尚江はすぐに帰ると、三橋に伝えて受話器をきった。

母親が帰ってくると言い安心したのか、三橋はそのままリビングに座り込んだ。


「どうしよう・・。」

散らばっている写真、全てが隠し撮りで最近撮影されたものが多い。
登下校中や、部活で精を出している時。
休みの日に買い物へ出かけているものとよく集めたものだ。

切手を貼り住所まで書かれているあたり、身元も住所もばれている。

母親からお使いを頼まれていたが、買い物所ではない。
今もどこかで見張っているかもしれないのだから・・・・





「只今〜。もー廉どうしたのよ。いきなり電話して〜。」

暫くして尚江はブツブツ文句を言いながら帰ってきてくれた。
ッバタバタと駆け寄り、すぐにドアを閉めて尚江に抱きつく。

「ちょっと廉、さっきから変よ?」

「お母さん・・・・バレちゃった。」

「え・・・一体何?」



「アノ人に・・・・」


「廉?!どういう事?!」



三橋は、片付けた写真と一行だけ書かれてあった手紙を見せた。
尚江もコレを見て、三橋が言いたい事を察した。


「そういう事ね・・・。」

「お母さん・・・。」


「廉、だからお母さん野球部のマネージャーになるの反対だったの。」


今起きてる事が現実にならないように、
出来るだけ三橋を目立たぬように高校生活を送って欲しかったからだ。

「やめない・・・。」

「もう・・・こうなったら、学校に・・・・。」

「やだ!知られたくない!」


クラスの皆や野球の人たちに同情の目で見られるのはイヤだ。
あらぬ噂を立てられるのはいやだ。


「落ち着いて、廉。話すのは大人だけ。
 クラスや部活の皆の耳に入らないようにすればいいんでしょ?
 それにお母さんだって、廉が皆から変な目で見られるのはイヤよ。」

「うん・・・。」


その日の夜、父親が帰ってきてから今後の三橋の事について話し合った。

学校の教員達に訳を話して協力してもらう事。
監督にも念のため話しておくこと
帰りは尚江が迎えに行く。出来ない日は誰かと必ず帰ること。


「・・・これで大丈夫かしらね。」

「警察にも・・。」

「そうね、今は法律もあるし連絡しておいたほうがいいわね。」


「お父さん・・お母さん・・ゴメンなさい。」

「廉のせいじゃないわよ。」










帰りが車となったので、朝の登校は徒歩と電車になった。
人通りの多い場所を歩き、電車の人ごみにまぎれる。

暫くすれば同じ西浦に通う生徒達と合流する為、問題はない。

問題は帰りにある。

三橋と篠岡は女の子のため、阿部たちとは帰りが早い。
遅くとも7時には上がるのだ。
いつもなら自転車をこいで家に向かうが、今日は三橋は昇降口で突っ立ていた。

「あれ?廉ちゃんまだ帰らないの?」

「あ・・えっと今日お迎えあるんだ。」

「そっか、だから今日徒歩だったんだね。じゃ、また明日ね。」

「うん・・!」

篠岡と別れて暫く、見覚えのある車をみつけて車に乗り込んだ。



「大丈夫だった。」

「うん。変な視線も感じないよ。」

「流石に学校にまでは手が出せないみたね。
 警察の人もね、見回りを強化してくれるみたいだから・・。」

「そっか・・。」





夏休みの始め、五回戦は西浦が破れ部活はそのまま悔しさをバネに合宿に入った。
高校には合宿所があって、野球部も今年の夏休みはそこを利用する事になったのだ。


日差しが強く、気温も高い。
そんな中グラウンドには選手達の掛け声が大きく聞こえる。

篠岡は開いてるグランドで水撒きをしていた。
三橋は晩御飯の下ごしらえをしているところだった。
三橋の肌質は紫外線に弱いため、外の仕事は篠岡が引き受けることが多かった。
それは悪いと三橋は断ったが、皆大丈夫と言ってくれたので
室内での部室と合宿所の整理掃除と料理が合宿での三橋の仕事だった。

