5.17事件   前編







「・・・と以上が当日の予定となります。」


「出ない・・という選択・・権、ない、の?」


「お嬢様、せっかく会長がお嬢様のために立案してくださったのですから、出席していただかないと困ります。」


「イヤ、だ!!」


「お嬢様・・。」



三橋は叫んだと思ったら、いくよい良く部屋から飛び出した。
暫くは帰ってこないだろう。

世間知らずなお嬢様が行くところなんて、限られている。
三橋財閥の会長秘書は、持ってきた荷物を置いて帰った。

パンフレットと洋服。



『三橋廉様 第16回 誕生日祝賀会のお知らせ』と書いてある紙と
祝賀会が行われるホテルのパンフレットと当日に着るドレス。


秘書は三橋のパンフレットとお知らせの紙を、机の上に置きドレスは皺にならないようにハンガーにかけておいた。
























五月中旬をを過ぎた頃、西浦高校では中間テストが行われる。
テストの初日より一週間前から、部活停止のテスト休みに入るのだ。


「なー田島お前どの位ヤバイんだよ?」

「どのくらいヤバイのかワカラネーくらいヤバイ」


田島の返答に、信じられないと花井は肩を落とした。
高校に入って初めての学力テスト。

問題児は田島。

監督の百枝は、赤点を一教科でもだしたら、試合は出さないと宣言している。
あの百枝のいう事だ、彼女に二言はない。

今日は5月17日、丁度テスト一週間前。
今日から放課後の部活は停止である。


みんなで赤点を阻止しようと勉強会をやろうと考案したのだが、肝心の場所がなかった。


当初は先輩の浜田の家でと花井が相談に乗ったが、
浜田は結構成績がギリギリのため、一人で集中したいと断られた。

浜田の成績は泉がよく知っている。
また留年ギリギリで進級したと聞いたので花井はそれ以上追求しなかった。
それに彼には、特別補習があるらしい。
それなら、田島も一緒にやって欲しいと思ったが、学年が違うため何もいえなかった。


「マックはな〜・・・ファミレスとかでも意味ないな・・・っと!!」


考え事をしていたから花井は誰かとぶつかった。


「っとゴメン!!」


「う・・・」


ぶつかったのは女の子だった。


「・・三橋?」


「あ・・花井君。」




「お〜い!花井!」


遠くで田島の声が聞こえた。


花井は今行く〜と合図を送った。
向こうに、野球部の面々が居るのだろう。


「大丈夫?三橋。」

「ゴメンね花井君。」

「いや、俺が余所見してたから、それより怪我ない?」

「大丈夫・・。」

花井は三橋の腕をとって、立ち上がらせた。
三橋はスカートについた埃をはたいた。
顔色は何故か浮かない顔をしていた。
ヤッパリどこか怪我をさせていたのだろうか?


「どうした?三橋。」

「えっと・・その・・・野球部の、みなさん今日何か・・・予定とかあります、か?」

「・・・??えっとみんなで勉強会やるんだけど?」



三橋は何がしたいのか全く持って花井は分からなかった。
それに三橋は吹奏楽部だ。
今は放課後で、最後の授業が終わって大分たっている。
何故こんな時間までいるのだろう?

花井は野球部のメンバーと集まって、勉強会の段取りを決めていたのだが・・・



「花井おせーよ!」


三橋と話していた花井を田島が迎えに来た。


「おっす!三橋じゃん♪」

「・・・こんにちは・・。」


ビクっと一歩下がって三橋は田島に挨拶をした。
三橋はどうやら田島が苦手らしい。
まぁ、あのデリカシーのない言葉遣いなら仕方ないと思う。


「じゃぁな、三橋。俺達これから場所さがさなきゃ・・」

「あの・・!!」


三橋が大きな声で止めた。



何だなんだと花井、田島以外の野球部の部員も集まってきた。


「三橋、なんかあるのか?早く言えよ。」

ひょいとしゃしゃりでた阿部は、三橋に言葉の続きを促した。

「えっと・・みんな・・場所探してるんでしょ・・・」

「ぁぁ・・こんな人数だからな。今日、図書館やってねぇし・・。」

月曜日は図書館は休館日だ。



「あの・・・もしよかった、ら・・家に、きませんか?」



「「「「「「「「「えええ??」」」」」」」」」







「だって三橋だって自分の勉強あるだろ?!」

ありがたい言葉だったけど、花井は遠慮した。
女の子の家に、野郎が9人。はっきりいって異常である。


「いいじゃねぇか!三橋が誘ってくれてるんだし!」

こんな機会を逃したくないのか、阿部はお言葉に甘えようとしている。
阿部以外にも、田島と水谷は三橋の家に興味津々だった。

「でもよ、女の子の家に男が9人お邪魔するんだぜ?」

「三橋〜、親の人とか大丈夫なの?」


栄口もこれはいけないと、三橋に言った。



「親は今日は・・いない。」


(((((((((それって大丈夫なの?!)))))))))


いくら何でもそれは危険。
西浦ーぜは一斉に、田島と阿部に視線を向けた。

「何で俺をみるんだ。」

「お前が一番あぶない。」


「三橋、いくらなんでもそれは駄目だよ〜。せめて親御さんがいる時にお邪魔させてもうらうよ。」


栄口の断りの言葉に、西浦ーぜは三橋に背を向けた。


「まって!!」


一番近くにいた阿部の腕を引っ張ってしまった。



「で、何?」


「あの・・おね、がい・今日じゃないと・・・駄目なん、です。今日来て、下さい。」



























「うわ〜でっけ!」


結局、三橋の勢いに負けて、三橋の家にお邪魔する事になった9人。


三橋の家をみるなり、田島が騒ぐ。


「本当によかったのか?三橋・・。」
「そうそう、だって怖くないの俺達の事・・・」


三橋は少し男性恐怖症があるように見える。
実際そうなのかも知れないが、ちょっと無防備すぎるのでは?
花井と栄口が心配になった。


「うん、今日さえきてくれれば、いい・・。」


今日なにかあるのか?
そんな疑問を振り払い、三橋の部屋に入る。

中は女の子らしい可愛いがシンプルさも忘れていない、清潔な部屋だった。

「広いな〜。」

「すっげぇ!」


「えっと、・・・飲み物もってく、くる。」

「いいよ。そんな気を使わなくて・・。」

「俺手伝うよ。」


花井が腰を上げて、三橋についていった。
ドアが閉まったと同時に、田島はクローゼットを開けた。


「ちょ・・お前、なにしてるんだよ!」

「え?下着確認?」

ちょっとまてというように、全員が田島を止めた。


「お前何やってるんだよ!バレたらマスマス嫌われるぞ!!」

「だって〜気になんだもん!三橋のおっぱいの大きさ。」


ピクンと全員が反応した。
確かに、三橋は他の同じ年の女子より大分発育がよい。
普通に服からでも分かる、胸元の曲線は綺麗に膨らんでいる。

体育の授業はTシャツ一枚になるので、ゆれるのだ。胸が・・

「それにどんな色とかもってるのか・・・」


バタンとドアが開いた。


「お前ら何をやっているんだ?」

花井は青筋を立てていた。
不幸中の幸いで、まだそこには三橋の姿は居なかった。



「さて、始めんぞ、英語は俺、数学は阿部、古典は栄口な!田島は西広のところな!!」


よっし、まずは一時間だと、花井は眼鏡をかけて、勉強を始める合図である。
三橋も、自分の教科書とノートを取り出して、勉強を始めた。



「あの、花井、君。」

「何?三橋?」

「・・つまったら聞いていい?阿部君も・・・栄口君も。」


「モチロン。」
「ああ、いいぜ。」
「場所提供して貰ってるんだ。当たり前だよ。」

「ありがとう・・・。」


三橋はその言葉に安心したのか、自分の勉強を続行した。




部屋の中は、問題の解き方の説明の言葉が飛び交う。




(・・・・どう解くのコレ?)

とうとう、勉強で躓き始めた。数学の応用問題が解けない。
三橋はチラっと阿部を見た。

(確か、数学は阿部君・・。)


三橋は少々阿部が苦手だ。
でも、問題は分からない教えて欲しい。でも、彼は今違う人の問題の解説をしている。


「ん?三橋もか?」

三橋の視線に気付いた阿部が、三橋に声をかけた。


「・・・はい・・。」


「ちょっと待ってろ、こっち終わったらいってやるから。」

「・・・うん。」


今日の阿部はどうやら、だいぶ穏やかであった。
いつもだったら結構ガミガミいいよってきて怖いが、今日はそこまでではない。
よかったと三橋は胸をなでおろした。
阿部は今日は、大人数ではあるが三橋の部屋に入れて機嫌がよかったのだ。

下着こそは見れなかったが、クローゼットの中まで見れて大分満足していたのだ。


「で、三橋はどこわかんないの?」

「ここ・・。」

問題を指差した。
基礎はわかるが、応用が解けないらしい。
基礎が分かってれば、大分教えるのはらくだ。
阿部は、分かりやすいように解説を始めたが、三橋は飲み込みが遅いようだ。


「・・・わかったか?」

「ごめんない・・私、一度覚えれば、大丈、夫なんだけど、その・・・」

「覚えるまでが時間がかかるわけね。」

「はい・・・」

恥かしくて、三橋がちぢこまる。

「別に、まったくわかんねぇ田島より、だいぶいい。わかるまで解説してやる。」

「・・・ありが、とう。」


三橋が応用問題を理解したのは、阿部が3回説明をしおわってからだった。

「ありがとう。」
「別に、・・・おっとつぎあるから、」


阿部は泉に呼ばれて、席をはずした。


時計を見れば、5時を過ぎたところだった。
勉強会を始めて、大分時間が経っていた。










”6時にホテルに着くようにしてくださいね。パーティーは7時からです。”

”・・はい”

”ドレスは一回試着しました?”

”大丈夫です。”

”じゃぁ、必ず来てくださいね!”

”・・・”

”返事は?!”

”はい・・・”


このままいけば、上手くパーティーはサボれそうだ。
三橋の顔が少し緩んだ。


「あの、飲み物たしてく、る。」

「あぁ、そうだな一回休憩するか。」

「じゃぁ今度は俺が手伝うよ。」


栄口が三橋と一緒にキッチンに向かった。



「なんか、三橋今日は楽しそうだね。」

「うん、今日はちょっとね・・・親に、逆らってみ、た。」

「?」

「待ち合わせ、あるの、に・・・無視しちゃった。」


「え?大丈夫なの?」

「いいの・・。」


喧嘩でもしているんだろうか?
栄口はジュースをコップにそそいだ。


人数分の飲み物の用意が出来て、部屋に運び終わったとき、大きく車のクラクションが鳴った。

そして、バタンガタンと家の中で慌しい足音が聞こえてきた。



「やっぱり!ここにいた!!」


バタンと勢い良く部屋を開けられた。



「・・・お嬢様!今日は必ず出席してもらわないと困りますといったでしょう!」

「・・・」


扉を開けた人物は、三橋の祖父の秘書だった。






















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