流石にソレだけでは気が引けるのでちゃんと普通の外でやる仕事もキチンとしている。
さっきまで篠岡と二人で草むしりをしていたところだった。


「お〜い、篠岡!三橋!!」

「あれ?花井君どうしたの?」

「氷が切れちまったんだよ。」

今日の気温は今年の最高気温をマークしていた。
熱中症注意の予報も出ている。

「悪いんだけど、買って来てくれないか?」

「わかった。どうしようか?」

二人一緒に行くわけには行かない。

「私はこのまま草むしりしてるから、廉ちゃん行って来てくれない?」

「え・・・!!!」

三橋はこのまま草むしりをしていたかった。
今丁度篠岡に、ここまま残ると言おうとしたのが先を越されてしまった。

「あの・・わ・・わた・・。」

「お店に入るから涼しいし、廉ちゃん少し休んできなって。」

「そうだな・・三橋顔色悪そうだし・・。頼めるか?」



「え・・う・・・。」

「何だ?どうした?」

「あ、阿部か。氷切れたから買って来てもらおうと思って・・。」

「そうか、ならポカリの粉末もそろそろ切れそうだから頼んでいいか?」

勝手に話が進んでいる。
お金は花井が持っていて、気が付いたら渡されていた。

「三橋氷は二袋でいいからな。ムリするな。」

「じゃ、廉ちゃんゆっくりでいいからお願いね。」

「お前途中でぶっ倒れるなよ。」

「あ・・わわ・・。」


三橋が一言も言えないまま、篠岡は途中の草むしりを始めて
花井、阿部は練習に戻ってしまった。


今この場に志賀先生か百枝がいたらこの状況は少し変わっていたのかもしれない。
しょうがない、合宿の間は学校から外にでる事はないと安心していた三橋も悪い。

今はちょうと日中の時間だし、道には誰かしらいるだろう。
いつもも用に帽子を深く被って、男の子のフリをすれば大丈夫だろう。
三橋は帽子を被り顔して、泥だらけになっているパーカーを着替えて校門の外を出た。



不安は取り越し苦労だったようで、大通りには夏休みのおかげでもあってか
人が多く賑やかだった。

(よかった・・。)


スーパへ入って、言われた氷二袋とポカリの粉末を一箱カゴに入れた。

「よし・・・」

レジへ並ぼうとした時だった・・・

「よ!フワフワ!!」

「ひゃ!!!」


三橋のことを”フワフワ”と呼ぶのは一人しか居ない。

「榛名・・さん。」

「よ!久しぶりだな。廉!おしかったなお前のところ。」

「はい・・。榛名さん・・えっと・・。」


榛名は今日はオフだったらしく、暑いから冷たいものを買いに着たと言った。
支払いを済ませたと、途中まで榛名と三橋は一緒だった。

「そっか、おまえの所合宿中なのか。」

「うん。今・・買出し・・だよ。」

「そっか、エライエライ。」

頭を撫でられて三橋はいい気分になった。

「でも、どうして・・私の、事わかった。。の?」

そういえば、今の三橋の格好はパーカーにスエットのスラックスで帽子を深く被っている。
パット見男の子にも見える感じはしたが、榛名はすぐに三橋と見分けたのである。

「ああ・・あれだよ。お前の放つ小動物オーラでわかる。」

「オーラ?」

「そうそう、黙ってつったてりゃ男に見えるかもしれねぇけど、お前って結構挙動不審で、
 よく周りキョロキョロするだろ。知ってる奴はすぐにお前だった分かるぜ?」

バレたくなければ、行動も男っぽくしろよ?
榛名はアハハと笑う。

「そういえば何で男の格好してるんだよ。」

「日焼け防止・・。」

「そっか、女の子は大変だな。」


じゃ、俺コッチだからと榛名は三橋と違う道へ行こうとする。

「え・・?」

三橋の残念そうな顔に榛名は気をよくした。

「なんだ?そんなに俺と離れるのイヤか?」

ニヤニヤしながら、もう一度三橋の頭を帽子越しで撫でた。
榛名は三橋の被っていた帽子を取ると、三橋の頬にキスをした。


「!!!」

「悪いな。フワフワ、これからロードーワークの時間。お前と一緒にいたいけど、
 俺は日課のトレーニングをサボるのは嫌なんだ。じゃぁな。」

榛名は左の道を曲がって行ってしまった。

「あ・・・。」


三橋は帽子を被り直すと、榛名の不意打ちのせいで落としてしまった袋を拾った。


(ビックリした。)

ここからの場所なら、学校までさほど遠くはない。
大丈夫だろうと三橋は歩き出した。










「いや〜、いい思いしたな〜。ちょっと家から出てみてよかった。」

軽くジョキングをするように榛名は家に向かっていった。
そういえば武蔵野ももうすぐ合宿入るとキャプテンが言っていた事を思い出した。

(コッチの合宿が終わったら顔出してみるか・・。
 それとも俺の合宿とタカヤのところ終わったて間あるかな?)

「そういえば、フワフワに合宿いつ終わるか聞いてないな。」


榛名は元来た道をUターンする。
今のうちに三橋に聞いておこう。


さっき別れた曲がり道のところまで来た。

「と!!!」


曲がろうとしたら、猛スピードで走る車に遭遇した。
急ブレーキをかけながら道を曲がろうとする。


「〜〜〜!!!   ・・・!!〜〜!!」


「え・・・?」


榛名は一瞬誰かに呼ばれたように聞こえたが、周りには誰もいなかった。
さっき目の前を通っていった車だけだ。


「ま、いいか。フワフワ〜?廉〜?」

榛名は三橋の言った道を走り始めた。


「あれ・・これ・・・?」



さっき三橋が持っていた氷とポカリが入っていた袋が落ちていた。
















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